侍ジャパンの4番、鈴木誠也。「野球をもっと楽しむ場所を作る」ことを目指した「オンラインBASEBALL PARK」では、自身の実際のプレーを解説するコンテンツを配信する。ここでは、日本球界屈指のスラッガーとなった鈴木誠也の「過去」に迫る。果たして、世界が注目するスラッガーはどんな幼少期を過ごしてきたのか? 

 

幼少期を振り返って気づく「考える力」の重要性

 鈴木誠也です。

 今回から数回にわたって、僕自身の半生を振り返りながら、これまで経験してきたことが今にどう生きているか、どう感じているかを綴ってみたいと思います。

 目的は「野球」について自分で考えることの大事さと、(あくまで僕が思う)考える力のつけ方を提示することです。

 「誠也選手のように“トップレベルの選手であり続けながら野球を大好きでいる”ためにはどうすればいいのか教えてほしい」という編集部からのとても難しい問いに、なんとか答えることができたらいいなと思います。

 そして、野球をしている子ども、教える指導者はもちろん、それ以外のスポーツにたずさわっている子ども、教育関係者の方々に、なにかヒントになってくれれば、と。

父親のジャイアンツ中継を消していた幼少期

 僕は野球が大好きです。プレーするのはとても楽しい。もちろん、悔しいことやつらいこと、きついこともあります。でも、やっぱり野球がやりたくなるし、もっとうまくなりたい、日本のどの選手にも負けたくないという気持ちが生まれてきます。

 大前提として、この「楽しむ」という状態は、何をするにせよとても大きな要素になると思っています。というのも、「楽しい」「好き」でいられることで、積極的に「もっとうまくなる方法」や「同じ失敗しないための取り組み」について考える力が養われるからです。

 当たり前のことですが「いやいや」やっていることに対して、自分から考えてみようとか新しいことを取り組もうと思える人は少ないと思います。

 僕が野球をはじめたのは祖父のすすめで2歳のころだったと聞きますが、それについてはまったく記憶がなく、物心がついたころは「やらされる野球」があまり好きではなかった記憶があります。

 チームに入ったのが小学2年生のときのことです。仲のいい友達や幼馴染の女の子が野球を始め、それを見に行ったことがきっかけで「僕もやってみたい」と思うようになりました。

 皆と同じチームではじめたのですが、その後、「どうせやるなら」と言う父親のすすめもあり硬式チームが活動の中心となりました。この頃はとにかく「する」ことが大好きで、あまりプロ野球やメジャーリーグの試合を観ていた記憶がありません。

 むしろ、父親がいつもつけていたジャイアンツ戦の中継が好きではなくて、勝手に消していました(笑)。

 子どもの頃からうまかったんでしょう? そう聞かれることがあるのですが、実はあんまり「うまい」「下手」という記憶がないんです。

 もちろん始めたばかりの頃はボールを捕ることもできなくて悔しくて悔しくて、父親とキャッチボールをしたり、フライを捕る練習をしたりしていました。あと、覚えているのは二年生のときに六年生のピッチャーと紅白戦で対戦したときのこと。デッドボールを受けて、あまりの痛さにその場で泣いた。父親が「泣くんだったらやめろ」と言われて、もう一回打席に立ちました。あれは、よく覚えています(笑)。

 ただ、そんな自分がどういうレベルだったかについては本当にわかりません。というのも、ただただ「楽しかった」んですね。遠くに投げること、打つこと。仲間とやること。それが楽しくて仕方なかった。

 だから、自分がうまいのか、下手なのかということを考えたことがありませんでした。練習がない日は、外で集まって遊びの野球。当時はテレビゲームなんかも流行りだしていたんですけど、たまにやるにしても野球ゲーム。

 しかもコンピューター同士が対戦する映像を延々と見ながら、バッターはどうやって打っているんだろうとか、次は何を投げるんだろうなんてことを考えて楽しんでいました。ちなみに野球グッズを集めるのも好きだった僕は――いつも年始の福袋で買うんですが――、それでゲットした「野球のヘルメット」をかぶりながら、コンピューターの対戦を見ていました(ゲームをするのではなく、コンピューター同士の対戦を!)。

 笑い話ですけど、それを見た父親が絶句して「お前、頭大丈夫か?」って(笑)。

東京五輪では4番として全試合に出場した鈴木誠也。

野球の楽しさ「遠くへ飛ばす」「投げる」

 まあ、小学校時代の自分自身を振り返ると、本当にただ野球漬けでした。自分でも「狂ってるな」と思うくらいです。声を大にして言えませんが、勉強をした記憶もありません。勉強を諦めた記憶なら、あります。ただ、(これは大人に書きなさいと言われてるわけではなく)本音で「もうちょっとちゃんと勉強はしておくべきだった」といまは思います。

