結婚生活の中で積もり積もった不満や違和感。もう離婚しかないと思うほどの不仲やトラブル。
さまざまな夫婦の在り方があるからこそ、ふたりの間だけで解決できない悩みや問題を抱える人も少なくないでしょう。
夫婦カウンセラーとしてこれまで4000組以上の夫婦をサポートし、著書『夫は、妻は、わかってない。夫婦リカバリーの作法』でも注目を集める安東秀海先生が、読者の皆様から寄せられた夫婦関係のお悩みにお答えします。
今回は、お付き合いがスタートした学生時代からお子さんが生まれた現在まで、たびたび夫からイライラや不機嫌をぶつけられ、夫婦で改善策を講じるもうまくいかないと悩む妻からのご相談です。離婚も視野に入れないといけないのかもと思い始めているようですが、再構築の道はないのでしょうか?
深雪さん(仮名)からのご相談
学生時代から交際を始めて、一緒に過ごして10年、結婚して5年です。
夫はとても愛情深く、心根が優しい人ですが、責任感の強さゆえに心に余裕がなくなりがちで、学生時代から、イライラや不機嫌をぶつけられることが多かったです。
夫もそんな自分への自覚があり、改善したい気持ちがあるのも見えていました。私も私で夫に支えられている面は大いにありましたし、愛し愛されている感覚がちゃんとあったので、交際を続け、結婚をし、今年、子どもも産まれました。
子どもが生まれ、ますます余裕のない日々の中で夫のイライラや不機嫌は増すばかりです。夫に改善の意思はあり、頑張ってくれているのも分かりますが、現実問題、その状況が改善しない状態が続いています。いろんな方向から話をしたり、ケアをしたり、工夫を重ねてきたつもりなのですが、やはりなかなか難しいです。
今でも夫のことは大切です。ただ子どもへの影響を考えると、離婚も視野に入れなくてはならないのではないか、とも考えています。
離婚に踏み切るかどうかを考える前に、整理しなくてはいけないことや考えなくてはならないことを教えてください。
(妻・深雪、夫・太一)
※頂いたご相談に編集を加えております。ご了承ください。
夫の不機嫌は誰の責任?
離婚を選ぶ前に妻が考えるべき判断軸とは
夫のイライラや不機嫌に夫婦として取り組み、また妻として支えてきた深雪さん。夫の太一さんとは学生時代からのお付き合いということもあり、その献身的な関わりの背景には強い信頼関係があるように見受けられます。
そんな深雪さんが、お子さんのためとはいえ、離婚を考えるにいたる程ですから、いかに困難な状況に直面されているのか想像に難くありません。
夫婦リカバリー相談室、今回は「離婚に踏み切るかどうか」、夫婦としての岐路に立つ深雪さんからのご相談に答えていきたいと思います。
不機嫌はそれを感じている側の責任
まず初めにお伝えしておきたいのは、太一さんの不機嫌は彼の問題であって、深雪さんの責任ではない、ということです。もちろん深雪さんの愛情や努力が足りなかったということでもありません。夫婦間の問題は複雑で、コミュニケーションや価値観の違いに起因する問題については夫婦で取り組むことが必要ですが、こと「感情」の問題に関しては「その感情を感じている人が責任を持つ」が原則です。
太一さんのイライラも不機嫌も、彼自身が引き受けるべき問題であって、夫婦だからといって、その感情の責任を深雪さんが負うことはできません。もし自分の責任範囲でないことを背負おうとすれば、深雪さんの心は疲れてすり減ってしまいます。
では当事者である太一さんが、無責任であったかというと、そうではないようです。いただいたご相談からは、改善の努力を重ねてきた太一さんの姿も見えてくるのです。
変わる意思があるのか? それに寄り添えるのか?
