2026年2月、イタリアで開幕するミラノ・コルティナオリンピック。
冬季オリンピックが開催されるたびに、日本でも花形競技の一つとして存在感を高めてきたフィギュアスケート。
日本人が世界のトップで戦うのが当たり前になっている現在、そこに至るまでには、長い年月にわたる、多くの人々の努力があった——
日本人がフィギュアスケート競技で初めて出場した1932年レークプラシッド大会から2022年北京大会までを振り返るとともに、選手たちを支えたプロフェッショナルの取材をまとめた電子書籍『日本のフィギュアスケート史 オリンピックを中心に辿る100年』(松原孝臣著/日本ビジネスプレス刊)が発売中。
今回は、日本のペアの功労者でもある、ミラノ・コルティナ五輪での解説でも注目された高橋成美さんと「つながり」を紹介します。
「ほんとうにありがとう」
2月16日、ペアで三浦璃来&木原龍一が金メダルを獲得。ショートプログラム5位からの大逆転という展開はむろんのこと、日本ペア史上初の表彰台という快挙に揺れた。
その試合の各ペアの演技を具体的なポイントを捉えながら、そして三浦と木原の会心の演技を、そのすごさをそのまま言葉に載せたかのような熱とともに伝えた解説者がいた。
試合後のインタビューではマイクを向けたその解説者に向けて、木原が「ほんとうにありがとう」と涙ながらに語りかけた。
その人、高橋成美は、現役時代に数々の活躍で日本のペアの発展に功績を残し、そして三浦と木原の金メダルにもつながる人である。
高橋はシングルののち、12歳だった2004-2005-シーズンからペアに転向。2018年に引退するまで一貫してペアで活動してきた。2007-2008シーズンからはマーヴィン・トラン(カナダ)と組み、従来の日本ペアの記録を塗り替える活躍をみせた。中でも輝きをみせたのは2011-2012シーズンだ。グランプリファイナルに日本のペアとして初めて進出し、世界選手権では日本ペアで史上初の表彰台となる銅メダルを獲得したのだ。
数々の活躍はあったが、高橋の怪我の影響などもあり2012年12月、ペアを解消することになった。
そのとき、起きていたフィギュアスケートを巡る出来後もあり、高橋は新たな動きへと踏み出すことになった。2014年ソチオリンピックでの団体戦採用だ。団体戦にはペアも参加するが国内に皆無、早急にペアをつくる必要があった。キャリアも実績も抜きん出た高橋を欠かすわけにはいかなかった。
そのとき、高橋が候補として思い浮かんだのが木原龍一だった。2人はトライアウトを実施。2013年1月、ペア結成が発表された。
強く望んだのは「私ですね」と高橋は以前の取材で答えている。
「もともと仲良しで、シングルとペア、それぞれの種目一緒にジュニアグランプリに出たりもしていて、ちょっとふざけてペアの真似事とかもしたことがありました。そのとき、背が高いし、腕をつかんだ感覚もすごくよかったし、一緒に練習したら楽しいだろうな、みたいなことを思ったことがあります。『一緒にペアやりません?』って誘いました」
2人は急ピッチで取り組み、ソチオリンピックの団体戦、個人戦双方に出場した。
高橋と木原は、その翌シーズン終了をもってペアを解消、それぞれの道を歩んできた。
2シーズンという短い期間だった。その中で、高橋はペアが初めての木原に、まさに一から教えた。
「私と組んだ当時は技の名前すら分からない状態だったですね」
ペアの基礎から教えたこともだが、何よりも木原をペアの道に誘い込んだ。その功労者と言える。
2023年、三浦と木原は世界選手権で金メダルを獲得、その光景を高橋は解説者として見届けた。そのとき忘れられないひとこまがあった。
「表彰式のとき、一緒に写真を撮ってもらいました。そのとき璃来ちゃんにも龍一にも言葉をかけたら返してくれて、その言葉に感動したんですけど、感動しすぎてまったく覚えていないんですよね(笑)」
三浦と木原を指導する、そして高橋の指導もしていたブルーノ・マルコットコーチにも言葉をかけられたという。
「解説席の私のところまで駆けつけてくれて、『ほんとうに成美がいなかったら、今の彼らの輝かしい姿は見られなかった。ありがとう』と言ってもらえました。昔の生徒である私に駆けつけて言葉をかけてくれたことは、一生忘れないと思います」
ペアとしてともに活動した時間を、木原は大切に思い、今の自分につながっていることを自覚する。
だからオリンピックで金メダルを獲得したあと、木原は高橋に、「ほんとうにありがとう」と感謝した。そして高橋は、木原とともに歩んだ時間、その後の時間をみてきたからこそ、その演技を熱をもって語り、涙した。
さまざまな人の尽力があって、ここまで来た。その一断面を伝えるような、何よりもともに戦ったからこその、2人のやりとりだった。
*JBpressでの連載「フィギュアスケートを支える人々」(2024年8月30日公開までの一部)と、書き下ろしを含む電子書籍『日本のフィギュアスケート史 オリンピックを中心に辿る100年』(松原孝臣著/日本ビジネスプレス刊)が発売中。高橋成美さんのインタビューも掲載しています。
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