歴史家・乃至政彦が話題の歴史本を紹介するシリーズ。 今回は名作映画、4K版が発売されている黒澤明の『七人の侍』の70周年を記念し、戦国時代の村人の「武装」について考察します。

「七人の侍 4K リマスター 4K Ultra HD(Blu-ray)」ジャケット写真より

黒澤明『七人の侍』4K版発売

 2023年、黒澤明の映画『七人の侍』(東宝、1954)の4K リマスター版Ultra HD [Blu-ray]が発売された。

 劇場で4K版が上映された時も思ったが、もとのフィルムでは見えなかった遠方にある野武士の顔やガヤ声のような音声も明確に見聞きすることができ、人類最高の傑作映画を、現段階もっとも高いクオリティで(しかも自室で)鑑賞できるようになったのはとてもありがたい。

 ただしPlayStation4では見られないが、5なら見られるという具合で、普通のBlu-ray再生機ではなく、ウルトラハードディスクに対応するものでないと鑑賞できないので要注意だ。

 もちろん普通のBlu-ray版も発売しており、こちらの画質も美しいので、どちらで購入しても後悔することはないだろう。

 ところで、戦国の映像作品にありがちなことだが、『七人の侍』もまた「史実とは違う」という声がある。場所や人物はいずれも架空の設定だが、時代は劇中で「天正14年(1586)」であることが明らかにされているから、舞台は戦国末期のものであることがわかる。

 ここから、特に「当時の百姓は武装しており、侍にペコペコしながら助けを求めるのはおかしいのでは?」という指摘をされることがある。

 今回はこの批判の妥当性について検証してみよう。

菊千代の叫び

 登場する百姓(農民)たちは平時には非武装で、盗賊集団と化した野伏たちに抗する術がなく、ほとんど無抵抗だった。しかし劇中で実際の彼らは「落ち武者狩り」をして侍の武装品を略奪することがあったとされている。...