日本ではキャンプが始まり、いよいよ球春到来。今年は、なんといってもワールドベースボールクラシックが開催される。

 もっとも早くスタートする1次ラウンドはチャイニーズ・タイペイ、オランダ、キューバ、イタリア、パナマが配されたPOOL「A」。3月8日に初戦が行われる。

 日本はPOOL「B」で、3月9日の中国戦が初戦。過去4大会すべてでベスト4以上に進出しているが、2大会連続で優勝を逸している。

 大谷翔平、ダルビッシュ有らを擁し、過去最強のメンバーとうたわれる「栗山ジャパン」は覇権奪回を望めるのか――。

 メンバーの中で野手の軸として大きな役割を期待されるのがシカゴ・カブスの鈴木誠也だ。大谷翔平と同級生であり、国際舞台の経験も群を抜く。

 侍ジャパンのキーマンを全3回で紐解いていく。

日本の野球とアメリカの野球

「(もし日本人選手にも)もっとパワーとかスピードがつけばもっと(日本の野球が)盛り上がるかな」

 その一言が印象に残った。

 言葉の主、鈴木誠也自身はそこを強調したいと思って話したわけではなかったと思う。

 筆者が「日米の野球を経験して感じたこと」について質問し、「日本の野球もアメリカの野球も、いい意味で違いがあって楽しい」と話した流れでの一部分で、「切り抜き」になる。

 鈴木は、日本の野球について「例えばつなぐ意識があったり、チームとしてプレーできる楽しさ」と言い、「アメリカの野球は個々の能力がすさまじいから、どうやって勝つのか考えてトライすることが楽しい」と話した。

 本稿の趣旨とはずれるが、念のために、前後を起こしておくとこうなる。

「日本の野球をずっとやってきて、違った野球を見てみたいっていうのがあったので、(アメリカに行って)いろいろ考えさせられる部分もありました。もちろん日本の野球、スモールベースボールの良さもあるんですけど、もっとパワーとかスピードがつけばもっと(日本の野球が)盛り上がるかなと思ったり。やっぱり日本にも良し悪しあるし、アメリカにも(良し悪しが)あると思うので、それはどっちもどっちかな、と思ったんですけど。でも、どっちも楽しいですね」

 もしかしたらアメリカの方が合っているのか?と筆者自身が思い込んでいたこともあり、似た質問を重ねても、答えは同じだった。

「どっちも本当に楽しい」

 話を元に戻し、なぜこの言葉が印象に残ったかと言うと、鈴木は常人離れした探求心を持つ求道者であり(ゆえに、彼の練習は度肝を抜かれる)、いつまでも野球がうまくなりたい「野球少年」というイメージが強かったからである。

鈴木誠也が持つ成長の原動力

 これまでの取材でも「日本の野球界にとって」といった大局的な言葉を自ら口にすることはなかった。

 現役のアスリートにとって、自分自身にフォーカスをすることはとても大事なことである。多くのトップアスリートはいい意味で「自分中心」に物事を考えることができて、それによって飛躍的なレベルアップを果たしている。

 もちろん、例えば「野球界のためにこうしなければ」みたいなことを考えることもとても大事だし、素晴らしいことだ。ただ、それが絶対に必要か、と言われればそうでもないし、最近は選手に「社会的な役目」を押し付けすぎているな、とも感じている。

 それは筆者自身がまさにそうで「少年・少女たちの野球人口が減っている」とか「指導者が足りない問題が起きている」など、つい現役の選手たちにその意味や未来についてどう考えるかを尋ねてしまう。

「SEIYA’S BATTING REPORT」vol.1より

 

 中でも鈴木に対しては何度もそれを聞いて(しまって)いる。

 その問いに対して鈴木は、いつだって真摯に答えてくれた。時には「難しい……」「わからない」と正直に吐露しながら、そこで言葉を終わらせることはなかった。

 その証に、この二年間、定期的に「鈴木誠也の打撃論」や「理想の指導者像」などについてコンテンツとして配信しているのだけど、これも「鈴木誠也という野球に対する探求心の塊のような選手が考えていること、実践していることは、多くの野球人にとってとても役立つはずだ」という編集部の思いを汲んでくれてのことだった。

 話すと言っても決して楽な仕事ではない。特に昨シーズンはメジャー一年目できつい時期も多かったはずだ。それでも、「大丈夫ですよ」と時間を割いてくれた。

 今回の言葉も、新しく始まった本コンテンツ、「SEIYA‘S  BATTING REPORT」というコンテンツの第一回の取材中(度肝を抜かれるきつい練習の後だった)に聞いたものである。

 けれど、本来の鈴木誠也の胸の内にあることは「もっと野球がうまくなりたい」という探求心だ。

「僕自身、小さい頃はほんとに好きでやっていたから、本当は何も考えず楽しい、と思えるといいんですけどね……」

 自身のバッティングにおける考えや技術を紹介したあとよくそう言っていた。野球が好きで、だからもっとうまくなりたい。自分があれこれ語るより、子どもには野球を好きでいてほしいし――もっといえばそれは野球じゃなくてもいい、とすら言っていた――、指導者にはそのフォローをしてあげてほしい。

「求道者」の核心は、いつもそうだった気がしている。

 だから、そんな鈴木が「こうしたら日本の野球ももっと面白くなるかも」という視点をメジャーでのプレーを通して感じたことが印象に残った。

 本人にそれをぶつければ「考えすぎだ」と言われるかもしれない。

 ただ、メジャーに移籍して以降の鈴木の言葉には小さな変化があったようにも感じている。

 もっとうまくなりたい、という個人的な欲求は「より大きく」なり、そのうえで「日本の野球界の新たな可能性」を示そうとしているような……。

 ワールドベースボールクラシックへの思いを尋ねたとき、「今年の成績(メジャー一年目)で選んでもらえるとは思っていなかったので」と切り出し、栗山監督の「日本の野球界に対する思いがすごく強かったので、自分がそれに貢献できるなら」と、快諾したと言った。

「メジャーのすごい選手たちが集まっている中で、優勝すれば日本の野球ももっと世界から見直される」とも。

 自身の近況だけでなく、先に触れた新コンテンツ「SEIYA‘S  BATTING REPORT」(バッティングについて試行錯誤している中で感じたことを解説している)についても、「やっぱり子どもたちに伝わるのがいいんですよね。……Liveとかで答えられるといいですかね?」と、練習後、帰りの車の前で思案する。

「今シーズンは、絶対にメジャーリーガーを見返します!」

 笑いながら豊富を語った鈴木誠也は、その言葉の中にある覚悟を練習で示していた。やっぱり求道者であり、野球少年であることに変わりはない。

 でも、鈴木誠也は「その姿」を残したまま、「日本野球」を体現し誰かに示そうとしている。

 そんなふうに感じられる。

 
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