この夏、劇場版「無限城編」が公開される『鬼滅の刃』。シンクロナスのコンテンツ「歴史の部屋」でお馴染みの乃至政彦さんが、歴史家ならではの視点で、作品世界の「歴史の謎」に挑みます。

最終回に登場した『善逸伝』は、本当に善逸が書いたのか?鬼殺隊はなぜ「非公認」のまま活動できたのか?無惨のあの「パワハラ会議」に、実は超合理的な戦略が隠されていたとしたら?物語最大の謎、無惨と産屋敷家の千年の因縁の起源とは? 最強の鬼・無惨が、なぜついに「千年王国」を築けなかったのか……。

第2回のテーマは「鬼殺隊」。主人公・竈門炭治郎も所属し、鬼退治を専門とする組織の、成り立ちと時代との関係性についてお届けする。

作品を愛する著者が、歴史という補助線を引くことで導いた考察をお楽しみください。

【ネタバレ有り】
この記事には『鬼滅の刃』第23巻に掲載されている最終話のネタバレが書かれています。未読の方はご注意ください。

鬼殺隊の成立時期

 人気漫画『鬼滅の刃』には、考察したくなるところがたくさんある。今回は「鬼殺隊」の歴史を考えてみよう。

 作中で明記されてはいないが、鬼舞辻無惨の滅殺を願う彼ら鬼狩りが千年以上暗闘している歴史と、大正時代に「政府非公認」なのに目立つ隊服を着て、帯刀する様子から、明確な組織化は、意外にも明治以降なのではないかと推測される。

 鬼殺隊は「人間に仇なす鬼」を滅殺する(殺して滅ぼす)ための組織だ。ただしその存在は「政府から正式に認められていない」(第4話)という。政府は鬼の存在を認めていないので(知らないだけかもしれない)、鬼を滅殺する組織もまた非公式なのだ。すると鬼殺隊は民間に運営される非合法な組織で、あるいは反社会的勢力または犯罪組織である恐れもありそうだ。

 彼ら鬼殺隊は「古(いにしえ)より存在していて今日も鬼を狩る」と概説されているように、かなり長い年月の間、鬼狩りを本義として、作品舞台の大正時代も変わらない使命として受け継がれている。

 だが、この組織がいつ作られて、どのような背景をもっているのか朦朧としており、詳しいことがわかっていない。

 とはいえ、これを探るための手がかりがないわけでもない。ここでは公式情報に、いくばくかの歴史知識を交えることで、その成立背景を考察してみよう。

 最初に言っておくと、わたしは鬼殺隊という組織は、明治時代に成立したと考えている。

大正時代の鬼殺隊

 まずは大正時代の鬼殺隊が社会的にどのような位置付けにあったのか、そこから考えてみたい。...