ペットの猫の気持ちがわかる「猫語の翻訳アプリ」が開発・提供されていることをご存じでしょうか?
例えば、MeowTalkは、「科学的裏付けとAIを搭載した世界No.1の猫翻訳アプリ」を謳った製品です(※1)。製品紹介ページによれば、MeowTalkは「2億6千万以上の猫の鳴き声のユニークなデータセット」をもとに学習したAIを搭載。ユーザが録音した猫の鳴き声を、「幸せ/満足」「怒っている」「休憩中」等の11種類に分類することができるといいます。
開発者は、この技術は「猫の飼い主が猫のニーズをよりよく理解し、ペットができるだけ長く幸せに暮らせるようにする」ことを目指しているのだと述べています(※2)。実際、もし私たちが愛猫の気持ちを正確に理解することができれば、愛猫の気持ちにもっとよく寄り添うことができる上、健康状態の管理も容易になることでしょう。
しかし、この技術には懸念も存在します。それは、アプリで出力された言葉を鵜呑みにしてしまう、過信のリスクです。事実、MeowTalkについては「愛してる」と翻訳された鳴き声が、実際には新しい餌をねだった鳴き声だと思われるなど、その精度の不安定さも報告されています(※3)。
そして、このように猫の鳴き声を誤った仕方で解釈してしまうと、ほんらい愛猫にとって必要なケアを見過ごしてしまう危険性すらあるのです。
以上の事例からは、動物の感情推定技術の実用化に伴い、ある種の新しい社会的・倫理的課題が生じていることが分かります。
このような先端技術の社会実装に伴う諸課題は、一般に「倫理的・法的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues)」の頭文字をとって「ELSI」と呼ばれます。そして、技術革新が著しい現代において、このELSIに関する深い理解を持つことは、ビジネスを前進させる大きな価値を持つようになっています。
連載「ELSI最前線」では、各領域の専門家が注目の事例を取り上げて論点を解説します。
今回のテーマは「動物の感情推定のELSI」。本記事で紹介した猫語翻訳アプリと過信のリスクをめぐる問題のほか、
- 畜産業における感情推定技術の活用と懸念
- 動物のプライバシー
- 動物を「理解する」とはどういうことなのか
といった論点について、哲学、特に概念工学を専門とする鹿野祐介氏が全3回の連載で解きほぐします。

※1:https://www.meowtalk.app/?lang=ja
※2:FAQs | MeowTalk
※3:What is your cat telling you? New technology deciphers meows
(編集協力:原虎太郎)
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