2021年8月31日、約20年間駐留していたアメリカやNATO加盟国の多国籍軍が、アフガニスタンから完全に撤退。それと同時に、イスラム主義組織「タリバーン」が力を再興させ、アフガニスタン全域を統治下においている。

 タリバーン政権の厳しい情報統制のなか、アフガニスタン国内のメディアも、世界各国のメディアも自由な報道体制を失い、アフガニスタン国内の動きはほとんど見えなくなっている。

 長年、同国を追い続けてきた戦場カメラマン・渡部陽一氏が、タリバーン政権下のアフガニスタンに思うこととは?

 
「現場」でしか知れない、世界のホント。

「戦場」の真実をどのくらいの人が理解しているか。戦場にある悲惨な現実。犠牲になるのは子どもたち。一方で、戦場にいる人々は「私たちと同じ」日常を持っている。これも「戦場の本当の姿」――。戦場カメラマン渡部陽一が撮ってきた写真の中から、1000枚をピックアップ。写真とともにその背景を知る。「戦場の真実」と「世界の本当」を学ぶ。

 

 

イスラム主義組織「タリバーン」が政権を握ったアフガニスタンの今

 こんにちは、戦場カメラマンの渡部陽一です。

 アフガニスタン情勢が大きく動いています。2001年から約20年間、アメリカやNATO加盟国の多国籍軍が、アフガニスタンの治安維持や復興を支える目的で駐留してきましたが、2021年8月31日、多国籍軍はアフガニスタンから完全撤退しました。同時にイスラム主義組織「タリバーン(※)」が力を再興し、アフガニスタン全域を統治下におきました。

※タリバーン(タリバン)
アフガニスタンで活動するスンニ派組織。これまでアフガニスタン政府や駐留外国軍を主な標的としてテロを実行。2021年8月にアフガニスタンの実権を掌握。

 当初タリバーン政権は、今後アフガニスタンの国民に対して「融和路線」をとると宣言。女性や子どもの自由教育、女性の社会進出をはじめ、イスラムの思想の上で誰しもが自由に生活を保ち、“厳格さ”ではなく、オープンな国家体制をつくっていくという姿勢を世界中に配信しました。

 そこから約1年が経過しています。しかしタリバーンはアフガニスタンの情報統制を強め、同国の動きは見えづらい状況です。

 アフガニスタンから出国した方々の話では、女性や子どもの教育や社会進出は遮断され、家からも自由に出ることができない状況に陥っているといいます。

 タリバーンが当初宣言していたこととは裏腹に、実際はかなり強いイスラムの考え方を国内で強めている。これが約1年間のタリバーン政権のひとつの見え方であると感じています。

アフガニスタンの人々が余儀なくされている労働とは……

 タリバーン政権が再興すると同時に、医療をはじめとした国際支援は遮断され、小さな命、助かるはずの命も奪われています。そして、大きな社会問題となっているのが貧困です。現時点でアフガニスタンでの失業率は非常に高く、食べていくための仕事、雇用というものがありません。 

2009年4月 渡部陽一撮影

 この写真、きれいな花畑が写っています。じつはこの植物は「ケシ」。麻薬の原料となるケシを栽培している場所です。

 自給自足で暮らす人であっても、穀物を栽培するだけでは家族を支えることができません。過激派組織が入り込んだ地域では、ライフラインを保つためにケシを栽培するしか選択肢がない。そうしないと食べていくことができないんです。

 これがアフガニスタンの貧困のなかで生きていくための、ひとつの厳しい壁。このようなケシ畑を、たくさんの地域で確認しました。

現・タリバーン政権のアフガニスタンに必要なもの

 「アフガニスタン」と聞くと、「戦争」「テロ」「タリバーン」など、悲しい事件の印象が強いかもしれません。しかし、アフガニスタンという国に暮らしている方々の多くは、優しく、穏やかで、親日的で、日本のことをたくさん知りたがっている。日本のアニメ、音楽、ファッション、グルメなども大好きです。

 そして、イスラムの教えを大切に守っている方々がアフガニスタンにはたくさんいます。イスラムの教えの原点は「寛容の精神」。困ってる人がいれば寄り添い、できることで支えていく。お互いが連帯の力を持ち、寛容の心で、イスラムの教えで支えていく。ほとんどのアフガニスタンの方々が、敬虔なイスラム教徒として、こうした思いを持っているんです。

 一方で、テロ事件を起こした過激派組織「IS」など、かなり強硬な姿勢の人々もいれば、タリバーンの中にも融和路線をとる人もいます。アフガニスタンという国自体が、さまざまな考え方に揺さぶられています。

 そんなアフガニスタンに対して必要なのは、世界各国が連帯し、この国を「孤立」させないこと。

 なぜなら、過激派が孤立した状態で国家体制を保とうとすると、同様の思想を持った武装勢力やテロ組織が世界中からこの地域に集まり、資金や情報や武器を整えて、世界各国に派遣されていく、いわば「テロの拠点」といった場所になってしまうからです。

 テロを温存させる力が深まらないように、オープンに風を通していく。たとえ国家承認がなくても、民間のなかでの外交、NGO、国連の繋がりのなかでできる支援があります。教育・医療の支援、道路・橋・空港などの交通網やインフラの整備など、それぞれの国が得意とすることで支え、連絡、人脈、情報のルートの繋がりを常に保っていくことが大切だと考えています。

 医療支援の遮断、貧困、ケシ栽培などの問題も含め、仮にタリバーン政権が厳格な支配によって国民を締めつけているとしても、世界各国の連帯によって、アフガニスタンを支え、孤立させないこと。それが現在のアフガニスタンに必要なことだと感じています。

日本がアフガニスタンにできること

 僕は戦場カメラマンとして世界各国を回るなかで、アフガニスタンもずっと追いかけてきました。そのなかで、首都カブール、大都市のジャラーラーバード、ガルデーズ、カンダハルなどで、日本からの教育支援が実際に届いているのを目にしました。

 教育の土台の力、基礎教育の連帯の考え方、そして経済的な力による教育支援の方向性など、日本による教育の支援はもうアフガニスタンの中にたくさん染み込んでいます。このライフラインのパイプを、日本人としてこれからも大切にしていけたらと願っています。

 タリバーン政権下のアフガニスタンに、僕は今後も足を向けていくことになります。アフガニスタンの国民の声、戦場にも学校があること、そして戦場の学校の子どもたちの声、真摯な学びの姿勢や眼差し、その教育の土台には日本とのつながりが強くあること。そんなアフガニスタンのリアルをこれからも皆さまにお届けしたいと思っています。

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 今回ご紹介した情報以外にも、渡部陽一さんがアフガニスタンで一番印象深かったこと、学校の教室の光景、子どもたちの学ぶ姿勢、アフガニスタンのカフェ「チャイハネ」など、ニュースでは取り上げられていない最前線の情報を、動画『渡部陽一 1000枚の「戦場」』で明かしています。ぜひご視聴ください。

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世界中でどのくらいの「争い」が存在していて、それはなぜ起き、今どうなり、これからどうなっていくのか。そしてその「戦場」に思いを馳せられる人はどのくらいいるでしょうか。
渡部陽一が撮ってきた「戦場の写真」をベースに、争いの背景、現実とその地域の魅力について解説するコンテンツです。

 

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