吹奏楽部員たちが部活に燃える日々の中で、書き綴るノートやメモ、手紙、寄せ書き……それらの「言葉」をキーにした、吹奏楽コンクールに青春をかけたリアルストーリー。ひたむきな高校生の成長を追いかける。
第39回は聖ウルスラ学院英智高等学校(宮城県)#3(#1はこちらからご覧になれます)。
本連載をもとにしたオザワ部長の新刊『吹部ノート 12分間の青春』(発行:(株)日本ビジネスプレス 発売:ワニブックス)が好評発売中。
吹奏楽部員、吹奏楽部OB、部活で大会を目指している人、かつて部活に夢中になっていた人、いまなにかを頑張っている人に読んで欲しい。感涙必至です!
ここから物語の主役は、ユーフォニアムを担当する部長・アヤナに移り、ウルスラが直面する「福島のジンクス」への挑戦が描かれていく——。
「あっち」の世界へ行きたい
「ずるいずるい! お姉ちゃん、ずるい!」
小6だった伊藤絢菜(アヤナ)の視線の先にいるのは、聖ウルスラ学院英智高校吹奏楽部の一員としてステージで演奏する姉の姿だった。
アヤナは今年、ウルスラで部長を務めている。7年前に目にしたその光景と、思わず自分が口にした「ずるい」という言葉はいまでも鮮明に覚えている。
アヤナは吹奏楽をやっていた4つ上の姉に憧れ、中学校から吹奏楽部に入り、ユーフォニアムを担当した。けれど、名門バンドであるウルスラのコンサートは自分たちとはスケールが違った。大きな会場に二千人近い観客。色とりどりのライトに照らされてクラリネットを演奏する姉は、まるでスターのようだった。
「ずるいなぁ、いいなぁ……」
姉は眩しいステージにいるのに、どうして自分は客席なんだろう。姉妹なのに、「あっち」と「こっち」の距離はあまりに遠かった。
アヤナは姉が出るコンサートやイベント、全日本マーチングコンテストも見にいった。動画共有サイトにアップされるウルスラの動画も繰り返し再生した。姉はネットの中でも輝いていた。
その4年後、姉の姿を追いかけるようにアヤナもウルスラに入った。

高校時代の姉は夜になって帰宅し、夕食を食べ終えるとリビングで寝落ちしていた。毎日部活で相当疲れているのだろう。それでも姉は、アヤナが寝るころに目を覚まし、勉強もしていた。ウルスラに入れば、自分も同じような日々を過ごすことになる。大変そうではあるけれど、充実しているように見えた。
自分も姉のような高校生活を送りたかった。コンクールはもちろん、中学では経験できなかったマーチングもやってみたかった。何より自分もたくさんのお客さんの前でステージに立ちたかった。
幼いころの自分が「ずるい」と感じた、「あっち」の世界へアヤナは飛び込んだのだった。
♪
予想していたとおり、ウルスラではまぶしくて、スケールの大きな体験が待っていた。
定期演奏会で大観衆の拍手を浴び、大阪城ホールでおこなわれた全日本マーチングコンテストにも出場した。スーパースターがライブを開くような会場に自分が立っているのが信じられなかった。初めてのマーチングに苦戦はしたけれど、少しは自信にもなった。

ほとんどが良い思い出になったが、全日本マーチングコンテストにはポツンと黒いシミのようなものが残った。
全国大会と呼ばれるものにアヤナは初めて出場した。県大会も金賞、東北大会も金賞、と喜びが続いた後の全国大会は銀賞。
(そう簡単には全国大会金賞なんてとれないんだな。全国は甘くないんだ)
アヤナは現実を知った。だが、それに打ちのめされることはなく、大会が終わったその日から「来年金賞をとるためにはどうしたらいいか」と考えはじめた。
一方、高校を卒業して東京に出ていた姉にも電話をかけた。
「大阪城ホール、きれいだったでしょ?」
耳に響く姉の言葉に、アヤナは笑顔で答えた。
「うん! ライトのひとつひとつがおっきくてびっくりだよね!」
姉と同じ景色が見られた。姉と同じ経験ができた。それが嬉しかった。
マーチングに打ち込んだ高2
高2は、思うところの多い1年間となった。
この年、ウルスラでは初めてCメン(コンクールメンバー)55人を選ぶオーディションがおこなわれた。2年生のアヤナたちにもチャンスがあった。
「先輩はうまいけど、やるからには本気でやったろう!」
アヤナは真剣に練習に取り組んだ。だが、オーディションの結果は、不合格だった。
「案の定か……」
精いっぱいやったつもりではあったけれど、やはり先輩にはかなわなかった。Cメンとして活動できないことよりも、不合格を突きつけられたことが悔しかった。
アヤナは高1に続いてMメン(マーチングメンバー)になった。驚いたのは、練習を仕切るリーダー、6人いるマーチング係のひとりに選ばれてしまったことだった。アヤナはマーチングを始めて1年しか経っておらず、演技しながらの演奏にまだ慣れていなかった。一方、ほかの5人のマーチング係は全員が中学時代に全日本マーチングコンテストを経験していた。
「私だけ初心者レベル……。ほかにも経験者でマーチング係をやりたいって子がいたのに、なんで私が?」
とてもじゃないが、みんなの前に立って偉そうに指示を出すことなどできそうにない。
マーチング係に選ばれた翌日、アヤナは及川先生に勇気を出して「マーチング係をやめたい」と告げた。怒られるのを覚悟していたが、及川先生は静かにこう語った。...