この夏、劇場版「無限城編」が公開される『鬼滅の刃』。シンクロナスのコンテンツ「歴史の部屋」でお馴染みの乃至政彦さんが、歴史家ならではの視点で、作品世界の「歴史の謎」に挑みます。
最終回に登場した『善逸伝』は、本当に善逸が書いたのか?鬼殺隊はなぜ「非公認」のまま活動できたのか?無惨のあの「パワハラ会議」に、実は超合理的な戦略が隠されていたとしたら?物語最大の謎、無惨と産屋敷家の千年の因縁の起源とは? 最強の鬼・無惨が、なぜついに「千年王国」を築けなかったのか……。
第6回は「鬼舞辻無惨の千年史」の最終回、鬼舞辻無惨と産屋敷一族、因縁の始まりに迫る。
作品を愛する著者が、歴史という補助線を引くことで導いた考察をお楽しみください。
この記事には『鬼滅の刃』第23巻に掲載されている最終話のネタバレが書かれています。未読の方はご注意ください。
鬼舞辻無惨と産屋敷一族の始祖
前回、産屋敷一族の始祖が無惨の弟と推定する見解を述べた。今回はその推定をベースにして、鬼舞辻無惨の千年史を見ていこう。
人気漫画『鬼滅の刃』に登場する産屋敷耀哉は、一言でいうと異能の一族である。しかし耀哉の生命力はとても儚く、わずか23歳で命の灯火を消してしまう。「限りなく完璧に近い生物」(第14話)を自認する鬼舞辻無惨とは、その個体性能において隔絶していた。
産屋敷一族は「我が一族の誰も……三十年と生きられない…」という虚弱体質であった(第137話)。無惨と「同じ血筋」であるというのに、どうしてここまでの実力差がついたのだろうか。
すべては無惨の歴史に手がかりがある。
初期の無惨と産屋敷の始祖に、まだ大きな力の差などなかっただろう。双子の兄弟は、どちらも難病に苦しむ人間で、「善良な医者」がその完治に向けて工夫を重ねていた(第127話)。
きっと治療が順調に進めば、どちらも健全な肉体を取り戻し、ごく普通の一生を終えたことだろう。だが、無惨兄弟は薬の副作用で、とてつもない異能の力を授かった。しかも医者の説明が不足していたのか、病状が悪化することに腹を立てた無惨が、「怪物」のような衝動に駆られて善良な医者を殺害してしまう。
事後に知ったことだが、無惨の体調は回復に向かっていた。「医者の薬が効いていた」のだ。それどころか無惨は強靭な不死身の肉体を得ていた。ただし日の光を浴びると焼け死んでしまい、跡形も残らなくなってしまうという副作用も受けてしまっていた。
無惨が調べたところ、医者も暗中模索の最中で、投薬は「試作の段階」であり、やがて「青い彼岸花」という薬を使う予定でいたことが、医者の作った調合の記録から判明した。そしてその「青い彼岸花」に関する手がかりは何もなかった。
ここに2人は、完治への道を絶たれたのである。
無惨が最初に得た異能
無惨はこの時すでに複数の異能を手に入れていた。最初期に持っていた異能の1つで確実なのは日光で焼死することへの本能的察知である。無惨および無惨が作った鬼たちは「血の種類や病気 遺伝子など 人間に判らないこと」が判断できるという(第74話)。無惨は細胞単位の生物情報を判別する知覚能力があるのだ。自身が太陽の光を浴びると死ぬと察したのは、この異能を得ていたからだろう。...