保育園の棚の配置、コーナーの分け方、壁に飾られた作品。そうした環境のディテールが、子どもの集中力や好奇心、さらには発達そのものを左右する。

そう語るのは、『2050年の保育』を出版し、探究型保育カリキュラム「らいくる」を展開する株式会社エデュリー代表取締役・菊地翔豊氏だ。

保育の質と環境設計の関係から、探究型保育が育む子どもの成長まで、詳しく聞いた。

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保育室を見るだけで、子どもの姿が浮かぶ

――『2050年の保育』では、「保育の質は環境で決まる」という言葉が印象的です。どういった意味合いで語られているのでしょうか

菊地翔豊(以下、菊地) 私はこれまで国内外合わせて1000園以上を見学してきました。今は保育室を見るだけで、子どもたちがいなくても、どんな遊びをしているか、どんな動線で動いているかが思い浮かぶんです。

例えば、棚もなくロッカーだけがある部屋で20〜30人の子どもたちが1日を過ごすとしたら、着替え、朝の会、自由遊び、食事、午睡といった活動がすべて同じ空間で混在することになる。動線が整っていなければ、カオスになってしまいます。

――遊びの種類が混在することも問題になりますか。

菊地 そうです。ブロックで集中して遊んでいる子の横で、ごっこ遊びで活発に動き回っている子がいたら、せっかく作ったものが壊されてしまうこともある。

そうなると「もういいや」となって遊びが続かなくなる。保育指針にも「保育は環境を通して行うもの」と明記されているように、空間のデザインは保育の質に直結していると考えています。

0歳からの積み重ねが、2歳の姿を変える

――探究型保育を受けた子どもは、どのように成長していくのでしょうか。

菊地 やはり発達は積み上げだと思っています。0歳児から感覚遊びや発達を促す運動を丁寧に重ねていくと、2歳になったときの情緒の安定が全然違う。自立していて、活動に集中できるし、遊び方も分かっているから遊び込める。遊び込めれば遊びはどんどん発展していきます。

実際に2歳の子がテープを器用に切って貼って何かを作っていたり、はさみを使いこなしていたりする姿を見ると、発達の積み上げの力を実感します。できることが増えると世界が広がり、3歳になったときにさらに多くのことを自分でできるようになっていくんです。

――途中から転入してきた子への対応はどうしていますか。

 


菊地 その子の発達段階に沿って積み上げることが重要です。「できないよね」ではなく、今の発達段階はどこにあって、どんな興味があるのかを保育者がきちんと観察して、必要な環境を作っていく。

また、子どもたち自身にも考えてもらうことを大切にしています。はさみやミシンを使う場所で走ったら危ないよね、ということを2歳ごろからサークルタイムで一緒に話し合う。そういう積み重ねが、今の探究型保育の環境を作っていると思っています。

「だめ」の理由を一緒に考える。倫理観の育み方

――ごっこ遊びが発展して、倫理的に難しい場面が出てきたときはどう対応しますか。
菊地 例えばごっこ遊びで人間と犬の役になったとき、「それはだめ」と頭ごなしに言っても、なぜだめなのかが子どもには分かりません。その子は純粋にごっこの世界を楽しんでいるだけで、悪気はまったくない。

だから私たちが心がけているのは、なぜそれがあまり良くないのかをその子の目線で一緒に考えることです。自分がそれをされたらどう思うかを一緒に考えながら、人間として歩くことがどういう意味を持つのかを噛み砕いて伝えていく。

倫理観は「だめ」と言うだけでは形成されません。背景にある理由を保育者自身が考え、子どもの目線に立ったうえで一緒に考えるプロセスが大切だと思っています。

――保育に関わる中で、一番好きな時間はどんな瞬間ですか。

菊地 正直に言うと、子どもと遊ぶというよりも、子どもを観察することがとても好きなんです。

保育園に行っても子どもたちが遊んでいる姿を俯瞰して見ています。クラス全体の状態、2人の会話、新しい発見、保育者との関わり方。そういうことを俯瞰して見るのが好きです。そういう意味で、子どもが好きなんですよね。

 
菊地翔豊

1994年5月30日生まれ。
日本の教育にあわず高校を退学になり、ニュージーランドへ留学。
帰国後、慶應義塾大学に入学、2014年 当時19歳で保育施設の運営を目的に株式会社エデュリーを創業。子どもたちの潜在能力の最大化をミッションに掲げ、現在は東京、埼玉、神奈川でグループ全体で14個の保育所と児童発達支援施設。個別最適化の探究型カリキュラム「らいくる」を開発運営。著書に『2050年の保育 子どもの主体性を育てる実践的アプローチ』がある。