4月27日のLive配信#2のアーカイブを配信。ドイツ育成年代の指導エキスパート・中野吉之伴さんとの対談です。サッカー先進国のグラスルーツの指導方法、指導者の条件、成長するための選手が持つべき素養など(以下は本編の一部)。

(聞き手・シンクロナス編集部)

這い上がるエネルギーの元はどこまで指導できるのか?

――日本の育成年代への課題を欧州の強豪国と比較して指摘されることは多いと思います。強豪国の「育成の勝利」で言えば、2014年にドイツがワールドカップで優勝したことは一つのエポックであり、ドイツ育成界の成果だとよくいわれています。その申し子が(マリオ・)ゲッツェ(現PSV)だとも。

ドイツ育成界のサンプルとして最も輝いた選手が、その後ちょっと伸び悩んだ。

病気とかいろいろあったんだと思うんですが、ゲッツェは(あくまでも報道ベースのイメージです、他のトップレベルの選手と比べると)おとなしく、そんなに荒々しいプレーヤーには見えなかったりします。

もちろん、まだ29歳で今年もオランダですごく活躍されていますが、こういったところ(ゲッツェが伸び悩んだ事例)はドイツの育成界・サッカー界でどういう風に見られていると想像されますか?

中野吉之伴 たしかに、ゲッツェはそのチームの先頭に立ってガンガン引っ張るリーダータイプではないですし、真面目に自分のプレーと向き合うタイプの選手だったと思います。

監督からの信頼を第一っていうところ(に重きを置く選手で)もあった。

とくに、最初にユルゲン・クロップ(現リヴァプール監督)という指導者の下でやっていたことが大きいのかなと思うんですよね(※)。

※ マリオ・ゲッツェは8歳からドルトムントユースで育った。2009-10シーズンのウィンターブレイクにゲッツェをトップチームに昇格させたユルゲン・クロップ監督の下、4シーズンプレーしたのち、2013年7月にバイエルン・ミュンヘンへ移籍した。

あれだけ引っ張っていってくれて、包容力があって、リーダーシップがある指揮官のところでやって。

そこから自分で殻を破って成長したいと思って、ジョゼップ・グアルディオラ(現マンチェスター・シティ監督)を選んでバイエルンに行きました。

でも、クロップの下でやってきた環境と、ペップ(の下でやってきた環境)との違いがあったんだろうなと思うし。

別にバイエルン時代も悪いプレーをしたわけじゃなくて、どちらかというと活躍していた選手でもあるんですけど(注:バイエルン時代のゲッツェは3シーズンプレーし、73試合22得点を記録した)、じゃあワールドクラスで、それこそリオネル・メッシ(現パリ・サンジェルマン)、ネイマール(現パリ・サンジェルマン)、クリスチアーノ・ロナルド(現マンチェスター・ユナイテッド)と比肩できるかといったら、そこまで(の成績)は上がらなかったと思うし。

でも、いろんなめぐり合わせが、選手ってあるんだろうなと思うので。

ゲッツェだってバイエルン時代に決定的なところで、それこそ2014年W杯決勝のようなゴールをあと1個決めていたら、ひょっとしたら何か全然違うストーリーがあったかもしれないですし。

だから、育成でできる限界、っていったらあれですけど、(指導者に)ストーリーは準備できないですよね?

 

岡崎慎司 はい、そうですね。

中野 資質とかそういうところはあるけど、でもそこからどういう風になるのかというのはタイミングとか運とかめぐり合わせとか監督とか、スタッフ、チームメイトとの出会いってあると思いますし。

それこそ、レスター(・シティ)があのとき(2016年、クラブ創設132年の歴史で初のプレミアリーグ)優勝したのだって、すごくいろんな要素が噛み合ったからだっていうのもあったと思います。

それを、選手がものにできるかどうかっていうのは……。

岡崎慎司 そうですね。逆に言ったらでも、どこまで(指導者は)用意したらいいんですかね?