感情をコントロールできず、イライラや不機嫌を家族にぶつけてしまう。太一さん自身、そんな自分に問題意識を持ち、改善の努力をしているにも関わらず、状況が変わらない。深雪さんにとっては、ここに至るまでの経緯を知るからこそ、この先も改善しないのではないかと絶望的な気持ちにもなってしまうのかもしれません。
これまでどのような取り組みがあったのか、具体的なアプローチはわかりませんし、改善が見られない理由も定かではありませんが、今後の太一さんに対して決して楽観視することはできません。ただ、それでも当事者である太一さん自身が自覚的であること、そして何より改善の意欲があることは大きな意味を持ちます。
なぜなら、どんな問題にも解決策があって、解決に向けたサポートも存在します。問題を抱える当事者が改善したいと望むなら、適切なアプローチが見つかる可能性もあるからです。
繰り返しになりますが、感情のコントロールは太一さんの課題であり責任です。しかし、太一さんもご自身のイライラによって深雪さんやお子さんを傷つけていることを理解し、何とかしたいと心の中で葛藤しているはず。そうであるならば、深雪さんが今ここで確認すべき点はふたつです。
太一さんの中にこれからもこの問題と取り組む意思があるのか?
●Point2
そんな太一さんの取り組みに深雪さん自身が寄り添うことができそうか?
彼の問題と私の問題を整理する
長く時間を共にすればこそ、夫婦の間では、相手の感情の問題がまるで自分の問題であるかのように感じられることがあります。「どうすれば、彼のイライラを防げるのか」「不機嫌を解消できるのか」と考えるとき、私たちは相手の感情の問題を無意識のうちに自分の責任として引き受けている可能性があります。その結果、相手が変わらない限り、自分の苦しみも解決しないように思えてしまいます。
大切なのはここで一度立ち止まり、彼の問題と深雪さん自身の問題をもう一度見つめ直してみることです。
⇒イライラしていること、不機嫌を感じていること、それをぶつけてしまうこと
●深雪さんが抱えている問題
⇒夫にイライラをぶつけられ、不機嫌な態度を取られることに「傷ついている」こと
なのだと思うのです。
時として私たちは、相手の態度や言動を変えることによってその問題を解決したいと考えてしまいがちです。しかし、それでは相手が変わらなければ、自分の問題も永遠に解決しないことになってしまいます。
深雪さんは今、変わらない彼を前に、離婚に踏み切るべきかどうか、思い悩んでいます。それは相手の問題にこれ以上振り回されまいとする覚悟と、自らの責任範囲に立って問題解決を図ろうとする意思の表れでもあるでしょう。
あなたがあなたの問題を解決できないのであれば、私はこれ以上あなたと共に歩くことはできない。
深雪さんがこのスタンスに立つことは、彼に自分自身の問題ともう一度向き合う機会をもたらす事にもなります。その上で彼がどんな選択をするのか? そこから先は彼の責任で、深雪さんはその選択を見守りつつ、これまで傷ついてきた心のケアを進めておくことが大切なのではないでしょうか。
傷ついたままで選ばない
深雪さんはこれまで、太一さんのイライラや不機嫌を改善するために、心を砕き、たくさんの努力をしてきました。けれど、そのとなりで彼の言動に傷つき、悲しんできた深雪さん自身の心にはやや無頓着だったのではないかと懸念しています。
この先、太一さんが前向きに問題に取り組んでくれるかどうかは、太一さんの選択と責任です。
一方、深雪さんがそんな彼の取り組みに「寄り添うことができるか」「見守り続けることができるか」、その判断は深雪さんの選択と責任です。
もし過去に深く傷ついていれば、人は誰でも未来の選択に慎重かつ防衛的になってしまうものです。傷つきがあれば、たとえ太一さんが前向きに取り組もうとしていても、それを純粋に応援したり、見守り続けたりすることが難しくなってしまうこともあるかもしれません。
離婚に踏み切るべきかどうか? その選択をする前にはどうか、深雪さん自身のこれまでの傷つきをケアしてあげて欲しいと思います。
これまで彼のために努力をしてきた私にぜひ、承認の言葉をかけてあげてください。そして彼の言動に傷ついてきた私の心をどうか抱きしめてあげて欲しいのです。
そうして少し、心が回復したところで、これからの太一さんや家族のことを見据えた判断ができるかどうかを、深雪さん自身の心に問いかけてみてください。
一方、太一さんの取り組みについては、これまで取り組んできた時間と努力を考えれば、セルフで対応できる限界を迎えているのかもしれません。深雪さんがご自身の傷つきをケアすること、そして太一さんが問題に取り組むことを決めた際には、ぜひ専門的なアドバイスやサポートを受けられることを検討してみてください。
太一さんの行動と、深雪さんの心のケア、この両輪が揃ってこそ、ご夫婦の未来に向けた最終的な判断ができるはずです。
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