 とはいえ、あの時代がなかったらいまの僕があるのか? そんなふうにも思うので、とても難しいですよね。

 とにもかくにも野球に没頭した僕は、こうしていまプロ野球選手としてプレーをしています。

 ここまででひとつ覚えてもらえたらと思うことが、僕がやっている方法をそのままやることが「プロ野球選手になる」方法ではないということです。

 野球は正解のないスポーツで、誰かと同じことをしたからといって同じようになれるわけではない。例えば、勉強をせずに没頭すればいいのか、と言えばそれがあう人もいれば、合わない人もいる。

 大事なことは、自分にとって何がいいのか、悪いのか、それを自分で感じ取り、見つけ、行動すること。たまたまそれが僕と一緒かもしれないし、違うかもしれない。

 このたまたまが重要で、もし「僕がやってたから」という理由で、僕の真似をするようでは、なかなか成長しないと思います。

 きっとこれが「考える力」なんだと思います。


 人の真似をするのではなく、自分で考える。アンテナを張り、吸収することは大事ですからどんどんしていくんですけど、最後は自分の感覚を大事にしなきゃいけない。そう思います。

 実は、プロにいるような選手でも、こうして「自分で考える」ことが苦手な人は多くいます。コーチに言われたからといってフォームを変える。それがいいのか悪いのか、「判断」に自分の考えがあまり入ってきません。

 これはもしかすると、子どものころからの指導に影響があるのかなと思うことがあります。オフの間など、野球教室をすることがあるのですが、そこで出会う子どもたちに「本当に野球が楽しいのかな」「野球の楽しさを知ってるのかな」と感じることがあります。

 僕の場合、小学生の頃は特に仲間とやる野球が楽しかった(外で遊ぶことも楽しかったんですが)、それが一番のモチベーションでした。指導者の方からも、技術的なことを教わることはほとんどありませんでした。

 ですが、僕が大人になって行く野球教室などでは、ものすごく「形にこだわる」子どもが多いように感じます。例えば、体格が小さい子はバットを短く持って小さく振る。打ったらすぐ走れ――なかには左バッターに転向した子もいると聞きます。

 そうした指導が子どもたちの楽しいに合っているのであればいいのですが・・・どうしても「遠くに飛ばす」「速く投げられる」といった、野球の本質的な「楽しさ」を失っているんじゃないかとつい気になってしまうのです。

指導者の役目は「楽しい」を作ること

 オリックスの吉田さん、西武の森選手といった「体格が大きくなくても遠くに飛ばせる」バッターはプロにもたくさんいます。彼らはきっと、小さい頃から技術的なことを事細かく言われることなく、自分なりにやりたい、楽しいと思う方法で取り組んできたからいまがあるはずです。

 指導者の気持ちもわかります。少しでもうまくさせてあげたい、とか生きる形を探してあげたい、という思いが技術指導に繋がっているのだろうとも想像できます。

 ただ、僕個人としては、小学生くらいまでは「好きなように、伸び伸びと」楽しくできる環境を整えてあげることが大事なのではないかなと感じます。早く明日の練習が来ないかな、自主練習をしようかな、そう思えるような「楽しさ」です。

 指導者の役目としても、この世代については「中学校、高校まで野球を続けたい」と思えるような環境を作れるか。それが大事なのではないかな、と思うんです。

 もちろん「基本」的(この「基本」についてはまた今度書いてみたいと思います)を教えることも必要です。ただ、僕が思う野球の基本は「捕ること」「ボールを遠くに投げられること」「遠くに打てること」これだと思うんですね。

 小学校の頃、いつもどうしたらもっと遠くに飛ばせるか、速く投げられるか、ということばかり考えていたことをよく覚えています。それが父親に恐れられた「ヘルメット少年・鈴木誠也」を生んだわけですが・・・。

 みなさんはどう思うでしょうか。次回は、もう少し小学生の頃を振り返りながら、中学生時代の「ターニングポイント」を紹介したいと思います。

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鈴木誠也『オンラインBASEBALL PARK』

野球ができる場所が減っていると言われます。
「オンライン・ベースボールパーク」では、「見る」「する」「教える」がもっと面白くなるコンテンツを、侍ジャパンの4番・鈴木誠也、元楽天監督でソフトバンクコーチの平石洋介、ソフトボール元日本代表・長崎望未、そしてトップトレーナーの「Body Updation」が深堀り配信していきます。

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