今や、子育てにスマホやタブレットが欠かせない時代。幼少期からインターネットが当たり前に存在する現代、子育ては大きく変化している。
情報があふれる時代に、保育や教育の現場で子どもたちが“主体性”を身につけるためには、どんな環境を与えるべきなのか?
探究型保育を実践する「エデュリー」代表であり 『2050年の保育 子どもの主体性を育てる実践的アプローチ』の著者・菊地翔豊さん。そして、自身も教育改革に力を注ぐ芦屋市長・髙島崚輔さん。
対談の後編では、変化の激しい社会の中で子どもたちが生き抜くために必要な力とは何か――「これからの教育」のかたちに迫ります
W杯への興味から広がった学び
菊地翔豊(以下、菊地):髙島さんは、東京大学からアメリカのハーバード大学に進学されて、最年少で芦屋市の市長に当選された、まさに“エリート”と言える経歴をお持ちですが、子どもの頃から好奇心が旺盛だったんですか?
髙島崚輔(以下、髙島):好奇心は旺盛だったと思います。たとえば、自分が5歳の時に日韓FIFAワールドカップが開催されたのですが、どの国が最後に優勝するのか気になって、すべての試合結果のスコアを手帳につけていました。
菊地:5歳でサッカーのルールを理解していたんですね。そのうえ試合のスコアまで分析されていたとは。もともとサッカーが得意だったんですか?
髙島:特にサッカーが得意というわけではなかったのですが、幼稚園のサッカークラブに入ってよく友達と遊んでいました。
菊地:すべての試合の結果を手帳につけていくなかで、なにか新しい学びに繋がったことはありますか?
髙島:いろんな国の試合の結果を見ているうちに、それぞれの国の名前や国旗に興味を持つようになりました。お風呂に国旗の一覧シートを貼ってもらい、国旗と国の場所を一生懸命覚えていたようです。
菊地:エデュリーの“探究型保育”と同じやり方ですね。
髙島:そういう意味では、子どもの頃から知らぬうちに、探究型の学びを重ねていたのかもしれません。
気になったことは家族で一緒に考える
菊地:髙島さんは、幼少期に1日50冊近い絵本を読み聞かせしてもらっていたと伺ったのですが、他にもご両親から受けた教育で印象的だったことはありますか?
髙島:例えば、母と散歩をしているとき、「空はなんで青いのだろう?」とか「花はなぜこんな綺麗な色なのだろう?」と、ふと頭に浮かんだ疑問を親子で一緒に考えていたことは、よく覚えています。
菊地:まさに日常の中の“つぶやき”から生まれてくる学び。
髙島:2人の弟たちが生まれてからは、兄弟でも気になったことをゲーム感覚で、クイズのように投げかけ合っていました。
菊地:それは正しい答えを出した方が勝ちなんですか?
髙島:正しさよりも他の人を「なるほど!」と、納得させた人が勝ちというルールです(笑)。今でもよく兄弟で気になったことをテーマに議論しています。
たとえば、「なんで街路樹って同じ高さのものが多いんだろう」というお題に対して、「制限の規定があるんじゃない?」「同じ高さの品種を植えているからだよ」と、大喜利のようにお互いの意見を出し合うんです。
お風呂の温度で知ったマイナスの概念
髙島:他にも、祖母と一緒に暮らしていた4歳の頃には、祖母にお風呂に入れてもらい、お風呂の温度を使った遊びをしていました。
菊地:お風呂の温度で遊ぶんですか?
髙島:「39度から5度引いたら何度になるだろう」とか「水温が0度を超えたらどうなるだろう」など、温度を使って簡単な足し算や引き算をしてみるんです。
その時はまだマイナスという概念を知らなかったのですが、やっているうちにゼロより下の数字があることがわかりました。
菊地:保育園にはお風呂の時間はないので、まさに家庭ならではの教育ですね。保育者がいなくても家族が“仕掛け”を作って、遊びながら興味や関心を広げていける。まさに理想の教育環境です。
“スマホ時代”にどう子育てをするか
菊地:今では、自分たちが子どもだった時代と比べて、インターネットが広く普及しているので、子育てのやり方も変化しているところがありますよね。
髙島:それは重要な視点だと思います。誤解を恐れずに言うと、今の子育てはスマホやタブレットの普及によって楽になった部分がある。でも、それでいいのでしょうか。子どもをあやすのにもYouTubeの動画を見せれば、子どもたちは大人しくなることが多いですが、それで良いのかなと。
菊地:電車の中や飲食店の順番待ちの時間などでも、子どもがスマホやタブレットで遊んでいるのをよく目にするようになりました。もちろん子どもたちがインターネットに興味を持つことは当然のことだと思います。
でも、子どもたちにとってなにが一番いい環境なのかは考えていかないといけない。それを思考できる大人たちが減っていってしまったとしても、保育や行政は常に考えていかないといけません。
髙島:だからこそ、行政はしっかりとした基準を作ることが大事だと思います。
芦屋市では、保育士の配置基準を国基準よりも手厚くしています。1人の保育士が受け持つ子どもの数を減らすなど、一人ひとりにしっかりと向き合える環境を整備しています。
菊地:大人数のクラスだとどうしても目先のことに目が行ってしまい、広い視点で物事を考えることができなくなってしまいますよね。
髙島:もちろん、完璧ではありませんが、子どもたちの主体性を大切にするためにも、まず保育士のゆとりと主体性を大切にすることが重要だと考えています。
最年少市長が考える2050年の社会
菊地:最後に、ここまで“2050年の保育”をテーマに話してきましたが、髙島さんは“2050年の社会”はどうなっていると思いますか?
髙島:2050年には、AIなどのテクノロジーがさらに進化しているだろうと考えると、人間の思考で思いつくようなことは、すべて実現できてしまう時代になっているかもしれません。そうすると、より厳しい時代になると思っています。
菊地:確かに、今よりにテクノロジーが発達していけば、すべてが実現可能な世の中になってしまう。
髙島:今までは、できないからこそ見ることができる“夢”があった。実現することが難しい夢でも、環境や技術のせいにすればある種の言い訳ができたと思うんです。
でも、これからは「やればいいじゃん」という言葉で片付けられてしまう。ただの“夢追い人”ではいられない時代が来るのかもしれません。
菊地:人間にできることの選択肢が増えていく一方で、それをどう選んで実行していくかが大事になってきますね。
髙島:自分がなにをやりたいのかという自分に問いかけ、その想いにまっすぐに行動し続けなければ、しあわせな人生は送れないのではないでしょうか。
でも、大人になってから自分の素直な想いを見出すことは難しいと思います。うだからこそ子どもの頃から「なにがやりたいのか」「どういうことを実現したいのか」を考える練習をする必要があるんです。
菊地:主体的に行動することができる人間。
髙島:そのためには、社会全体で教育のあり方を根本から見つめ直す必要があるのではないでしょうか。
(文・坂本遼佑)
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