桶狭間合戦、関ヶ原合戦など、いまだ謎多き戦国合戦を最新研究と独自の考察で解き明かす『戦国大変 決断を迫られた武将たち』(発行:(株)日本ビジネスプレス 発売:ワニブックス)​が発売中の乃至政彦氏。連載中の「ジャンヌ・ダルクまたは聖女の行進」、今回は主役はリッシュモン。

フランス王国軍司令官に抜擢されたリッシュモン元帥は、シャルル7世陣営の意見統一のため、宮廷内の抵抗勢力を粛清するよう尽力するが、自身が推薦した侍従長の裏切りに遭い、宮廷を追放されてしまう。

イングランド軍はこの機に乗じて、オルレアンに進軍を開始。オルレアンの領主はイングランドに幽閉されており、その領地を攻めるなど、騎士道に反する行為だったが、それでもここで遠慮していては、英仏の統一は不可能と判断したようだ。

オルレアンの南方100キロ先には、シャルル7世がいるため、これはイングランド軍にとって好機だが、シャルル7世にとっては最悪の状況だった。

(1)はじめに
(2)序章 ジャンヌ・ダルクと平将門①

(3)序章 ジャンヌ・ダルクと平将門②
(4)第一章 村娘の冒険①
(5)第一章 村娘の冒険②
(6)百年戦争とフランス王国の分裂
(7)ブルゴーニュ派とアルマニャック派とイングランド

(8)シャルル7世の義母ヨランド
(9)リッシュモンの活躍
・憎まれ役に抜擢されたリッシュモン
・ブルゴーニュ派を味方につけよう
・オルレアンに迫る影
・無力なシャルル7世
シノンの城下町 撮影/神島真生(以下同)

憎まれ役に抜擢されたリッシュモン

 1425年に、フランス王軍司令官すなわち元帥となったリッシュモンだが、肝心のフランス王国に実質的な威勢がない。国王を称するシャルル7世を推戴する以上、王国を名乗る資格を有してはいる。

 リッシュモンはその王国では2番目に高い権力を付与されたわけだが、別に高い実績があるわけではない。王族の1人であるというような特別の血筋にあるものでもない。

 そんな人物に与えられる役職であるから、どれほど歴史と格式がある役職だったとしても、今はもう実益があまりない。だが、肩書きも人間も使いようである。

 時代が安定していたら、有名無実の役職に価値はない。しかし今は世が乱れている。パンがないなら、奪って仕舞えばいいじゃないと、空っぽの器の中身に思うまま物を詰め込んでいく楽しさがある。

 リッシュモンはやる気があった。

 そしてやるべき仕事があった。

 アジャンクールの敗戦以来、揺れているフランス王国すなわちシャルル7世陣営の意識を統一することである。これまで敵対していた者たちとも連合を組み直さなければ、イングランドの脅威に立ち向かえないが、フランス王国側が敵味方に分かれてたら、話にならない。過去の因縁からあの貴族とは組めない、あの公国は嫌だと言っていられないのである。

 そこで陣営内の過激派を粛清する。これがリッシュモン第一の使命であった。言うなれば憎まれ役である。

ブルゴーニュ派を味方につけよう

シノン城下、ヴィエンヌ川のほとり

 1424年、ヨランド・ダラゴンの働きかけにより、ブルゴーニュ公国のフィリップ3世は、過去に確執のあったフランスのシャルル7世を新国王と認めた。

 しかし、元王太子を国王と認めただけで、その政治に悪影響を与えている君側の奸と親密にするつもりはない。停戦交渉は始まったばかりなのだ。...