「イラクの病院で治療を受けていた男の子」2003年イラクで渡部陽一氏が撮影
渡部陽一です。

ガザ保健当局によると、燃料枯渇の影響などでガザ北部の全病院が14日までに機能を停止しました。

ガザ全体では南部を含め35の病院があり、そのうち25は医療活動を停止。
残る南部の10病院も医薬品や燃料が不足しているということです。

病院への容赦のない攻撃に対して、国際社会からの懸念は強まっています。

今回は「戦場の病院」について。

過去の戦争でも病院が攻撃対象となり、多数の罪のない一般市民の命が奪われました。

なぜ攻撃能力のない患者や子どもたちが集まる病院を狙うのか?

戦場カメラマン・渡部陽一氏が解説します。

INDEX
①    〝病院〟はなぜ〝戦場〟となってしまったのか
②    イスラエル軍が病院への攻撃を止めない理由
③     ウクライナ戦争ではどうだったか?
④     病院が標的、過去にも繰り返されてきた残虐な現実

📷photo lineup
・【イラク】イラクの病院で治療を受けていた男の子
・【イラク】治療を待つ子供に寄り添っていた母親

①〝病院〟はなぜ〝戦場〟となってしまったのか

 イスラエル軍によるガザの病院への攻撃。

 病院はなぜ〝戦場〟に変わってしまったのか。

 ハマスがガザの医療施設や学校の地下施設を戦略拠点にしていることは以前から語られていました。

 ハマスはあえて民間施設と軍事施設を重ねることで防御体制を構築してきた背景があります。

 イスラエル軍は「ハマスが患者や避難民らを〝人間の盾(ヒューマンシールド)(※)〟にして攻撃を続けている」と批判し、攻撃を正当化しました。

 アメリカのシンクタンク「民主主義防衛財団」も、ガザのシファ病院では民間人が「人間の盾」となっており、「ハマスは民間施設を軍事拠点に利用してきた長い歴史がある」と指摘。

 同時にガザの面積は日本の種子島ほどしかなく、民間施設がハマスの地下軍事施設と重なってしまうことも事実です。

 戦争において、「相手国のライフラインを壊滅させること」は戦略をたてるうえでの土台にあります。イスラエルはガザのライフラインであり、軍事施設でもあった病院を攻撃したのです。

 〝病院への攻撃〟というのは国際法違反と指摘されるのですが、戦時下では法律という概念が消え去り、残虐な現実が生まれることも事実です。

※「人間の盾(ヒューマンシールド)」。
世界各国の紛争地で繰り返されてきた手法。戦争や紛争において、敵が攻撃目標とする施設の内部や周囲に民間人を配置するなどして、攻撃を牽制すること。ジュネーブ条約では戦争犯罪とみなされる。

② イスラエル軍が病院への攻撃を止めない理由

 1948年5月14日、ユダヤ人国家イスラエルが建国された背景には、「二度とユダヤ人の虐殺を世界で起こさせない」という考えがあります。

 数千年に及ぶ迫害の歴史を突きつけられてきたユダヤ人にとって、今回、約1200人(15日時点)の自国民がハマスに殺害されたことはホロコーストに重なる悲劇と捉えられているようです。...