写真:Daisuke Akita

岡崎慎司が抱き続けた「もどかしさ」

記事:黒田俊(シンクロナス編集部)

 ワールドカップ出場を決めた日本代表は、11月に行われる本選に向けて新たなスタートを切ることになる。

「出場を決めたのはうれしいですけど、やっぱり、自分がいない日本代表を見るのは悔しい部分もある」

 そう語ったのは岡崎慎司だ。スペインリーグ2部のカルタヘナでプレーをする日本を代表するストライカーは、まだまだサッカー選手としての前進を願っている。

「自分のプレー次第、今のままではもちろん周囲を納得させられない」と話すように、これからカタールへの道を歩むには、「自分にフォーカス」していくしかない。その躍進に期待したい。

 そんな岡崎は、海外でのプレーが12年目を迎え、ブンデス(ドイツ)、プレミア(イギリス)、リーガ(スペイン)とさまざま国、リーグで「フットボール」を感じてきた。

 そこにあったのは「まだまだ日本は世界から認められていない」という思いだ。

 確かにヨーロッパでプレーする選手は増えた。けれど、だからといって「日本」の価値がグッと上がったわけではない。

 岡崎は、そこにずっとある思いを抱き続けている。

「僕は日本に誇りを持っています。海外にいると、日本って本当にすごいな、と思うことが多いんです。

 もっとできることがあるはずなのに、それを証明できないってもどかしいじゃないですか」

 岡崎はその「もどかしさ」を「自分にフォーカス」するとき以外、封印してきた。

 例えば、レスター時代にプレミアリーグ優勝を経験したとき。「ミラクル」と言われた偉業のなかで、レギュラーとしてチームになくてはならないピースとして存在した岡崎だったが、脚光を浴びたのはFWのヴァーディー(レスター)であり、マフレズ(現・マンチェスター・シティ)といった、「同じ」得点を取ることを役割とした選手たちだった。

写真:ロイター/アフロ

 確かにチームの中では欠かせない役割を果たした。でも、「同じようにもっと得点を取りたい」。

 そのために、チームに、監督に、チームメイトに自分を認めさせる結果を出す――じゃあ、いま、自分は何をすべきか。

 抱いた「もどかしさ」を、自分自身にフォーカスして成長させる糧としてきたのだ(事実、優勝直後に出た本のタイトルは『未到』だった)。

地元・兵庫に「フィールドとクラブハウス」を作った理由

 12年もの間、ヨーロッパでプレーし続ける。そんな難題を実現させている要因のひとつに、岡崎がこの「もどかしさ」を、強いモチベーションに変えてこれたという事実がある。

 そしていま、この「もどかしさ」を、自分自身以外のもの――日本サッカー、日本スポーツ文化の発展の糧にもしたい、と思い始めた。

 もともと「現役選手は現役としてプレーに集中し、結果で証明するべきだ」という思いが強かった岡崎は、例えば、情報を発信したり、アスリートでありながらビジネスをすることに、前向きではなかった。

「決して、そういう人たちを否定するつもりはなくて。そういうことができる人はすごいな、と思っていました。ただ、僕はそういうタイプではなかった。やるなら、その分、結果も出さなければいけないし。

 でも、ちょっと違う考えも出てきて。

 長く海外にいると、スペインのサッカーって育成にしても文化としても素晴らしいものがあるな、みたいないい部分も見えてくるんですね。

 日本からも多くの選手がやってきて、プレーをして、それを持ち帰ったりしているし、情報もたくさん取れる時代ですから、日本にいてもその素晴らしさを知ることができる。

 じゃあ、みんなが素晴らしいと思っているのに、なぜ変わらないのか。極端な言い方ですけど、海外の真似をすれば一気に変わるかもしれない。

 でも、実際は変わらないじゃないですか。それってなんでなんだろう?って考え始めて……」

 育成や、サッカーを取り巻く環境、文化としてのスポーツ……いろいろなことを調べ、人に聞き、語り合った。

 アクションも起こした。地元である兵庫県には、サッカーフィールドとクラブハウスを建設(2022年に完成予定)。

「サッカーができる場所を作るわけではなくて、場所を通じて地域の人がちょっと遊びに来たり、おじいちゃんおばあちゃんが休憩できたりする場所を作って、そこでサッカーができる、というイメージ」

 温暖化対策として表面温度を下げる芝を使い、災害が起きた際には生活用水として使える仕組みも採用するなど、環境と地域に溶け込むことを目指した。

 その原点には、海外で見てきたサッカーと地域の関係がある。

なぜ、「日本では難しい」となるのか

「フィールドは僕が海外で感じてきたことの形のひとつです。

 だけど、もっとちゃんと知らなきゃいけないと思った。聞いてきたこと、調べたものがどのくらい正しいのか。なぜ、いいとみんな口をそろえるのに『日本では難しい』となるのか。

 そこで思ったのは、僕が知りたいことをコンテンツとして共有できれば、僕一人で考えるより、早く前進できるかもしれない、ということでした。そういうコンテンツであるなら、現役のうちに発信できる価値もあるのかな、と」

 そうして岡崎は「Dialogue w/ (ダイアローグウィズ)~世界への挑戦状」というコンテンツ企画を始めることにした。

 まず、トップアスリートや、スポーツの現場で働く人たち、世界の育成を知る指導者……多くの人と、語り合い、理想と現実の間にある「ギャップ」をはっきりさせる。

 その上で、話してきた人たちと、一緒に「アクション」を起こしていく。

 それが、日本のサッカー、日本のスポーツを世界に誇れるものにするための一助になれば――。コンテンツの副題にある「世界への挑戦状」はその思いの表れだ。

「まだまだ、わからないことも多いです。でも、日本のスポーツ文化が世界に誇れるものだ、という目標ははっきりしています。

 だからいろんな人と話をして、現実とのギャップをしっかり知りたい。その上で、話してきた人たちと一緒に、目標を達成するためのアクションをしていきたい、と思っています」

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日本サッカー、スポーツには世界に誇るべきポテンシャルがある。けれどそれはまだまだ世界に認められていない――岡崎慎司は欧州で13年目のプレーを迎え、その思いを強く持つ。胸を張って「日本サッカー」「日本のスポーツ」を誇るために必要なことは何か。岡崎は言う。
「新しいサッカーやスポーツの価値を探し、作っていくアクションが必要」。
「欧州にあって日本にないもの」「新しい価値を作るためのキーワード」をベースに、海外で活躍する日本人指導者や各界の第一人者たちと語り、学び、交流し、実行に移していく実験的場所!

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