結婚生活の中で積もり積もった不満や違和感。もう離婚しかないと思うほどの不仲やトラブル。
さまざまな夫婦の在り方があるからこそ、ふたりの間だけで解決できない悩みや問題を抱える人も少なくないでしょう。
夫婦カウンセラーとしてこれまで4000組以上の夫婦をサポートし、著書『夫は、妻は、わかってない。夫婦リカバリーの作法』でも注目を集める安東秀海先生が、読者の皆様から寄せられた夫婦関係のお悩みにお答えします。
前回は、結婚後、態度が豹変してしまった夫・ヒデキさん(仮名)との生活に対する妻・タカコさん(仮名)からのご相談について、「タカコさんの責任」で考えるべきことへのアプローチを整理しました。後半となる今回は、さらにどんなアプローチが必要かを探っていきます。
前半を読む
「自分自身」が理想とする「夫婦のあり方」を明確にする
結婚前は優しかった夫が変わってしまい、無視や舌打ちなど心削られる言動が繰り返される中で「自分がどう変われば」と心を痛めつつも、夫婦の関係を守りたいタカコさん。まずは前回のポイントを振り返ってみたいと思います。
1.問題解決の責任者を明確にする
夫婦間では、責任の所在が混同されがちですが、自分と相手の責任を明確に分けましょう。感情的に怒鳴る、無視する、舌打ちするなどの言動は、夫であるヒデキさんの感情コントロールや表現の問題であって、タカコさんが負うべき責任ではありません。
2.「夫婦としての幸せ」と照らし合わせてみる
選択がタカコさんにとっての幸せな暮らしに繋がるかは、「タカコさん自身」が望む「夫婦のあり方」とズレがないか見極める必要があります。ヒデキさんの不機嫌や非協力はヒデキさん自身の責任ですが、それを前に、どう選択するかはタカコさんの責任であり、望む未来とズレた行動にならないようにすることが大切です。
3.何を手放し、何を選ぶのか?
夫婦のように生活が深く重なる関係では、一方が「変わる」だけでは限界があります。心穏やかに過ごすにはヒデキさんへの期待を手放すことで手に入れられるものある一方で、それによって失われるものもあります。だからこそ、タカコさんが望む「幸せな暮らし」の価値基準が何かを見つめ直してみましょう。
夫婦の問題は“ひとりが変わる”だけでは解決しない
さらにどのようなアプローチをしたらいいか、考えていきたいと思います。
得られるものと失うもの
自分が何を望んでいるのか? を明確にすることは簡単なことではありません。とりわけ、手に入るものと失うものが複雑に絡み合うようなケースでは、どちらを選んでもうまくいかないと思えるものですし、それゆえに選択することそのものに怖さが生まれます。
ここでは不安や心配といった感情に囚われるのではなく、タカコさんが望む未来の「幸せ」を守る、という視点を持ってみることが必要かもしれません。
「私の認識を変えること」で手に入るものと失われるものがあるとすれば、それはどんなものでしょう?
ポジティブな側面から「手に入るもの」を考えると、夫の感情に左右されない心の平穏や、夫婦・家族という「かたち」を維持できること等が挙げられます。
一方、このアプローチの先には、「対等な立場で意見を交わすこと」や「情緒的な繋がり」といった夫婦の幸せが失われてしまうリスクがあります。また、家事や育児の実務的、精神的な負担が増えることも考慮しておく必要がありそうです。
こうして少し先の未来に思いを広げ、このアプローチから得られるものと失われるものを照らし合わせてみた時、どちらが、「私」が望む「幸せな暮らし」に近いでしょうか?
もし、タカコさんにとっての「幸せな暮らし」が、情緒的な繋がりや相互の尊重といった失われるリスクのあるものに大きく関わっているとしたら、「自分の認識を変える」というアプローチだけでは実現が難しいのかもしれません。
問題と感じることを共有するために
夫婦はひとつのユニットで、良好な関係を育むためにも問題解決を図るうえでも、一方だけの努力では得られる成果は限定的です。とりわけ、良好なコミュニケーションや情緒的な繋がりを求めるなら、「自分へのアプローチ」だけでは不十分で、夫であるヒデキさんにも「問題解決への参画」を促すことが欠かせません。
いただいた一部の情報だけで判断することはできませんが、「結婚を境に優しくなくなった。」というのは、ヒデキさんの責任感の強さを表しているのかもしれません。また、職場なら上司や同僚、家庭ではタカコさんやお子さんに気を遣うことが多く、結果疲れを溜め込んで「優しさ」をうまく発揮できなくなっているのかもしれません。
そうであるとしたら、まずは溜まった疲れやストレスを癒す時間を作ることが必要で、心にゆとりができてからでなければ必要な対話も進まない可能性があります。
感情的な衝突の最中や、彼が疲れているとき、機嫌が悪いときを避け、少しずつ話をしてみることから始めてみます。お子さんと一緒に外を散歩でもしながら、でも良いかもしれません。
ただ、このアプローチを採用する上で欠かせないことは、タカコさん自身も子育ての渦中にあること。その上で夫婦の未来のために心を砕いているという現状を、きちんと認識しておくことです。
心無い夫の言葉に傷ついてもタカコさんは育児を放り出して何時間も自室に篭ることはしないし、疲れているからと育児を放棄することもない。
タカコさんが当たり前のように実践していることの全てはもっと称賛される必要があります。
タカコさんとヒデキさんとでは、前提として立っている場所が違っていて、傷つきながらもタカコさんが取り組もうとしていることは決して簡単なことではありません。まずはこのことを認識したうえで、どうか自分自身に労いの言葉をかけてあげて欲しいと思うのです。
幸せな暮らしを実現するために
- 「私の責任」と「彼の責任」を区別する
- 夫婦で取り組むべきことはひとりで担うのではなく参画を促す
夫婦間に生じる問題を解決するためには、問題となっていることの責任者を明確にしておくことが重要です。
「私の認識を変える」というアプローチは、自身が担うことのできる責任範囲に注力をするという意味において理に適っていますが、夫婦間の問題の多くは、夫婦で共に取り組むことが欠かせないものです。
ヒデキさんの言葉や態度によって失われた信頼関係を前に、夫は変わらないと諦めてしまうのも無理はありません。だからこそ、タカコさんにはまず、自分自身を労うこと、慰めてあげることが必要です。
その上で、求める夫婦や家族の形がひとりでは実現できないものであるとしたなら、タカコさんが望む「幸せのカタチ」を実現するために、ヒデキさんには具体的に何をしてほしいか、リクエストをすることも検討してください。
専門家を頼ることも大切な解決策のひとつ
ただ、これまでの経緯を考えると、タカコさんの意図がうまく伝わらないこと、感情的な反応が返ってくることも充分に考えられます。
そのため、できることならカウンセリングなど専門的なサポートに頼ることも是非、検討してください。これはタカコさんの伝え方や夫婦関係の現状によるところではなく、当事者同士の対話では事の本質が伝わりにくいケースのように思えるからです。
夫婦の間には当事者同士だからこそ気づけないコミュニケーションの誤差があるものです。また傷つくこと、心が削られることを重ねてきたふたりには、お互いの言葉が針のように相手を刺激してしまうこともありえます。
当事者の努力だけでは改善どころか気づくことさえ難しい問題も、夫婦の間にはありますが、それでも「幸せな暮らし」を守るための選択肢を見つけることをどうか諦めないで欲しいと思います。
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