吹奏楽部員たちが部活に燃える日々の中で、書き綴るノートやメモ、手紙、寄せ書き……それらの「言葉」をキーにした、吹奏楽コンクールに青春をかけたリアルストーリー。ひたむきな高校生の成長を追いかける。

第36回は東海大学付属高輪台高等学校(東京都)#6(#1はこちらからご覧になれます)。

本連載をもとにしたオザワ部長の新刊『吹部ノート 12分間の青春』(発行:(株)日本ビジネスプレス 発売:ワニブックス)が好評発売中。

吹奏楽部員、吹奏楽部OB、部活で大会を目指している人、かつて部活に夢中になっていた人、いまなにかを頑張っている人に読んで欲しい。感涙必至です!

ソロを吹く覚悟を胸に

 春になり、ナユセたちにとって高校生活最後の1年となる2025年度を迎えた。

 ナユセは、「高輪台は今年も全国大会確実だよね」「全国金賞とって当たり前だよね」と言われるのが好きではなかった。正直言って、そんな気楽なものでも簡単なものでもない。むしろ不安でいっぱいだった。そんなふうに期待されているのを裏切りたくはないし、いつも気分は崖っぷちだった。

 やはり、もっともつらいのはクラリネットの3年が自分ひとりだということ。高輪台の歴史の中でも前代未聞のピンチだと聞いていた。

「私、やっていけるのかな……」

 ナユセは不安になり、何度も泣いた。

 おまけに、手にした自由曲《アニマ カンティコム》の楽譜の出だしに愕然とした。「solo」の文字があったのだ。

「えっ、曲の最初からいきなりソロ⁉」

 

 ナユセの記憶に焼きついているのは、高2のころのことだ。難曲《ブリュッセル・レクイエム》でやはり冒頭のソロを任された。クラリネットの音だけが響くという極限の緊張感の中で手が震え、ナユセは何度もミスをした。そして、涙を流した。...