この夏、劇場版「無限城編」が公開される『鬼滅の刃』。シンクロナスのコンテンツ「歴史の部屋」でお馴染みの乃至政彦さんが、歴史家ならではの視点で、作品世界の「歴史の謎」に挑みます。
最終回に登場した『善逸伝』は、本当に善逸が書いたのか?鬼殺隊はなぜ「非公認」のまま活動できたのか?無惨のあの「パワハラ会議」に、実は超合理的な戦略が隠されていたとしたら?物語最大の謎、無惨と産屋敷家の千年の因縁の起源とは? 最強の鬼・無惨が、なぜついに「千年王国」を築けなかったのか……。
第5回のテーマは前回に引き続き「鬼舞辻無惨の千年史」として無惨の誕生秘話に迫りながら、巷で話題になっている考察「無惨=平将門」説について、歴史家視点で紐解いてみる。
作品を愛する著者が、歴史という補助線を引くことで導いた考察をお楽しみください。
この記事には『鬼滅の刃』第23巻に掲載されている最終話のネタバレが書かれています。未読の方はご注意ください。
鬼舞辻無惨の誕生
鬼舞辻無惨は平安時代の生まれである。
作中世界は大正年間の時代なので、西暦にすると1912〜26年である。第11話で鱗滝左近次が、無惨のことを「今から千年以上前」に「一番始めに鬼になった者」と説明していることから、無惨が鬼になったのは912〜26年よりいくらか昔のことと推定される(第11話)。もしキッカリ1000年前のことなら、左近次も「ちょうど千年前」と言うはずなので、もう数年ズレる計算となる。
ところでこの「千年以上前」を、ある歴史人物が生まれた時代ではないかと見る人もいるらしい。また作品の舞台にその人物の関連史跡との繋がりがあるらしいことから、無惨の前歴と重なるのではないかとする説もある。
その人物とは平将門──。わたしが過去に『平将門と天慶の乱』(講談社現代新書)で主役格に置いた人物である。今回はその是非をここで論じていくことにしよう。
鬼舞辻無惨と平将門の生まれ年
無惨は平安時代に、貴族として生まれ育った。鬼になった年齢は不明ながら、外見上の年齢は、産屋敷あまねが「二十代半ばから後半あたりの男性に見えます」と述べており(第137話)、人間時代も「二十歳になる前に死ぬと言われていた」のを延命されていた(第127話)。...