2026年2月19日、ミラノ・コルティナ五輪、フィギュア女子、表彰式での坂本花織 写真/西村尚己/アフロスポーツ

坂本花織の現役最後の試合

 3月25日、チェコ・プラハでフィギュアスケートの世界選手権が開幕する。

 今大会は、2月にミラノ・コルティナオリンピックが行われたのを受けて行われる。オリンピックがあったあとの世界選手権は、4年に一度の大舞台の後だけに、どうしても欠場する選手がいて、今回もオリンピックのメダリストの中には出場しない選手がいる。

 そうではあっても、今回の世界選手権はいつもと異なる重みのある大会である。今シーズン限りで引退を表明している坂本花織の、競技生活最後の試合であるからだ。

 坂本はミラノ・コルティナオリンピックの団体戦、個人戦の双方で銀メダルを獲得した。個人戦のフリーでは、完璧な演技とはならなかったが、それでも銀メダルを手にすることができたのは、培ってきた地力があってこそにほかならない。

 2つのメダルもさることながら、団体戦でも、それ以降も、出番のないときは常に日本の選手たちを惜しみなく応援する姿があった。自身の試合が近づいても、その姿勢は変わらなかった。自身の試合、それ以外と、大会に注いだエネルギーは果てしない。オリンピックが終わったとき、すぐに世界選手権出場を明言することはなかったのは無理もない。

 それでもひとときの間を置いて、世界選手権に出場することを発表した。正真正銘、最後の試合の舞台が世界選手権である。

 坂本は、世界選手権では2022年から3連覇し、昨年は銀メダルを獲得している。それらを含め、今回で8度目の出場となる。その数字は、坂本が長年、日本のトップスケーターとして活躍してきたことを示しているし、4つのメダルは、数年にわたり、世界のトップスケーターであったことを物語っている。

 特筆されるのは成績ばかりではない。25歳の今日に至るまで、進化は止まなかった。まぎれもなく世界最高の位置にいる演技構成点の高さは、年々積み重ねてきた成果にほかならない。技術面でも、シーズンを経るごとに磨きをかけてきた。まだまだやれる、そう感じさせる演技をみせている。

 その歩みも、坂本のスケーターとしての真価を物語っている。

 オリンピックのあと、ただちに世界選手権へと目を向けられたわけではないし、心身ともに疲労はあっただろう。その中で立て直し、コンディションを整えて臨むのは決して容易なことではない。それでも、一つの時代を牽引してきたスケーターが最後に迎える試合は、特別な舞台であり時間であることに変わりはない。 

海外勢はマリニン、アンバー・グレンらが出場

 坂本のほか、日本からは中井亜美、千葉百音と、オリンピックの代表組がそのまま出場する。

 中井はミラノ・コルティナオリンピックで銅メダルを獲得した。臆することなく大舞台で演技する姿も印象的だった。

 ただ、オリンピックのフリーは、決して満足のいく演技とはならなかった。それを課題としつつ挑む、初めての世界選手権は、来シーズン以降につなげ、さらなる高みを目指すために挑戦する舞台となる。

 千葉はオリンピックで4位、表彰台にわずかに及ばず、悔しさも味わった。その分、オリンピックが終わってから世界選手権へ向けての気持ちも強く持ってきた。

 昨年の世界選手権では銅メダル。今大会ではオリンピックでの思いをぶつける。

 海外勢を見渡すと、オリンピック金メダリストのアリサ・リュウ(アメリカ)は欠場するが、アンバー・グレン(アメリカ)をはじめ実力者たちもいる。その中で日本の選手がどのような演技を披露するのか、注目したい。

 男子も、日本は鍵山優真、佐藤駿、三浦佳生と、ミラノ・コルティナオリンピックの代表がそろって出場する。

 鍵山は銀メダル、佐藤は銅メダルと、一緒に表彰台に上がった。三浦は試合を前にしてスケート靴が壊れるアクシデントに見舞われる中、ショートプログラム22位と出遅れたもののフリーで渾身の演技をみせ、13位と巻き返して終えた。

 それぞれに課題を持ちつつ、次へとつながる演技でもって、シーズンを締めくくりたいところだ。

 また、男子の注目と言えば、イリヤ・マリニン(アメリカ)を外すわけにはいかない。ミラノ・コルティナオリンピックではフリーで思いがけないジャンプのミスが相次ぎ、表彰台に遠く及ばなかった。

 オリンピックで金メダルを獲得したミハイル・シャイドロフ(カザフスタン)は出場しないが、その中でマリニンや日本勢のパフォーマンスに注目が集まる。

 それぞれの思いをこめて挑む世界選手権は、まもなく始まろうとしている。

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