吹奏楽部員たちが部活に燃える日々の中で、書き綴るノートやメモ、手紙、寄せ書き……それらの「言葉」をキーにした、吹奏楽コンクールに青春をかけたリアルストーリー。ひたむきな高校生の成長を追いかける。
第34回は東海大学付属高輪台高等学校(東京都)#4(#1はこちらからご覧になれます)。
本連載をもとにしたオザワ部長の新刊『吹部ノート 12分間の青春』(発行:(株)日本ビジネスプレス 発売:ワニブックス)が好評発売中。
吹奏楽部員、吹奏楽部OB、部活で大会を目指している人、かつて部活に夢中になっていた人、いまなにかを頑張っている人に読んで欲しい。感涙必至です!
敗北が教えてくれたこと
今年のコンクールに向けて、高輪台が演奏する曲はすでに決まっていた。課題曲は伊藤士恩作曲《マーチ「メモリーズ・リフレイン」》。そして、自由曲は今年も福島弘和による委嘱作品。タイトルは《アニマ カンティコム》。ラテン語で「魂の歌」という意味を持つ言葉である。
ただ、タイトルはついているものの、基本は純粋に音楽としての美しさや芸術性を追求した「絶対音楽」となっている。
サキは思った。
「この曲や題名に意味を与えていくのは、私たち自身なんだ——」
まだ誰も演奏したことがない新曲は生まれたての赤ちゃんのようなもの、と畠田先生もよく言っている。栄養を与え、知識を教え、健康な体を育み、美しくすこやかに成長させていく。それが委嘱作品に取り組むということだ。
《アニマ カンティコム》の楽譜を受け取ったサキは、目を通して驚いた。曲の中間部にあったのは「solo」の文字。昨年の課題曲に続き、今年のコンクールでもソロを吹くことになるのだ。

曲中のその部分はほかの楽器は弱奏となり、サキのフルートが浮かび上がる。きっと観客たちの耳もサキの音に惹きつけられるだろう。
(大事なソロだな……。去年のコンクールもそうだったけど、私はいままで自分のソロに納得できたことがない。でも、高校生活ももう最後。今度こそ、悔いが残らない、納得できるソロを吹きたい!)
そう強く思ったサキだったが、その矢先、試練に見舞われることになった。
「後輩に負けてしまうのではないか」という不安
高輪台では、例年6月に部内でソロコンテストをおこなうことになっている。個々の技術のレベルアップが目的だ。
もちろん、サキも参加することになっていたが、フルートのトップ奏者であるにもかかわらず、内心では強い危機感を抱いていた。
全国にその名を知られる名門バンドの部長は極めて多忙だ。150人を超える部員たちに目配り気配りもしなければならない。各地へ遠征する際には「部の顔」として振る舞わなければならない。必然的に、自分自身の練習時間は削られていく。
「今度のソロコン、後輩に負けるんじゃないか?」
先生に言われ、ハッとした。
自分は部長だし、フルートパートを代表するトップ奏者でもある。後輩に負けるのは、あってはならないことだ。
サキは少しでも練習時間をつくろうと、朝は学校が開門する6時15分に登校し、部活が終わった後もギリギリまで学校に残って練習を重ねた。...