渡部陽一「1000枚の戦場」とは 

渡部陽一「1000枚の戦場」107~110/1000

写真#107「ワールドトレードセンター爆破事件跡地に建てられたワンワールドトレードセンタービル」渡部陽一氏が2015年9月撮影
渡部陽一氏が撮ってきた膨大な写真の中から1000枚をピックアップし、「戦場のホント」を動画とテキストで解説する「1000枚の戦場」。

​第27回のテーマは「9.11から22年。タリバン政権が復権したアフガンの現状」について。

2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件から、まもなく22年が経ちます。

いわゆる「9.11」が発生した2001年から2011年までの10年間は、主にタリバン政権下で活動していたテロ組織「アルカイダ」に関連するテロが主な脅威だった期間でした。

アルカイダと関係する各地のイスラム過激組織がテロを実行し、「グローバル・ジハード」思想が広がりました。

また欧米では過激な思想に感化された自国育ちのテロリスト「ホームグロウン・テロリスト」によるテロの脅威も浮上。

続く2011年から2021年までの10年間は「アラブの春」によるシリア情勢の不安定化に乗じたISIL(いわゆる「イスラム国」)が台頭。

そして、2021年の8月いっぱいで、アフガニスタンから駐留米軍が撤退すると、タリバンが首都カブールを制圧し、20年ぶりに実権を掌握しています。

「9.11」から現在までのアフガニスタン 

今回はアメリカ同時多発テロ事件から現在まで、約22年間のアフガニスタンに目を向けます。

アメリカ軍がアフガニスタンに駐留した事でどんな変化が起こったのか?

そして米軍の撤退後、タリバン政権が復権した事でどのような状況になってしまったのか?

アフガニスタン事情に詳しい渡部陽一氏が写真とともに解説します。

「9.11」から22年

 こんにちは。戦場カメラマンの渡部陽一です。

 2001年9月11日アメリカ、ニューヨーク・ワールドトレードセンター爆破テロ事件から22年が経過しようとしています。

 当時のアメリカのブッシュ大統領は、テロとの戦いを宣言し、「事件の首謀者であるオサマ・ビンラディンをアメリカ側に引き渡しなさい」と突きつけたのですが、アフガニスタンのタリバン政権は、要求を拒否。

 これによって、アメリカ政府がビンラディンを殺害するために、アフガニスタンに軍事侵攻したのです。

 2001年に始まったアメリカ軍のアフガニスタンへの軍事侵攻。

 そこからアメリカ軍はタリバン政権をすぐに崩し、「アフガニスタンを復興支援していく」という大義で民主的な国家にシフトするために約20年間、NATO北大西洋条約機構という形で駐留していったんです。

