
音楽生成AIの登場と進化を受け、アメリカの大手レコード会社が「AIによる音楽創造のための原則」(※1)という声明を発表したことをご存知でしょうか?
近年、命令ひとつで簡単に楽曲を生成する音楽生成AIが著しい勢いで進化しています。この技術は、誰もが簡単に音楽制作を楽しめる状況をもたらした一方で、「AIによる既存楽曲の学習がアーティストの権利を侵害しているのではないか?」という疑念も生じさせています。
そんな中、ユニバーサルミュージックグループとローランドは2024年3月に「AIによる音楽創造のための原則」(以下、「原則」)を発表(※2)。音楽制作におけるAIの活用方法に関する理念を共有することを目指したこの声明は、2024年6月までに50以上の企業・団体から賛同を集めたのです(※3)。
内容を簡単に見てみると、この「原則」は、
とある通り、人間にとって音楽がきわめて重要であるという宣言からはじまります。そして、
と述べ、AIが音楽文化にポジティブな影響をもたらすことを認めながらも、
⑥ 私たちは、AIに支援された創造的経験が創造・立案・計画・実行される際には、音楽アーティストやソングライター、その他のクリエイターの視点が尊重されなければならないと信じています。
というように、AIを用いた音楽制作のあるべき仕方を提示し、大きな理念を打ち出すようなものになっているのです。
以上の「原則」の策定は、音楽生成AIという先端技術の発展を受け、音楽業界がこれまでにない社会的課題に向き合わざるを得なくなったということを明らかにしています。
こうした先端的技術の社会実装に伴う諸課題は、一般に「倫理的・法的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues)」の頭文字をとって「ELSI」と呼ばれます。そして、技術革新が著しい現代において、このELSIに関する深い理解を持つことは、ビジネスを前進させる大きな価値を持つようになっています。
連載「ELSI最前線」では、各領域の専門家が注目の事例を取り上げて論点を解説します。
今回のテーマは「音楽生成AIのELSI」。本記事で紹介した学習元データをめぐる問題のほか、
- 音楽生成AIは、私たちの音楽への向き合い方をどう変えるのか?
- AIが作った楽曲が氾濫することにはどのようなリスクがあるのか?
といった論点について、音楽学・文化政策学の専門家である肥後楽氏が全3回の連載で解きほぐします。

※1:AI For Music
※2:ユニバーサル ミュージック グループとローランドが人間の芸術性を高めるための 戦略的パートナーシップを構築 ~「AIによる音楽創造のための原則」を発表し音楽制作におけるAIの責任ある活用への協業を開始~ - UNIVERSAL MUSIC JAPAN
※3:ローランドとユニバーサル ミュージック グループが提唱する「AIによる音楽創造のための原則」に50以上の企業や団体が賛同 ~生成AI技術が進化する中、音楽業界が団結して音楽クリエイターの権利を保護~ - UNIVERSAL MUSIC JAPAN
(編集協力:原虎太郎)
ご購入いただくと過去記事含むすべてのコンテンツがご覧になれます。

過去のコンテンツも全て閲覧可能な月額サブスクリプションサービスです。
🔰シンクロナスの楽しみ方
イノベーション時代のビジネスに欠かせないリテラシー「ELSI」を身につける、双方向プラットフォーム。専門家とのフラットな議論を通じて、未来を見据えた多角的な判断軸を手に入れよう。
- 記事連載:最新技術や制度の事例をもとに、ELSIの論点を専門家が解説
- フォーラム:読者の疑問や意見に専門家が応答し、議論を深める対話の場
- ニュースレター:注目ニュースや読者の声を、専門家のコメントとともに配信
会員登録がまだの方は会員登録後に商品をご購入ください。