#4 Dialogue with 村井 満(元Jリーグチェアマン)

(再生時間:1時間03分43秒/聞き手:シンクロナス編集部)

岡崎慎司、聞く。

 元Jリーグチェアマンの村井満さんの対談後編です。


 前編でもお話いただいたとおり、村井さんはチェアマン時代にさまざまなアクションを起こしてきました。その一つが、Jリーグ育成改革です。

 僕自身、Jリーグの育成にはとても興味を持っていました。

 海外でプレーしていて強く感じるのは、スペインにはスペインらしさが、ドイツではドイツらしさがあるということ。そして、それぞれの国のアイデンティティーがそのままリーグやクラブにも反映されているということです。

 では、日本らしさってどんなサッカーで、どんな武器なのか。日本人らしさをどうすれば海外で認めさせることができるか。

 海外でのプレーが長くなることで、肝心のJリーグについてはあまり知らないまま、聞きかじったことしか理解していませんでした。

 僕がずっと抱いていた疑問を、村井さんにストレートに聞いてみたとのが今回です。結果的に、聞いて本当に良かった。

 Jアカデミーのフィロソフィーの「言語化」や「評価基準」の取り組みなど、興味深いキーワードをたくさん知ることができました。

 それを聞いて正直、僕自身「これは本当に変わるかもしれない!」と感じました。ぜひ、ご覧ください。

トップチームは監督、育成はチームの哲学が反映される

元Jリーグチェアマン・村井満さんの対談・後編。今年3月に退任されるまで、日本サッカーを強くするために行なってきた数々のプロジェクト。その一つ、Jリーグが一番力を入れているアカデミーの育成改革、評価基準、日本らしさの定義など――。(以下は本編の一部)。

村井満(以下、村井) 今、Jリーグが一番力を入れようとしているのは、個々のパーツの話じゃなくて、クラブのフィロソフィーの話なんだ。
 
 たぶんシュツットガルトとかマインツとか、いろんなクラブはクラブの哲学というか、僕はどういう表現をドイツがしているかわからないんだけど、「俺たちのクラブはこういうクラブなんだ」っていう理念が明確にあって、誰もが知っていている。

 それは選手たちも理解していて、ファン・サポーターもわかっていて、そういう思想に合う人がちゃんと指導者としてくるし、理念に近い選手たちを育てていく。

 ころころ変わるようなメソッドではなくて、本当に変わらないポリシーとかフィロソフィー。
 
 僕はよく例に出すんだけど、今 J58全クラブが育成フィロソフィーの言語化をしているところなんだ。

岡崎慎司(以下、岡崎) なるほど……。

村井 (ブラウブリッツ)秋田というクラブは、1年間のうち3カ月ぐらい雪に閉ざされちゃって、耐えて耐えて耐える県民性がすごく持ち味で。

 秋田のサッカーは耐えて耐えて耐えて耐えるんだけど、短い夏がやってきたら、「ここはチャンスだ!」って大曲花火もあるし、竿燈お祭りもあるし、一気呵成に攻める。

これが秋田のサッカーなんだ」っていうのを、地元の気候風土とか、文化とか、歴史とか、県民性とかをしっかり研究したうえで(言語化する)。

 それって、あんまり変わらない(不変のもの)じゃないですか。

岡崎 はい。

村井 それ(歴史や県民性など)とサッカーをしっかり結びつけて、だから俺らこういうサッカーをするんだって、言語化をして、そういう子どもたちを育てようと。

 だから、 58 通りの正解があっていい。

 南のチームと北のチームではフィロソフィーも全然違うし、価値観も違うから。

 鹿児島で育ったヤット(遠藤保仁)選手だったら、鹿児島は鹿児島らしいよねとか。秋田らしいよねとか、(岡ちゃんの出身の)兵庫の滝川二高なら、神戸出身はこうだよねとか。

 こんなことがみんなが表現できたり、逆に言うと、勝った・負けたを見るだけじゃなくて、そういう自分たちの”おらが町”のサッカーが見られたら、お客さんもやっぱりうれしいんじゃないですか。

 その入り口がフィロソフィーの言語化っていうのが、アカデミーの今一番注力してるポイントですね。

 どうですか、岡ちゃん。海外でそれぞれ身を置いたクラブは、監督が変われど変わらないフィロソフィーとか感じることってきっとありますよね?

岡崎 そうですね。トップチームはやっぱり監督で変わってきたっていうのはあるんですけど、育成はそうですね。

 基本的にはトップもこういうサッカーがしたいっていうのがあって、たぶん育成もそれに合わせてやっていると思います。
 
 僕が海外に3カ国いて強く思ったのが、ドイツとスペインは国のアイデンティティーがそのまま各クラブにもちゃんとある(根付いている)。

 そのアイデンティティーのなかで、各クラブが自分たちの色があるみたいな。

 スペインは特にバスク地方があったりとか、その地方によって全然違うんですが、どこに行っても変わらないんですよ。対戦した相手とか。

 なんで、これはすごいなと思いましたね。

村井 うんうん。

岡崎 感覚的に、日本人は活躍できないというか。実力がどうかっていうのよりも、彼らのなかではもう共通認識はあるかもしれないんですけど「俺だけ何かわからへん!」みたいなのもあったりします。

 この選手なんで試合に出られるんだろう?っていうことも当然あるし、そういうのはどの国でもある。日本でももちろんあると思うんですけど……。実力社会なんで。

 ただ、そういうの(海外の選手から見たら全然わからない共通認識、日本人独自のサッカーフィロソフィー)って、Jリーグではあるのかなと。逆に僕はそれが必要なんじゃないかと。

 だから、各リーグ、各地域によって色はあってもいいんですけど、日本っていうのはこういうのを目指していこうみたいなのが、最低限これはやっていこうみたいなのがあれば、もっと土台がしっかりした状態であってもいいのかなっていう思いは常々ありますね……続きはフルバージョンで

【動画内容】ヘッドライン
◇Jリーグが一番力を入れたこと
◇技術の高い子どもたちを確実に伸ばす「プロジェクトDNA 」
◇J 全58クラブが取り組む育成フィロソフィーの言語化
☜ピックアップ
◇ドイツとスペインは国のアイデンティティーがクラブにもある☜ピックアップ
◇日本オリジナルのスタイルがあってもいい理由
◇日本人らしさを武器にするとぶつかる”世界の壁”
◇Jの育成をイングランドレベルまで上げないとダメ
◇Jリーグが目指す育成の評価基準
◇世界の頂点へのロードマップがすでに開示されている
◇恫喝するだけの指導ではレベルは上がらない
◇“本当の人間力とは何か”を明らかにするプロジェクト
◇自己効力感は成功体験を積むプロセスの中で磨かれる
◇指導者や組織を変えるより選手や子どもたちのマインドを変える
◇言語化された本当の人間力を持つ人たちが経営をリードしていく
◇Jリーグ「シャレン!」に見る社会×スポーツ
◇サッカーだけやっているクラブではダメな理由
◇スポーツは日本の縦社会を変えるきっかけになる


◆時間:1時間3分43秒

 

次回、dialoguew/#5  は戦略・金融コンサルタントの夫馬賢治さん。欧州サッカーで定着、地方クラブが生き残るために必要な「ESG」投資の視点とは?
動画配信は7月20日(水)です!

...