
生成AIが著しく台頭するなか、アメリカで「TRAIN法」の法案が提出されたのをご存じでしょうか?
この法案は、生成AIがますます進化していくなかで、ミュージシャンや作家など様々なクリエイターの権利を守ることを目指すもの。“Transparency and Responsibility for Artificial Intelligence Networks”(AIネットワークの透明性と責任)の頭文字をとってTRAIN法と呼ばれています。
2024年11月にピーター・ウェルチ上院議員によって初めて提出されたこの法案は、その後、2025年7月に再提出されています(※1)。
そもそもこの法案は、生成AIモデルの学習プロセスがブラックボックス化している現状を踏まえて提出されました。生成AIの学習に用いられたデータは公開されていないことも多く、クリエイターたちの間には「自らの著作物が不当に利用されているのではないか」という不安が広まっています。
こうした状況を受けてTRAIN法は、生成AIモデルの学習データに関する透明性の向上を求めます。具体的には、自らの著作物が生成AIモデルの学習に利用されていないかどうかをクリエイター自身が確認できるようにするため、AI開発者に対して学習データの開示を義務付けているのです。
TRAIN法案の提出は、生成AIという先端的技術の社会実装にあたって生じる社会的課題の解消に向けた法整備プロセスの一部だということができるでしょう。
こうした先端的技術の社会実装に伴う諸課題は、一般に「倫理的・法的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues)」の頭文字をとって「ELSI」と呼ばれます。そして、技術革新が著しい現代において、このELSIに関する深い理解を持つことは、ビジネスを前進させる大きな価値を持つようになっています。
連載「ELSI最前線」では、各領域の専門家が注目の事例を取り上げて論点を解説します。
今回のテーマは「音楽生成AIのELSI」。本記事で紹介した学習元データをめぐる問題のほか、
- 音楽生成AIは、私たちの音楽への向き合い方をどう変えるのか?
- AIが作った楽曲が氾濫することにはどのようなリスクがあるのか?
といった論点について、音楽学・文化政策学の専門家である肥後楽氏が全3回の連載で解きほぐします。

※1:Welch Leads Bipartisan Bill to Protect Musicians, Artists, and Creators from Unauthorized AI Training
(編集協力:原虎太郎)
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