吹奏楽部員たちが部活に燃える日々の中で、書き綴るノートやメモ、手紙、寄せ書き……それらの「言葉」をキーにした、吹奏楽コンクールに青春をかけたリアルストーリー。ひたむきな高校生の成長を追いかける。
第43回は愛知工業大学名電高等学校(愛知県)#3(#1はこちらからご覧になれます)。
本連載をもとにしたオザワ部長の新刊『吹部ノート 12分間の青春』(発行:(株)日本ビジネスプレス 発売:ワニブックス)が好評発売中。
吹奏楽部員、吹奏楽部OB、部活で大会を目指している人、かつて部活に夢中になっていた人、いまなにかを頑張っている人に読んで欲しい。感涙必至です!
5年前、コロナ禍で夢を絶たれた姉・マナの想い。副部長の川口るりは、姉が着られなかったステージ衣装(トニック)にそのすべてを託し、コンクールに挑む。そんな彼女の元に、姉自身が「顧問」として帰ってきた。姉であり、先生でもある特別な存在との日々は、自由曲のソロという重圧に悩むルリをどう変えていくのだろうか……。
先生になった姉
「川口先生——」
ルリは、学校でマナに話しかけるときは、そう呼ぶことにしていた。学校内で話すときは基本的に敬語だ。
仲良し姉妹。まわりも、マナがルリの姉だということはみんな知っている。それでも、公私の切り替えは必要だと思っていた。
最初のうちはお互いに気まずさがあり、学校内ではあまり口を利かなかったが、だんだんと良い距離感で接することができるようになった。スマートフォンで連絡をとるときは、学校や部活関係はショートメール、姉妹としてはLINE、と使い分けをしている。
登校するときは別々に家を出るが、帰りはマナの車に乗せてもらう。車に乗った瞬間から、ふたりは姉妹に戻る。
車内で話すのは部活のことが多い。ルリは自分たち幹部が目が届きにくい1年生の様子を姉に尋ねたり、パート練習での悩みを打ち明けたりする。一方、マナはコンクールやコンサートなど本番の後で妹に率直な感想を伝え、音程やリズムにダメ出ししたり、よかったときには素直に褒めたりする。
車の中は姉妹の貴重なコミュニケーションの場となっていた。そして、ルリにとっては、やはり姉が吹奏楽部にいてくれるのは何よりも心強いことだった。
♪
マナは、ルリが自分の後を追うように名電の吹奏楽部に入ってから、大きく成長したと感じていた。
ルリはサバサバした性格で、やさしさも持っており、4人兄弟の中でもっとも家族思いだ。学校内に姉がいるという状況はやりづらいはずなのに、ひと言も不平を言わずにマナを立ててくれる。名電でそういう気遣いができるようになった。
自分のように、名電でたくさんのことを学んでほしいと思い、ルリに進学を勧めた。これまで演奏面などで何度も壁にぶつかり、家ではよく泣いていたこともあった。きっと部活では感情を抑えているのだろう。
ルリは悔しさを引きずるタイプだが、単に悔しがるだけでなく、自分なりにもがいて乗りこえようとする。そこがいいところだとマナは思っていた。わざわざ家までテューバを持ち帰ってくることもあり、そんなときはマナティーレッスンをしてやった。
今年は副部長にも選ばれ、幹部のひとりとして部活を引っ張る姿には頼もしさを感じられるようになった。
部長のナギサも、ルリを含めた4人の副部長も、みんな壁に突きあたったときにとことんまで突き詰め、どうにかしようとする。この子たちにはリーダーを任せても大丈夫だという安心感があった。
ただ、5人の幹部には少し心配なところもあった。...