2026年4月28日、三浦璃来、木原龍一組、現役引退会見 写真/YUTAKA/アフロスポーツ

オリンピックイヤーということもあり、さまざまなドラマのあった2025-2026シーズン。選手たちはどんな思いだったのか?

電子書籍『日本のフィギュアスケート史 オリンピックを中心に辿る100年』(日本ビジネスプレス刊)の著者である松原孝臣さんが振り返ります。

この記事は2026年5月1日、「JBpress」に掲載されたものです。

「もうこれは引退だね」

 4月28日、フィギュアスケート・ペアの三浦璃来/木原龍一が記者会見を開いた。

 ミラノ・コルティナオリンピックで日本ペア史上初の金メダルを獲得、進退が注目される中、4月17日にSNSを通じて引退を発表。それを受けての会見であった。

 2人は、引退を考え始めたのは昨年の世界選手権で2度目の優勝を果たしたときだと明かした。そして2025-2026シーズンが最後の1年になると考え、取り組んできたという。そうして迎えたのがオリンピックであった。木原は言う。

「自分たちの中で優勝して絶対終わろうっていう思いは持っていましたので、優勝した時点で『もうこれは引退だね』という話をすぐして、自分たちの中ではもうその考えは固まっていました。オリンピック期間中は、ずっと泣いていたんですけど、その思いの中にはもうこの試合が最後っていうのは分かっていたので、それも涙の原因だったんですよね」

 ショートプログラムでミスが出て5位。思いがけない順位からの大逆転で得た金メダル。そこにあった涙は、その逆転劇にとどまらず、最後のシーズンになると思っていたからでもあったことを知る。

 そして大団円を迎えられたのは、やはり、2人の絶え間ない努力と、培った信頼関係あればこそだったろう。会見での言葉やしぐさが明確に示していた。会見の開始早々、マイクを手にした三浦は挨拶の言葉を話そうとするやいなや、涙する木原に気づき、「泣かないで」と柔らかく語りかけた。それを象徴として、ときにユーモラスなやりとりを見せたほか、しばしば互いの顔を見て、相手の言葉に真剣に耳を傾ける様子があった。

 そもそもリフトなど、リスクを伴う技を含む競技であるから信頼関係は欠かせない。どのように作り上げたのかを尋ねられ、2人はこう答えた。

「9歳差あるんですけど、お互い思ったことは隠さずにきちんと言うとかであったり、細かいことなんですけど、信頼してくれるからこそ自分も信頼できる、そういった繰り返しの積み重ねもあったのかなって思います。氷上ではぴったりだなって思うんですけど、私生活では2人とも性格が真反対なので、それも一緒にいて新しい発見があるというか、違うからこそ一緒にいて楽しいので、そういった積み重ねも信頼関係に表れていたのかなっていうふうに思います」(三浦)

「どれだけ口でポジティブなことを言ったり、いいことを言っても、行動が伴ってないと信頼することはできなかったと思います。近くで努力する姿をお互い見てきたので、行動を見てきたことが信頼につながったのかなって思ってます」(木原)

 たぶんフィギュアスケートに限らず、大切なことを2人は語っている。それを実行するのは容易ではないが、2人は積み重ねてきて、今日に至ったことを物語っている。そして、だからこそ金字塔を打ち立てることができたのをあらためて感じさせる。

今後はペアの育成と普及へ

 2人によって、日本のペアの歴史は大きく塗り替えられた。大切なのは、その変化が「点」ではなく「線」となっていくことだ。でなければ、せっかく2人が切り拓いた道は、再び閉ざされることになりかねない。

 幸い、競技生活に終止符を打った2人には、ペアの普及と育成への思いは強い。今後、プロスケーターとして活動していくが、木原はこう語っている。

「現役中は日本の皆さまにペアの技をお見せする機会が限られてしまっていたので、まだ細かい内容は決まってないんですけれども、今年中にいろんなところを回ってペアの技をお見せしたいと思っています。どんな形になるか分からないんですけども、スケート教室なのか、小さいショーなのかわからないんですけども、そういったものをやっていきたいなっていうふうに思ってます」

 そこにもペアの認知度をさらに高め、普及へつなげたいという目的が込められている。

 また、コーチの資格を時間をかけて取得し、ゆくゆくは指導者として歩んでいきたいという思いも明らかにしている。

 三浦は言う。

「私たち自身には喧嘩したときに間に入ってくださるコーチであったり、コーチがたくさんいました。私たちも技術だけじゃなくて、生徒1人1人をきちんと見て寄り添い合える、メンタル面でもサポートができるコーチになりたいなと思ってます」

 木原はこのように語る。

「将来、指導者になったとき、自分たちは怪我があったりいろいろなことを経験したので、その経験を伝えていけるように、技術だけでなく食事、メンタル、そういった部分のサポートも一緒にやっていきたいかなと思います」

 会見に同席した所属先である木下グループの木下直哉代表は、「もともと2人には、引退したらコーチをしてもらいたいという思いがあったので。将来的にはアカデミーを作りたいと思っております」とバックアップを明言しており、それも明るい材料だ。

 日本ペアの新たな歴史を築いた三浦と木原は、さらなる日本ペアの進化を期して、進もうとしている。

 その先に、どのような未来が開かれているのか。2人の歩みは止まらない。

 

*JBpressでの連載「フィギュアスケートを支える人々」(2024年8月30日公開までの一部)と、書き下ろしを含む電子書籍『日本のフィギュアスケート史 オリンピックを中心に辿る100年』(松原孝臣著/日本ビジネスプレス刊)が発売中です。

 冬季オリンピックが開催されるたびに、日本でも花形競技の一つとして存在感を高めてきたフィギュアスケート。日本人が世界のトップで戦うのが当たり前になっている現在、そこに至るまでには、長い年月にわたる、多くの人々の努力があった——。

 日本人がフィギュアスケート競技で初めて出場した1932年レークプラシッド大会から2022年北京大会までを振り返るとともに、選手たちを支えたプロフェッショナルへの取材を掲載。

 プロフェッショナルだからこそ知るスケーターのエピソード満載。

 さらに、高橋大輔さんの出場した3度のオリンピックについての特別インタビューも掲載されます。

 フィギュアスケートファンはもちろん、興味を持ち始めた方も楽しめる1冊です。

 

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著者:松原孝臣
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