2025年7月、大阪府泉大津市の南出賢一市長がX(旧Twitter)に投稿した内容が大きな注目を集めました。その内容とは、
水と空気から光の力で、45分間で約20リットルの軽油ができた
というものです(※1)。
一見すると夢のような技術ですが、投稿された動画や写真についてすぐに疑問の声が上がりました。というのも、本来無色透明であるはずの軽油が、流通過程で着色されたものと同じ緑色をしていたからです。そもそも燃料を生成するために必要な炭素や電力が、どう供給されるのかも不明でした。
以上の点が「コミュニティノート」として市長の投稿に付されるなど、SNS上では批判的な議論が広がっていったのです。
ここで注目に値するのが、この技術の実証実験に関わった人々の説明です。
まず、今回の技術の実証実験において中心を担った仙台市の企業は、合成燃料ができる仕組みについて「特許出願中」を理由に詳細な説明を避けています。
さらに、同企業は過去に大阪市や大阪府と連携して同じ装置を用いた実証実験を実施していましたが、その際の行政側担当者も「実証の成果について把握していない」として、詳しい点の説明は差し控える意向を示しました(※2)。
行政が関与する実証実験であるにもかかわらず、その科学的妥当性を検討して実施を認可するプロセスが不透明であることや、実験後の成果検証プロセスが未熟であることが浮き彫りになったのです。
ここから分かるのは、妥当性が疑問視される技術や不正確な説明が、科学的な批判的吟味を受けることなく行政の現場に入り込んでいるということ。いわば、疑似科学は「ぬるっと」した仕方で、非常に地味なレベルで私たちの生活に侵入しているのです。
では、私たちは、巧妙な疑似科学にどうやって向き合っていくことができるのでしょうか?
この問いは、広く言って「ELSI」の一つとして位置づけることができるでしょう。先端的技術の社会実装に伴う諸課題は、一般に「倫理的・法的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues)」の頭文字をとって「ELSI」と呼ばれます。そして、技術革新が著しい現代において、このELSIに関する深い理解を持つことは、ビジネスを前進させる大きな価値を持つようになっています。
「ELSI最前線」では、各領域の専門家が注目の事例を取り上げて論点を解説します。
今回のテーマは「日常に侵入する疑似科学」。
- 疑似科学批判が原理的に難しいのはどうしてか?
- 疑似科学問題は誰によって、どのような仕方で解決されうるのか?
といった論点について、倫理学の専門家である長門裕介氏が全3回の連載で解きほぐします。

(※1)https://x.com/minakenbo/status/1941841991064780832
(※2)「水と空気から軽油」大阪・泉大津市長の投稿が物議 実証主体企業は特許理由に説明避ける - 産経ニュース
(編集協力:原虎太郎)
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