センサー付き首輪やAI搭載アプリで、愛犬・愛猫の気持ちが理解できるようになった! しかし、そこに表示される「動物の気持ち」が、実は人間にとって都合がいい解釈の押し付けだったら……?
近年、AIやセンサー技術を使って、犬や猫といったペットや牛・豚などの畜産動物の感情を理解するための技術が発展し、実際の製品やサービスにも応用され始めている。一方で、誤判定のリスク、動物福祉や制度設計に関する懸念などの課題も残されている。
最先端技術に関する倫理的・法的・社会的課題──「ELSI(エルシー)」の考え方をひも解き、社会とビジネスにおける実践的な視点を提供する連載「ELSI最前線」。今月は、哲学・概念工学を専門とする鹿野祐介氏が、動物の感情推定技術の現在地、さらには「動物の感情を理解するとはどういうことか?」といった根源的な問いを考える。(第4回/全4回)
💡この記事のポイント
- 動物の鳴き声や行動バターン、生体データといった、動物版の「パーソナルデータ」の扱い方に関する規制やルールは、まだ整備が進んでいない。
- 「動物にプライバシーはあるのか」という問いを真剣に検討する必要性が指摘されている。
- 根本的な問いを置き去りに人間目線だけで技術開発が進めば、動物を数値化できるデータとしてのみ扱われる存在にしてしまいかねない。
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大阪大学COデザインセンター特任講師。東北大学大学院文学研究科修了。博士(文学)。同大学社会技術共創研究センター(ELSIセンター)を兼担。専門は哲学/概念工学。ELSIセンターでは、責任ある研究開発に関する実践研究とELSI人材の育成開発に取り組んでいる。共編著に『ELSI入門』(丸善出版, 2025)、訳書に『デジタルテクノロジーと時間哲学』(丸善出版, 2024)などがある。 >>プロフィール詳細
動物の感情推定技術に伴う責任は誰が負うのか
最後に、ここまであまり触れてこなかった、技術に伴う責任やデータ利用の問題に目を向けたい。
動物の感情推定技術はまだ新しい領域であり、その活用に伴う規制やルールはほとんど整っていない。たとえば、AIによる出力がどの程度信頼できるのか、誤判定によって不利益が生じた場合、その責任を誰が負うのかといった点は曖昧なままである。
もしAIが示す「リラックスしている」という結果を飼い主が信じ込み、ペットの体調不良を見逃してしまっていたり、畜産の現場で「ストレスがない」と判定された結果、不適切な飼育環境が継続されることで不利益が生じた場合に、その責任の所在や補償はどうなるのか。
また、動物を取り巻く主体の増加に伴い、収集されたデータを誰がどのように扱うのかという問題も浮上する。
動物の「パーソナルデータ」の適正な扱いとは
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