(写真:kapinon / PIXTA)

2020年に香川県で試行された、通称「ゲーム条例」。この条例に基づいて教育現場で配布された資料の科学的根拠をめぐって、研究者やメディアから批判の声が上がったのをご存じでしょうか?

問題となったのは、2020年度から県内の全ての小中学生に配布されるようになった「ネット・ゲーム依存予防対策学習シート」。この学習シートには、科学的見地から複数の問題があることが指摘されていました(※1)。

  • 「スマホの利用時間と成績」の相関関係を表す折れ線グラフが、「スマホの利用時間が長いほど、成績が悪くなる」という因果関係を示すものとして掲載されている。しかし、両者の関係は疑似相関である可能性があり、両者の因果関係は科学的に示されていない。
  • 「ゲームに依存してしまうと、感情や思考を司る脳の一部が変化してしまう」という因果関係を示すとされる図が掲載されているが、このケースでも因果関係の存在は確かでない。

いずれの場合も、学習シートは、既存の研究論文の一部を不適切な仕方で解釈して元論文が述べていないことを断定してしまっているのです。こうした記述の一部は2024年版の学習シート改訂時に修正されましたが、それでも一部の記述は改訂されないまま2024年版に残されました(※1)。

香川県教育委員会は、この件に関する専門学会からの質問状に回答するのを避けました。そして、問題視された記述を修正しなかったことについて、「(脳への影響という)伝え方を残した方がいいというのが今年の判断」と述べて問題の解決を先送りにしたのです。

この事例から見て取れる疑似科学がもつ特徴は、「批判が向けられたとしてものらりくらりと返答が避けられたり、関連する責任の所在が曖昧にされたりといった仕方で、『ぬるっと』私たちの日常に入り込んでくる」という点です。疑似科学は、非常に「地味」で巧妙なのだ、と言えます。

では、私たちは、このように巧妙な疑似科学にどうやって向き合っていくことができるのでしょうか? 

この問いは、広く言って「ELSI」の一つとして位置づけることができるでしょう。先端的技術の社会実装に伴う諸課題は、一般に「倫理的・法的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues)」の頭文字をとって「ELSI」と呼ばれます。そして、技術革新が著しい現代において、このELSIに関する深い理解を持つことは、ビジネスを前進させる大きな価値を持つようになっています。

「ELSI最前線」では、各領域の専門家が注目の事例を取り上げて論点を解説します。

今回のテーマは「日常に侵入する疑似科学」

  • 疑似科学に対する批判が原理的に難しいのはどうしてか?
  • 疑似科学問題は誰によって、どのような仕方で解決されうるのか?

といった論点について、倫理学の専門家である長門裕介氏が全3回の連載で解きほぐします。

科学のような装いをしているが実際は科学とは見なされないようなものは「疑似科学」と呼ばれる。前述したような派手な疑似科学ではなく、もっと地味で...続きを読む
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(※1)【解説】ネット・ゲーム依存対策の学習シート 誤り指摘…どう変わった? 香川 | KSBニュース

(編集協力:原虎太郎)

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