いまや何かを決め、判断するとき「データ」を欠かすことはできない。政策であろうが、ビジネスの決定であろうが、はたまた調査を分析するにしても、経験や直感だけに頼らず「データ」を取り、活用することが求められている。

 それくらい多くの人にとって安心感があるのが「データ」なのだ。

 一方で、使い方、捉え方ひとつで全く違った一面を見せてしまうのが「データ」だ。

 正しいと思って取った戦略がうまくいかないとき、そのデータのとり方や見方、活用法が間違っているなんてことはいくらでもある。

 だから、データをうまく利用していくには、そのデータをしっかりと活用する「データリテラシー」を鍛えなければいけない。

 『長野智子 データの裏側』ではそんなデータが現代にどう扱われているのかを取り上げながら、データリテラシーを鍛えていく。

 これまで「少子化」や「物価」、そして「世論調査」など社会にある誰もが一度は見聞きした「データ」について、その危うさ、何がミスリードを誘っているのか、どうしてそうなってしまうのか、を徹底解説してきた。

 今回はその配信内容のひとつをテキストでご紹介する。

「『物価上昇を実感していない』人がいます。なぜ?』回より

「データは嘘をつかない。データを使う人が嘘をつく」。森永康平氏はそう言い、一つのシミュレーションを行った。今回紹介するのは「物価」と「賃金」にまつわるデータ。ちょっと、驚き。

👉https://www.synchronous.jp/articles/-/828

「生のデータ」の「背景」にあるものを見落とさない

 多くのメディアや政府関係者が「日本経済はコロナ前の水準を回復した」といっている。確かに以前に比べればコロナによる社会的なリスクは減り、全体的に回復傾向にあるような気はする。

 ただ「コロナ前の水準を回復」と言われると、納得いかない人も多いのではないだろうか。実際、このデータの使い方にはトリックがある。

長野 森永さん、これから私たちが、正しく現状や未来を予測するという意味でも、経済データの見方で、特に注意すべきことはありますか?

森永 「生のデータを見ましょう」ということです。

長野 生のデータ。

森永 いくつか事例を出したいと思うんですが……

 

 この表に示したのは、2018年の第1四半期(1月~3月)から2022年の第3四半期(7月~9月)までの「実質GDP(実額)の推移」をグラフにしたものです。

 簡単にいえば、GDP=国内総生産というのは、一国の経済の規模、つまり、ホントの国の実力だと、なんとなく思ってください。

 このGDPについて、最近、メディアが何をいっているかというと、「日本のGDPは、コロナ前の水準を回復した」という言い方をしているわけです。

 そこで、「生のデータを見てみましょう」ということで、グラフにしてみました。いちばん新しいデータである2022年の第3四半期(7月~9月)のところを見ていただくと、543.6兆円となっています。

 さて、メディアがいっている「コロナ前」とはいつなのか?

 日本におけるコロナ感染は、2020年の1月から始まったとされていますから、2020年の第1四半期(1月~3月)のひとつ前ということで、2019年の第4四半期(10月~12月)がこれに該当します。

 2019年の第4四半期(10月~12月)の実質GDPの金額は、540.7兆円ですから、たしかにコロナ前の水準を上回っているというのは、ウソではないわけです。

 そして、このデータを基に、わが国の政府は何をいっているか?

「もう日本経済は、コロナ禍で受けた経済減速を、すべて回復しました」というわけです。

 そこで、「いや、ちょっと待て!」という話になるんですね。

長野 というのは……?

間違ってはないけどミスリードを誘うデータ

森永 この「コロナ前」といっている2019年第4四半期(10月~12月)の1つ前を見ていただくと、実質GDPは557兆円あります。

 

 ですから、2019年の第3四半期(7月~9月)から見たら、全然、まだ回復していないわけです。

長野 確かに。コロナ前には回復しているけれどコロナ前が低かった……しかも特に落ち込んでいるタイミングですね?

森永 はい。まさに、次に気にしておきたいことはそこで、なぜ2019年の第3四半期(7月~9月)と第4四半期(10月~12月)の間に、こんなに大きな減額があったのか? というところなんです。

 この間に、何があったんだっけ? 国が、あることをやってしまったんですね。

長野 消費税の増税だ。

森永 そうです。消費税の税率を、8%から10%に引き上げたんです。

 先ほど、GDPって、一国の経済力っていいましたけど、内訳を見てみると、そのうちの6割は、僕らの消費した金額なんですよ。

 消費税に関して僕は、「消費することに対する罰金」だと思っています。

 だって、1000円のモノを買ったときに、なぜか余分に100円、払わなきゃいけないわけですから。

 100円分、何か貰えるわけじゃないのに、払わされているわけです。ということは、消費税を上げるということは、GDPの6割を占めている消費を冷やすことになるから、増税した結果、グッと消費が落ちてしまったわけなんですよね。

 だから政府が「コロナ前の水準を回復した」ってエラそうにいうけど、「いや、ちょっと待て!」と。

 これは、自分たちで決めた増税のせいで落ちた地点と比べて、プラスになっているだけであって、本来、政治家が目指さなきゃいけないのは、増税する前の水準である557兆円よりも超える――もっと言えば、あの速度で成長してたら、おそらく今、580兆円くらいになっていたはずだろうから――ことのはずです。

 これは、メディアを目だけで追っているだけの人からすると「ああ、たしかに、コロナ前より回復しているんだあ」って、なんとなく思ってしまう。

「じゃあ、増税されても仕方ないか」とさえ思わされますよね。話が終わってしまうわけです。

 だから「ちゃんと生のデータを見ましょう」。これがまず大事です。

長野 確かに。2019年のときも、これ、ガクッと落ちてる感があるけど、引き続き、ずっと、デフレで本当に不景気。実質賃金も上がらず……そういう状況のなかで、消費税を上げたんですよね。

森永 さらにいうと、2014年も、全く同じ状態だったのに、消費税を5%から8%に引き上げているわけですから、「何してんの!」っていう(笑)。

 データを見れば、今、政府がやろうとしてることっていうのが、「明らかに、おかしい!」と言える。これが「生のデータを見る」必要性に対する一つ目の例です。

【全配信は以下から】
前編:「物価上昇を実感していない」人がいます。なぜ?」
中編:「給料が上がっていないのに、“賃金は上がってる”論の怪を解く。」
後編:「日本人はインフレが起きてもモノを買う」を示すグラフにある罠。

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本コンテンツでは、ジャーナリストの長野智子さんを編集長に、重要なニュースやテーマにまつわる「データ」をピックアップ(音声)。その数字が示していることについて会議・取材(動画)をし、最後にまとめ(記事)ていきます。
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