陸上自衛隊が「電磁波で配管の赤さびを防止する」装置を導入しようとして、ちょっとした話題になったことがあるのをご存じでしょうか?
この出来事が起こったのは、2024年1月のこと。陸上自衛隊の練馬駐屯地は「核磁気共鳴により配管内の赤錆を防止する」装置の調達を目指し、具体的に「NMRパイプテクター」という製品を例示した上で一般競争公告を行いました(※1)。
ところが、この装置の効果には疑問が呈されます。2024年4月17日の衆議院内閣委員会では、自民党の山本朋広議員(当時)がこの問題を取り上げて「ちまたで疑似科学とかとんでも科学だとか指摘されている」と訴えました(※2)。
結局、陸自練馬駐屯地は「改めて情報収集を行う必要がある」と判断し、入札公告を取り消すこととなったのです。
興味深いのは、前述した内閣委員会でのやりとりです。というのも、この装置をすでに導入していたことから答弁を求められた外務省や国土交通省の参考人は、
「効果があるともないとも確定的にお答え申し上げることができない」
「[装置の設置について、]その経緯を確認することができておりません」
「[効果の有無について、]これまでのところ、検証したことは確認しておりません」
など、疑似科学それ自体を積極的に推進しているわけではないという姿勢のもと、責任の所在をあいまいにする対応をとったのです。
このように、疑似科学は、必ずしも極端な主張とともに政策検討や日常生活に挑戦してくるわけではありません。むしろ、上の例から分かるように「ぬるっと」した仕方で、非常に地味なレベルで私たちの生活に侵入しているのです。
では、私たちは、巧妙な疑似科学にどうやって向き合っていくことができるのでしょうか?
この問いは、広く言って「ELSI」の一つとして位置づけることができるでしょう。先端的技術の社会実装に伴う諸課題は、一般に「倫理的・法的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues)」の頭文字をとって「ELSI」と呼ばれます。そして、技術革新が著しい現代において、このELSIに関する深い理解を持つことは、ビジネスを前進させる大きな価値を持つようになっています。
「ELSI最前線」では、各領域の専門家が注目の事例を取り上げて論点を解説します。
今回のテーマは「日常に侵入する疑似科学」。
- 疑似科学に対する批判が原理的に難しいのはどうしてか?
- 疑似科学問題は誰によって、どのような仕方で解決されうるのか?
といった論点について、倫理学の専門家である長門裕介氏が全3回の連載で解きほぐします。

(※1)陸自駐屯地が入札撤回…自民・山本氏が経緯ただす「とんでも科学だと指摘」 | カナロコ by 神奈川新聞
(※2)第213回国会 内閣委員会 第11号(令和6年4月17日(水曜日))
(編集協力:原虎太郎)
ご購入いただくと過去記事含むすべてのコンテンツがご覧になれます。
イノベーション時代のビジネスに欠かせないリテラシー「ELSI」を身につける、双方向プラットフォーム。専門家とのフラットな議論を通じて、未来を見据えた多角的な判断軸を手に入れよう。
- 記事連載:最新技術や制度の事例をもとに、ELSIの論点を専門家が解説
- フォーラム:読者の疑問や意見に専門家が応答し、議論を深める対話の場
- ニュースレター:注目ニュースや読者の声を、専門家のコメントとともに配信
会員登録がまだの方は会員登録後に商品をご購入ください。