吹奏楽部員たちが部活に燃える日々の中で、書き綴るノートやメモ、手紙、寄せ書き……それらの「言葉」をキーにした、吹奏楽コンクールに青春をかけたリアルストーリー。ひたむきな高校生の成長を追いかける。
第41回は聖ウルスラ学院英智高等学校(宮城県)#5(#1はこちらからご覧になれます)。
本連載をもとにしたオザワ部長の新刊『吹部ノート 12分間の青春』(発行:(株)日本ビジネスプレス 発売:ワニブックス)が好評発売中。
吹奏楽部員、吹奏楽部OB、部活で大会を目指している人、かつて部活に夢中になっていた人、いまなにかを頑張っている人に読んで欲しい。感涙必至です!
全日本吹奏楽コンクール金賞と、姉が果たせなかった夢を追いかける聖ウルスラ学院英智高校吹奏楽部の部長・アヤナ。夏のコンクールが始まり、地区大会、県大会と駒を進めるが、なかなか波に乗れない。次はいよいよ勝負の東北大会。過去二度涙をのんだ「福島のジンクス」を打ち破り、悲願の全国大会へ進むことはできるのか。運命の演奏が、まもなく始まる——。
東北大会への挑戦
いよいよ運命の東北吹奏楽コンクールが近づいてきた。
青森、岩手、秋田、宮城、山形、福島の6県から24の代表校が集まり、東北大会はおこなわれる。代表枠は3校。昨年はウルスラとノースアジア大学明桜高校(秋田)、福島県立磐城高校が全国大会に出場した。
「今年はどうなるんだろう……」
部長のアヤナは言い知れない不安を感じていた。それはほかの部員たちも同じだった。
大会前、ウルスラはホールにこもって本番を想定した練習を繰り返した。
55人のCメン(コンクールメンバー)は必死に楽器を奏でつづけたが、本番2日前になってなぜかホールの空調が効かなくなった。ステージのあちこちから「暑い、暑い」という声が聞こえてきた。外は猛暑。室温もかなり上がってきており、アヤナも全身に汗が噴きでていた。
目に見えてCメンの集中力は低下した。それだけでなく、指導する及川先生の言葉に返事すらしなくなった。

見かねたアヤナは合奏の途中で口を開いた。
「みんな、聞いてほしい。暑いのはわかるけど、態度が悪いし、返事もしないし、本当に良くないと思う。諦めたら、もう明後日でコンクールは終わりになっちゃうんだよ? そうならないように、ちゃんとやろう」
あまり厳しいことを言わない部長の苦言に、みんなも目が覚めたようだった。そこからは、暑いながらも集中した練習になった。
アヤナはユーフォニアムを吹きながら、ホールの脇に飾ってあった「執念」の文字を横目で見た。数年前から練習場に飾ってある、千羽鶴で文字を浮き上がらせたものだった。アヤナは部長になってから今年大事になるのは「執念」だと思っていたが、いまこそ「執念」が必要なときだと思った。

(私もやらなきゃ。ちゃんとやらなきゃ)
その文字に気持ちが引き締まった。
♪
そして、東北大会当日。ウルスラのCメンは福島県郡山市のホールにやってきた。
会場入りする前、及川先生からは「気持ちで負けるなよ。自信を持っていきなさい」と言われていたが、アヤナたちは緊張で石のようになっていた。ライバル校の目があるところでは、先生に言われたとおり自信があるかのように振る舞っていたが、チューニング室に入るとみんなの口から「やばい、やばい」という言葉が漏れた。
さすがに及川先生もそのままでは良くないと思ったのだろう。舞台裏で待機しているときには、メンバーの間を回って「笑顔で入場するように」と言ってくれた。
(あ、笑顔、忘れてた……)
アヤナもすぐまわりの部員たちに「ほらほら、笑うんだよ!」と声をかけた。舞台裏の薄暗がりに笑みが広がっていった。ウルスラはようやく直前にして落ち着きを取り戻した。
いよいよステージに出る時間がやってきた。
ウルスラの出番は休憩明けだった。舞台袖で前の学校の演奏を聴かずに済むのはよけいなプレッシャーがかからないため、いい順番だとみんな言っていた。だが、いざ出ていってみると、ホール内には緊張と弛緩が混在するような微妙な空気が漂っていた。
客席がざわついている中でセッティングをし、席に着く。休憩時間が終了するまでは待機しなければならない。そのうつろな時間に、また緊張がぶり返してきた。演奏再開を告げる鐘の音も、アヤナたちの張りつめた神経を刺激した。
アナウンスの後で客席から拍手が響き、及川先生が指揮台に乗った。
一瞬の静けさのあと、先生の手が動いてウルスラの12分間が始まった。
まずは課題曲《祝い唄と踊り唄による幻想曲》。これまで数えきれないほど練習を重ねてきた出だしはうまく決まった。勝利の民謡《さんさ時雨》が流れていく。
アヤナの脳裏には、東北大会のために課題曲の楽譜にあるひとつひとつの音符を歌で歌えるようにしたり、チューナーでぴったりに合わせたりする地道な練習がよみがえってきた。ほかにも、打楽器の配置を換えてみるなど、やれることをすべてやって臨んだ本番だった。...