日本テレビ「1億人の大質問!?笑ってコラえて!」で吹奏楽の旅が復活し、今年は旭川明成高校吹奏楽部(北海道旭川市)が密着取材の対象となった。
旭川明成高校といえば、オザワ部長・著『吹部ノート 12分間の青春』(発行:(株)日本ビジネスプレス 発売:ワニブックス)での感動的なエピソードも大いに話題になった学校だ。
2025年度の旭川明成高校の挑戦はまだ始まったばかりだが、その物語は2024年度からつながっている。
金属アレルギーの部長もステージに
2024年度、部長に選ばれ、部活を引っ張っていた3年生の「ヒメ」こと赤平陽芽(あかひらひめ)が金属アレルギーを発症。大好きだったユーフォニアムを吹くことも、コンクールに出場することもできなくなった。しかし、ヒメは腐ることなく裏方として部員たちを支え続けた。
旭川明成高校は全道大会で金賞を受賞するも、「吹奏楽の甲子園」全日本吹奏楽コンクールへの初出場はならなかった。
だが、ヒメは自分の進んできた道が正しかったこと、そして、仲間たちの努力が無駄ではなかったことを確信し、笑顔でコンクールシーズンを終えたのだった——。

さて、新年度を迎え、新たなスタートを切った旭川明成高校吹奏楽部はいまどうなっているのか。名指導者として知られる顧問の佐藤淳先生に、まずは昨年度の振り返りから聞いてみた。
「私が顧問になって3年目ということで、ようやく部活の形ができてきた年でした。まだ技術だけではライバル校に太刀打ちできない状況の中、部員同士がお互いを深く理解しあうことで、総合力で音楽を高めていこうというのが柱になっていました」
音楽は技術だけではない、心が変われば音楽も変わる、というのが前任校の北海道旭川商業高校吹奏楽部を指導していたときからの淳先生のポリシーだ。

「去年は部長のヒメが金属アレルギーになったことで、部全体に心の成長、お互いの理解が進んだ年になりました」
ヒメは3年間の活動の締めくくりである定期演奏会でも、基本的には裏方を務めた。コンクール曲だった《メルヘン》と《Crossfire 2023 ed. - November 22 J.F.K》を披露するときには、「みんなと一緒に出たい」と淳先生に志願し、ユーフォニアムを手にステージに上がった。
「実際、楽器を吹くことはできませんでしたが、ヒメはその空間を一緒に味わって笑顔を浮かべていました。ほかの部員たちも嬉しそうでしたよ」
全日本アンサンブルコンテストで初の全国金賞!
2024年度に培われたものは、今年3月に木管8重奏チームが出場した全日本アンサンブルコンテストにも活かされた。3〜8人という少人数で演奏するアンサンブルで、旭川明成高校が全国大会に出場するのは2年連続。昨年は銀賞だったが、なんと今年は創部初の金賞を受賞したのだ。
「コンクールから定期演奏会に続くいい波に乗った結果だと思います」
実は5年前、淳先生が指導していた旭川商業が全日本アンサンブルコンテストに出場することになっていた。だが、新型コロナウイルスの感染拡大により、大会は中止に。今回の会場は、そのときと同じ福井県のハーモニーホールふくいだ。
「5年前のメンバーはここに来たかったんだよな、と感慨深かったです。今年のメンバーは、ステージで気負うことなく、ビビることもなく、いい意味で『普通どおり』の演奏をしてくれました。終わった後で『楽しかった』と言っていたので、私も『それがいちばんだよ』と言いました。金賞という結果が出て、5年前のメンバーの分までやってくれたな、という思いでした」
しかも、点数を見てみると、出場した22校の中で同率1位だったという。
涙を流して喜んでいる8人のメンバーに淳先生は言った。
「おまえら、嬉しいか?」
8人はうなずいた。
「これ、全員で味わえたらどうよ?」
コンクールで、という意味だ。すると、メンバーの目からさらに涙があふれた。
「全員で味わいたいです!」
「もうワクワクしかないです!」
目標がさらに明確になった瞬間だった。きっとそのときのアンサンブルメンバーの前には、全日本吹奏楽コンクールで金賞を受賞し、喜びあう部員たちの姿がはっきりと見えていたことだろう。
先生を信じてくれ
新年度を迎え、1年生21人が入部。旭川明成高校は部員数が80人まで増えた。
「笑ってコラえて!」ですでに放送されていた旭川市内の強豪、永山中学校と永山南中学校からは3人が入部した。
「テレビに出ていた子たちが来る、ということで、刺激を受けた2年生がめっちゃ成長しました。思わぬ副産物です」
ゴールデンウィーク期間には合宿もおこなった。そこには、淳先生が着任してからの歴代の部長(ヒメを含む)が招かれ、現役部員たちにこれまで先輩たちがつないできた「部活のたすき」を意識させた。
「それから、やっぱり大事なのはお互いを深く知りあうこと。お互いに愛を持って『おまえ、このままじゃダメだよ』と言いあえるようになること。仲間からダメ出しされたらつらいし、涙が出ることもあるだろう。それは、都合の悪い自分と向き合わなきゃいけないから。でも、そこで『むかつく』とリアクションするんじゃなく、本当の信頼関係を築くこと。それができる新学期だから楽しいんだ。全国大会に行く行かないじゃなく、苦しいところを通り越したら輝けるから、最後はみんなで幸せな卒部ができるから、先生を信じてくれ、と部員たちには伝えています」
八王子高校から受け継いだ情熱
旭川明成高校吹奏楽部は、前述したとおり全日本吹奏楽コンクールには出場したことがない。今年は「笑ってコラえて!」で取り上げられることで、注目される存在になることだろう。
それについて、淳先生はどう考えているのだろう?
「部活にカメラが入ってから、部員たちの空気が変わっているのは感じています。ただ、私がスタッフの方たちに伝えているのは、テレビのための受け狙いはしませんよ、真面目に頑張っている生徒たちの姿を赤裸々に描いてほしい、ということです」
実は、『吹部ノート 12分間の青春』や「笑ってコラえて!」が部員たちにも好影響を与えている。
昨年度の八王子学園八王子高校吹奏楽部のエピソードはどちらのメディアでも取り上げられているが、旭川明成高校のファゴット担当・今井賢太郎くんが、八王子高校の学生指揮者・田代海人くんにSNS経由で連絡をし、練習の進め方などを質問したのだという。
「刺激を受けたのか、今井賢太郎が私に『練習のマニュアルを作ってやってもいいですか?』と言ってきたので、『いいよ、やってみな』と言いました。田代くんに直接連絡したという話だったので、『勇気あるな』と言ったところ、『僕も勝ちたいんです』と」
吹奏楽コンクールで「負け」続けた八王子高校が、田代くんと飛川希くんというふたりの男子を中心に「勝ち」にこだわり、さまざまな工夫や改革をした結果、全国大会金賞受賞まで成し遂げたことは『吹部ノート 12分間の青春』にも詳しく記されている。

