吹奏楽部員たちが部活に燃える日々の中で、書き綴るノートやメモ、手紙、寄せ書き……それらの「言葉」をキーにした、吹奏楽コンクールに青春をかけたリアルストーリー。ひたむきな高校生の成長を追いかける。
第40回は聖ウルスラ学院英智高等学校(宮城県)#4(#1はこちらからご覧になれます)。
本連載をもとにしたオザワ部長の新刊『吹部ノート 12分間の青春』(発行:(株)日本ビジネスプレス 発売:ワニブックス)が好評発売中。
吹奏楽部員、吹奏楽部OB、部活で大会を目指している人、かつて部活に夢中になっていた人、いまなにかを頑張っている人に読んで欲しい。感涙必至です!
「必勝」の課題曲、「異質」な自由曲
部員数が多い聖ウルスラ学院英智高校吹奏楽部では、7月下旬の地区大会に向けてCメン(コンクールメンバー)55人を選ぶオーディションがおこなわれた。
ユーフォニアムにはアヤナを含めた3人の3年生がいる。コンクールに出られるのは2人だけ。高校生活最後のコンクールは誰だってステージに乗りたいが、そうもいかないのが吹奏楽の厳しさだ。
オーディションを受けた結果、アヤナは合格。初めてCメンの座を勝ちとることができた。一方、やはり同期のひとりが不合格になった。3年間ずっと同じクラスで、いつも優しい子だったからこそ、アヤナの胸はチクッと痛んだ。不合格を出される悔しさも、経験者だからよくわかる。
3人の間にヒリヒリするような空気が流れかけた。
(せっかくいままで一緒に頑張ってきたのに、気まずくなっちゃうのはイヤだ……)

そう思ったアヤナは、「ねぇ、3人で話そうよ」と声をかけた。
ほかのふたりもそれを求めていたのだろう。この後もまだ県大会前にオーディションがあるから、いまのCメンで確定というわけではない、だから、これからもみんなで刺激し合って頑張っていこう——そんな話をして、最後は3人とも笑顔になれた。
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顧問の及川博暁先生からはコンクールで演奏する曲が発表された。
自由曲はロシアの作曲家、ヴィトルト・ルトスワフスキの《管弦楽のための協奏曲》だった。
アヤナは意外に感じた。これまでウルスラは三善晃など邦人作曲家の難解な現代曲を得意としてきた。ところが、今年は外国人の作曲家が手がけたオーケストラの曲。音源を聴いてみたところ、決してわかりやすい曲ではないものの、三善作品に比べるとシンプルに感じられた。
(なんだか異質だな。でも、モチーフがどんどん重なっていくところが楽しいし、歌える曲って感じ……)
いままでと違う系統の作品を選んできたところに、及川先生の全国大会金賞への決意が表れている気がした。
一方、課題曲は杉山義隆作曲の《祝い唄と踊り唄による幻想曲》だった。この曲は《さんさ時雨》という宮城の民謡に基づいている。伊達政宗の勝ち戦の後に歌われた歌とも言われている。偶然だが、ウルスラの校舎は伊達家の屋敷跡に建っており、マーチングの入場の際のかけ声「戦勝万歳!」も伊達政宗にちなんだ言葉だ。
(この課題曲をいちばんうまく表現できるのはウルスラしかない! やっぱり今年はうちが全国大会金賞をとる年だ!)
アヤナの心は奮いたった。

すぐにでもトップスピードでコンクールに向けて曲を仕上げていかなければならないが、アヤナには気にかかることがあった。
及川先生が言っていた「福島のジンクス」だ。過去2回とも、福島での東北大会でウルスラは涙を呑んできた。今年は3度目の挑戦。ジンクスを信じているわけではないが、やはり気にならないと言ったら嘘になる。
(ジンクスがある場所だからこそリベンジしなきゃ。ビビってる場合じゃない!)
アヤナはそう思った。
単に場所とホールが違うだけで、いつもの東北大会だ。3年連続で代表に選ばれている自分たちは、自信を持って臨むべきだ。
(へこたれちゃいけない。自信を持ってステージに上がれるように、どれだけ練習できるか……。そこが勝負だ!)
アヤナは練習中に率先して声を出し、ジンクスを吹き飛ばそうとみんなを鼓舞した。
地区大会の落とし穴
ウルスラにとって今年最初のコンクールは7月中旬の地区大会だった。
東北大会に照準を合わせてはいるものの、油断はできない。特に、新たなCメンで迎える最初の大会は想定外のことが起こりがちだ。
55人のメンバーの中でも、特に緊張していたのがアヤナだった。ウルスラでは2年間Mメンとして大会に出ていたアヤナにとって、中3以来で出場するコンクールだった。...