「平石洋介 PICK UP SCENE~正解のない指導論」

 

オンラインBaseball Park
鈴木誠也&平石洋介&長崎望未「野球を楽しむ場所」

選手との距離感を細かく変えながら「すべきこと」を整理する平石指導理論を紹介。例えば、栗原陵矢が放ったホームラン、それまでに取ったアプローチはどんなものだったのか?

 


「オンラインBaseballPARK」で毎月配信する指導論。今回は、平石洋介が考える厳しい指導と指導者の関係性について。

選手にきついトレーニングをさせるには?

 野球シーズンはひと段落し、メディアを賑わせるテーマは契約更改や移籍などがメインです。しかし選手たちは決して休んでいるわけではありません。

 冬を超えて成長する、とはよく言ったもので「試合ができない」この時期に、体を休めながらも、いかにトレーニングを積み、能力を上げていくことができるかは、翌シーズンの成否を決めると言っても過言ではありません。

 選手によっては、この時期のトレーニングが一年の中で最もきつい、という人もいるほどです。

「きついトレーニング」。決してやりたいものではありません。誰だって、楽をしたい心があるものです。でも、やらなければうまくならない、試合で勝てない、ライバルに負けてしまう……。

 やりたくないけど、やらなければいけない「きついトレーニング」と指導者はどう向き合うべきでしょうか。今回は、そんな視点で綴ってみたいと思います。

 指導をしていると「トレーニングをさせたい」「鍛えさせたい」という思いが先行してしまうものです。きついトレーニングを乗り越えた先に、選手の成長した姿を思い描き、それに向かって試行錯誤する。

 しかし、実際に選手たちにそれを意欲的にしてもらうのは、とても難しいことです。

PL学園の大先輩が示した指導者の資質

 僕らが現役でプレーしていた時代は「厳しさ」が「やらせる」ひとつの方法でした。事実、選手側からすると「(やらなきゃ)怒られる」という思いがトレーニングへと駆り立てた側面はあったと思います。

 ただ、それだけではなかったな、と今、当時を振り返ると思います。指導者に対して尊敬の思いがあったからできたんだ、と。

 PL学園時代、コーチとして練習メニューを考え、鍛えてくれたのは清水孝悦さんという方でした。清原和博さんや桑田真澄さんより一つ上の世代の大先輩です。心酔していた僕は、清水さんが通われた同志社大学を選んだものです。

 当時の清水さんは僕たちにとって「怖い存在」ではありましたが、それよりも「尊敬すべきコーチ」でした。

 いつも練習にどういう意図があるのかを説明してくれ、また新しい練習方法を積極的に勉強されていました。PL学園はプロを含め、多くの選手が卒業後もさまざまなところで野球をします。清水さんは、そこで見た、感じたものを聞きに行き、学び、僕たちにフィードバックしてくれたのです。

 つまるところ、「いい指導者」が持っている資質とは、「厳しさ」とか「優しさ」といった感情的なものではなく、いかに勉強しているか、という指導者自身が自分に向けたベクトルなのだろうと思います。

 新しいことを学ぼうとしている、自分が経験的にいいと思ったことでも疑える、これが正しいと押し付けない……そういった自問自答をしながら、指導に当たれる人。

 そもそも指導を受ける選手たちには夢があります。高校時代で言えば、「もっと野球がうまくなりたい」「甲子園で優勝したい」、それが夢であり目標でした。

「つらい冬を乗り越えれば、その夢に近づける」そう思えるからこそ、目の前のきつい練習に取り組めました。

 だからこそ、「厳しい」「優しい」ではなく、具体的にどうすれば成長できるか、甲子園で優勝できるか、その道を示してくれる指導者の言葉こそ、信頼するのだと思うのです。

 野球に正解はありません。だからこそ、それを学び続ける指導者の姿勢は、指導者自身にとって大事であるだけでなく、それについていく選手たちにとってもとても大事なモチベーションであることを知っておく必要があると思います。

PICK UP SCENE #1「栗原陵矢、逆方向へのHR」