(Photo by Syda Productions / PIXTA)

私たちの食卓を支える牛や豚などの畜産業で、家畜の状態や感情を可視化する技術に期待が集まっています。

2025年2月に出版された論文において、ヨーロッパの研究チームは、ウシやブタ、イノシシ等の鳴き声を分析し、そこに含まれる感情を分類するモデルを構築したと報告しました。7種の有蹄類の鳴き声の解析に基づくこのモデルは、89%の精度でポジティブな感情とネガティブな感情とを区別できるといいます。

この技術を応用することで、単に効率的なだけではなく、動物の感情を尊重し、動物福祉に配慮した畜産が可能になると期待されているのです(※1)

とはいえ、この技術の導入にはある気がかりも存在します。それは、この技術が本当に動物のためになっているのかというもの。動物福祉への配慮は、効率的で高品質な生産を目的とした新技術導入の方便になっていないかという懸念があるのです。

畜産動物の感情を理解するための技術は、果たして動物のためのものなのでしょうか、それともあくまで人間のためのものなのでしょうか。

こうしたことを考えてみると、畜産業における感情測定技術の実用化に際して、ある種の新しい社会的・倫理的課題が生じていることが分かります。

このような先端技術の社会実装に伴う諸課題は、一般に「倫理的・法的・社会的課題Ethical, Legal and Social Issues)」の頭文字をとって「ELSI」と呼ばれます。そして、技術革新が著しい現代において、このELSIに関する深い理解を持つことは、ビジネスを前進させる大きな価値を持つようになっています。

連載「ELSI最前線」では、各領域の専門家が注目の事例を取り上げて論点を解説します。

今回のテーマは「動物の感情推定のELSI」。本記事で紹介した畜産業における感情推定技術の実用化をめぐる問題のほか、

  • ペットに対する感情推定技術の進化と懸念
  • 動物のプライバシー
  • 動物を「理解する」とはどういうことなのか

といった論点について、哲学、特に概念工学を専門とする鹿野祐介氏が全4回の連載で解きほぐします。

センサー付き首輪やAI搭載アプリで、愛犬・愛猫の気持ちが理解できるようになった! しかし、そこに表示される「動物の気持ち」が、実は人間にとっ...続きを読む
動物の感情を推定する技術は、ペットだけでなく、私たちの食生活を支える牛や豚、鶏といった家畜にも応用され始めている。畜産の現場では、飼育環境の...続きを読む
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大イノベーション時代を生き抜くためのELSI最前線

※1:AI Unlocks the Emotional Language of Animals – Department of Biology - University of Copenhagen

(編集協力:原虎太郎)

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