米軍駐留で得た女性の自由

 アメリカ軍がアフガニスタン駐留したことによって、大きく変わったこと。

 それは教育事情なんです。

 アフガニスタンのタリバン政権というのは、イスラムの原理主義的な考え方。

 さらにタリバンは中世の時代のイスラム教の国々の考え方、暮らしを現代にそのまま復興させる。

 そこでは家族の暮らしの中では、女性は家の中にいる。

 女の子も自由な教育ではなく、家族を支えていく。

 男性が家族の柱であり、教育、仕事、そしてイスラム教の宗教的な考え方を支えていく。

 その中では、21世紀の子供たちが自由に学ぶ、外で自由に仕事をする。様々なメディアを見る。

 女性がお祭りで、みんなで歌を聞いたり、踊ったりする。

 こうした欧米的な文化を、原理主義的なタリバンが認めることはありませんでした。

「タリバンによって教育を受ける権利を失っていたアフガニスタンの女の子たち」渡部陽一氏が2011年4月に撮影

 米軍が駐留していた20年間の間でたくさんの学校が作られ、女性が外を歩くことができるようになったり、仕事に就くことができるようになりました。

 アフガニスタンという国の中に風が吹き、世界中の国からたくさんの資本も入ってきたんです。

タリバン復権、再び原理主義の道へ

 しかし、2021年8月末にアメリカ軍がアフガニスタンから撤退したことで…タリバン政権が力を取り戻してしまいました。

 現在は、タリバンが武力を使って、アフガニスタン国内を統治しています。

 メディアも言論統制を敷かれていて、世界中のメディア外国メディアが自由に報道することが、ほぼできない状況です。

 ニュースそのものが閉ざされてしまっている。

 多国籍軍がいたことはアフガニスタンの方々にとっては、「自分たちは自分たちの国の政治家で守っていきたい。

 外国の部隊が駐留していることは侵略されているようなものだ」という声は
現実としてありました。

 ただ、米軍(多国籍軍)の兵士がいなくなったことによって、イスラムの原理主義的な考えによって、アフガニスタンの方、特に女性の自由は奪われてしまったのです。〈続きは動画で

《今回のポイント》
①    9.11以降、アメリカ軍が20年ほど、アフガニスタンに駐留していたことで、一時的に女性の教育環境が改善した。
②    2021年8月末にアメリカ軍がアフガニスタンから撤退したことで、タリバンが再び国内を統治し、原理主義に戻り、若者の仕事や女性の教育機会が奪われてしまった。
③    アフガニスタンで、過激派が台頭する原因は「貧困」。
④    「自国ファースト」が世界の連帯を壊し、武力・核を持ったものが世界を制すという理論がまかり通る時代になりつつある

【その他の写真】
・写真8/1000:人道回廊で蜂の巣にされた車

写真12/1000:並ぶ戦車(ウクライナ)
・写真17/1000:溶けたロシア軍戦車
・写真19/1000:広大なひまわり畑
・写真23/1000:忘れられた孤島「スーダン」
・写真27/1000:タリバーンが力を再興させた「アフガニスタン」の今
写真31/1000:新疆ウイグル自治区で暮らす人々
写真35/1000:「トランプ・共和党」熱狂の背景を映した1枚
写真39/1000:金日成・正日が示す威光
・写真46/1000:ウクライナの悲しみを表した赤と黒の旗を羽織る少年
・写真51/1000:頭にボールを乗せるイラクの少年
・写真55/1000:イラクの群衆
・写真61/1000:街中を監視するアフガニスタンの男性セキュリティ
・写真64/1000:
燃やされたウクライナ北西部のアパート
・写真70/1000:シリア国旗のミサンガをつけた避難民
・写真74/1000:ポーランドとウクライナ・キーウを繋ぐ国際列車
・写真78/1000:首都キーウ中央駅のプラットホームで再会する家族
・写真80/1000:ダルフール地方ニャラに設置された難民キャンプ
・写真86/1000:キーウの街中で目にしたアーティストの壁画
・写真87/1000:泥水に覆われた道をトラックで数か月かけて走破したジャングル
・写真91/1000:日本人襲撃テロ事件の現場となったダッカのレストラン、ホーリー・アルチザン・ベーカリー
写真96/1000:世界遺産ハバナ旧市街の街並み
写真101/1000:ロシア軍による軍事占拠を意味するVのマークが記された乗用車
写真104/1000:「ストックホルム中心部にある商業施設」渡部陽一氏が2013年3月撮影

👇毎配信をまとめて視聴は以下より👇 (今回の動画は2023年8月に撮影しました)

 
「現場」でしか知れない、世界のホント

「戦場」の真実をどのくらいの人が理解しているか。戦場にある悲惨な現実。犠牲になるのは子どもたち。一方で、戦場にいる人々は「私たちと同じ」日常を持っている。これも「戦場の本当の姿」――。戦場カメラマン渡部陽一が撮ってきた写真の中から、1000枚をピックアップ。写真とともにその背景を知る。「戦場の真実」と「世界の本当」を学ぶ。

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