この夏、劇場版「無限城編」が公開される『鬼滅の刃』。シンクロナスのコンテンツ「歴史の部屋」でお馴染みの乃至政彦さんが、歴史家ならではの視点で、作品世界の「歴史の謎」に挑みます。

最終回に登場した『善逸伝』は、本当に善逸が書いたのか?鬼殺隊はなぜ「非公認」のまま活動できたのか?無惨のあの「パワハラ会議」に、実は超合理的な戦略が隠されていたとしたら?物語最大の謎、無惨と産屋敷家の千年の因縁の起源とは? 最強の鬼・無惨が、なぜついに「千年王国」を築けなかったのか……。

第3回は鬼舞辻無惨「パワハラ会議」について、組織運営の視点からその合理性について考えてみる。貴重な戦力である下弦の鬼を完全粛清した無惨の真意とは?

作品を愛する著者が、歴史という補助線を引くことで導いた考察をお楽しみください。

【ネタバレ有り】
この記事には『鬼滅の刃』第23巻に掲載されている最終話のネタバレが書かれています。未読の方はご注意ください。

『善逸伝』の考察修正

 まず最初に、以前行なった『善逸伝』の考察に修正すべき内容があったことを述べておく。本年、発見された新出史料(吾峠呼世晴『鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録・弍』集英社・2021)により、『善逸伝』の作者が我妻善逸本人であることが確認された。

 描写から想像するに三人称で描かれ、またその子孫が読んでいたのも原本ではなく、写本であろうことが推測できる。仮説を打ち立てるための情報の取捨選択、および思考プロセスは誤っていなかったが、結論がいささか不正確になったことをお詫びしておきたい。

 さて今回は鬼殺隊ではなく、彼らが追う鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)について考えていく。前回に予告した「鬼舞辻無惨の千年史」はまた今度に譲るとして、ここでは無惨のパワハラ会議と呼ばれる「冷酷無情」な“下弦の鬼解体事件”(俗称「無惨パワハラ会議」)を見てみよう。

 無惨は、なぜ下弦の鬼たちを完全粛清することになったのか?

下弦の鬼はなぜ解体されたのか

 無惨には、十二鬼月という直属の部下がいる。無惨の幹部である。その序列は個体別の戦闘力で定められ、上弦の鬼は壱から陸(ろく)、下弦の鬼も壱から陸がいて、「一番強いのは上弦の壱 一番弱いのは下弦の陸」だという。下弦の鬼はそれでもほかの鬼を圧倒する強さを誇り、鬼殺隊でも「柱」クラスの実力がなければ倒せないと見られている。...