人間力というのも、今日のテーマの一つではあるんですけど、這い上がる、のし上がるエネルギーの元というか、そういうのはどこまで指導者が関与できるのか。

ドイツではどういう風に捉えられているのかなとは、ちょっと気になりますね。どういうタイプが大成するのか。

中野 ここ最近、特に(ドイツで)議論されているのは、育成年代でいろんなことを準備しちゃうと、自分で克服できる力が身につかないから、本当に必要最低限のもので、あとは、自分でちゃんと目標を見つけて取り組んでいける環境を作る方がいい、と。

それこそトーマス・トゥヘルがそんなことをよく言ってるんですけど。

今、世界のトップクラスで、育成でものすごい施設があって、スタッフもたくさんいて、なんでもかんでもやってくれるっていうところが、逆に彼らを伸び悩ませてるっていう見方をする人が増えてきているので。

ある程度、……なんだろう。ここから自分が上がるにはどうしたらいいだろう、とか、「次の試合もっといいプレーするにはどうしたらいいだろう」っていうところを、自分で考えて、それに取り組める環境をこっち(指導者)がちゃんと作ってあげることが、そのあとプロとやっていったときに、課題と向き合って、解決して、チャレンジしてという大事なところにつながると思うので。

岡崎さんも長くこっちにいて(感じると思うんですけど)、ヨーロッパで活躍する選手って自分で問題点を見つけて、解決策を見つけてっていうのを長い時間やって乗り越えてきた人たちだと思うので。

岡崎 それは僕じゃなくても、他の長くやられてきてる選手と話していても感じます。(海外でそれを経験せずとも)日本でもそういう経験を一回している選手が多いのかな、と。

逆に、(プロ入り後も)順調にいってる選手ほど大人になると伸び悩んでいるな、っていうのふうに見えていて。いろんな(才能のある)選手を振り返って思うんです。

そのときに指導者はどう手を差し伸べるべきなのかな、と。ずっと試合に出続けてきた選手に、その先のビジョンをどう見せていくのか。

例えば、U17とかではずっと出続けているけど、トップに上がったときに、それまでが順調だったがゆえに、課題にあまり向き合わずにそこまでこれたから、伸び悩む、っていうことがあると思うんです。

そのあたりは、対応があるのかな、って考えたりします。

中野 ドイツでサッカーだけじゃなくて、育成全般について心理関係の仕事をされている方と話をしたときに、「勝ち続けたり、負け続けたりしている人は、どこかで成長が止まる」っていう話をされていて。

やっぱりうまくいった経験、うまくいかなかった経験、両方をしていかないと人って最後のところで伸びてこないっていうのがあるので。

……続きは【動画】からお楽しみください!

◆総再生時間:2時間15分42秒 

【動画内容】ヘッドライン

・欧州CL・焦らないレアル・マドリー vs 成熟のマンチェスター・C
・欧州CLで岡崎慎司が決めたボレーシュート秘話
・中野吉之伴さんがドイツで指導者になった理由
・世代別でどういう指導をしているのか?
・ドイツで奨励される「ハーレンフースバル」
・ドイツのクラブはグラウンド2~3面あるのが当たり前
・世代を超えて交流できる――社会のおけるスポーツクラブの在り方
・ドイツ育成界の指導者の給料事情
・日本人が真似すべきこと・ヒントになること
・順位表を見ても何も変わらない――フライブルクがやり続けていること
・試合環境に現場を合わせる
・育成年代の議論のテーマ「どこまで教えるべきか」
・ボディランゲージ、ゼスチャーも自己主張の一つ
・日本にあってドイツにないもの
・ドイツ育成界の申し子・ゲッツェの伸び悩みをどう見るか?   ☜記事掲載中!
・育成年代ではどこまで用意したらいいのか・どういう選手が伸びるのか☜記事掲載中!
・トーマス・トゥヘルの考え「必要最低限のものだけでいい」
・「勝ち続ける」「負け続ける」の両方の経験がないとダメと言われる理由

【質問】
Q1. スカウトを通してステップアップ的な移籍以外で、地域クラブの選手が地域外にクラブを変えることに対しての、ドイツの考え方などがあればお聞きしたいです。小学校からサッカーをやってきて、チームや指導者と合わず、チームをやめる、イコール競技から離れる人を見て、自分より上手いのに、もったいないと思っていました。
【質問】
Q2.ドイツ(ヨーロッパ)では、わがままと自己主張の境界線はありますか?【質問】
Q3. 指導者には、どういう条件を求められていますか?

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