吹奏楽部員たちが部活に燃える日々の中で、書き綴るノートやメモ、手紙、寄せ書き……それらの「言葉」をキーにした、吹奏楽コンクールに青春をかけたリアルストーリー。ひたむきな高校生の成長を追いかける。

第31回は東海大学付属高輪台高等学校(東京都)#2

本連載をもとにしたオザワ部長の新刊『吹部ノート 12分間の青春』(発行:(株)日本ビジネスプレス 発売:ワニブックス)が好評発売中。

吹奏楽部員、吹奏楽部OB、部活で大会を目指している人、かつて部活に夢中になっていた人、いまなにかを頑張っている人に読んで欲しい。感涙必至です!

ソロのプレッシャーと闘って

 春になって高2に進級したサキは、今度はコンクールメンバーの蒲公英に選ばれた。担当楽器は、アンサンブルコンテストに引き続いてピッコロだった。

 吹奏楽コンクール(大編成のA部門)では、課題曲(4曲の中から1曲)と自由曲を合計12分以内で演奏する。2017年以降、高輪台は自由曲として作曲家・福島弘和に委嘱した新曲を採用している。

 中には、コンクールで好成績をとるためにそうしているのではないかと邪推されることもあるが、畠田先生の思いは違っていた。

「全国大会で金賞をとるためなら、すでにお手本がある既存の曲を選ぶほうがいい。そうではなく、敢えて新曲をゼロから部員たちとつくり上げていく。大きな挑戦だし、その時間は尊いものだ」

 昨年の自由曲は《シンフォニエッタ第6番「息吹の花」》。激しさと美しさを兼ね備えた、高輪台にぴったりの曲だった。

 

 一方、課題曲は渡口公康作曲の《行進曲「勇気の旗を掲げて」》に決まった。初めてその楽譜が配られたとき、サキは驚きに目を見開いた。ピッコロの譜面の中に「solo(ソロ)」の文字を見つけたのだ。

(2年生の私がソロ。いいのかな……)

 55人の蒲公英には1、2年生の部員が15人入っていた。しかし、やはり3年生にとっては高校生活最後の大会。重要度が違う。また、課題曲は自由曲よりも前に演奏するため、その成否が結果につながりやすい。

 ピッコロのソロは、後半の盛り上がりの直前。ほかの楽器が小さい音で伴奏を奏でる中、高らかに奏られることになっている。もともと音が目立つ楽器でもあるため、小さなミスでもすぐに気づかれるだろう。

(2年生でメンバーに入っているだけでもプレッシャーなのに、ソロまで……)

 

 サキの背中に責任感と先輩への思いがずっしりとのしかかってきた。しかも、高輪台は前年まで全国大会で2年連続金賞。さらにプレッシャーは増した。

緊張するシチュエーションでの練習

 最初の予選(東京都高等学校吹奏楽コンクール)の演奏では、サキは緊張に負けてしまい、ソロを堂々と吹くことができなかった。高輪台は予選を無事通過したものの、サキは決して喜べなかった。

コンクール以外でも、いくつかの本番で《行進曲「勇気の旗を掲げて」》を演奏する機会があったが、そのたびにサキはソロでミスをし、完璧に吹くことができなかった。

 サキは畠田先生に呼ばれ、こう言われた。

「ピッコロのソロはお前じゃ無理かもしれない。ほかにも伸びてる子がいるから、場合によってはピッコロを代わってもらうかもしれないぞ」

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