八王子高校の情熱や思いが、遠く離れた北海道の旭川明成高校に受け継がれる、というのはなんと素晴らしいことだろう。
「今井賢太郎が部員たちの前で『一緒に頑張ってくれませんか』と熱弁を振るって、そこから一気にみんなの熱が盛り上がりました。テレビのこともあるので、私から部員たちには『きっとチヤホヤされることもあると思うけど、だからこそ、日ごろの立ち居振る舞いまでが大事になるんだぞ』とは伝えました」
全国大会出場への思い
注目を集めているときだからこそ、淳先生が思うことはある。
「私自身、2011年に旭川商業で全国大会に出てから、だいぶ遠ざかっています。生徒たちと同じように、私だって結果は出したい。でも、それがいちばん大事なことではありません。私は旭川明成の生徒たちがどれほどいい子たちなのかを知っています。ステージが全道大会、全国大会と高くなればなるほど、生徒たちをたくさんの人に知ってもらえます。そのために結果を残したいんです」
部員たちへの深い愛情が、淳先生の指導の根底にはある。
今年は部員数が増えたため、3年生であっても55人のコンクールメンバーに選ばれない可能性もある。だが、たとえコンクールの舞台に出られなくても、吹奏楽部で充実した活動ができ、輝けることは昨年度のヒメが証明してくれている。
今年、吹奏楽コンクールで演奏する自由曲はクロード・トーマス・スミス作曲《ルイ・ブルジョワの賛歌による変奏曲》にほぼ決定しているという。キリスト教の賛美歌のメロディをテーマにした難曲だ。淳先生がこの曲を選んだということは、部員たちの演奏技術がそこまで達している、あるいは達するくらいの成長が見込めるということだろう。もちろん、技術だけではなく、心の成長も。
注目の存在となった旭川明成高校吹奏楽部。
2025年度の全国大会への挑戦は、すでに始まっている。

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🔰シンクロナスの楽しみ方
全国の中学高校の吹奏楽部員、OBを中心に“泣ける"と圧倒的な支持を集めた『吹部ノート』。目指すは「吹奏楽の甲子園」。ノートに綴られた感動のドラマだけでなく、日頃の練習風景や、強豪校の指導方法、演奏技術向上つながるノウハウ、質問応答のコーナーまで。記事だけではなく、動画で、音声で、お届けします!
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