夫婦喧嘩となる原因は、日々の生活にあふれる「些細な出来事」から「不倫やセックスレス」などの生々しい問題まで多岐にわたります。

その背景には「態度や言葉遣いといったコミュニケーション」「価値観の違い」「感情のわだかまり」が大きく潜んでいますが、これらに加え、「発達障害の特性」が影響していることも。

夫婦コミュニケーションや家庭運営における発達障害にまつわる悩みや疑問、問題の捉え方、適切なアプローチ、関係改善に役立つ知識を夫婦カウンセラーの安東美紀子先生がお答えしていきます。

※2022年に発効された世界保健機関(WHO)の疾病国際分類ICD-11では、発達障害は「神経発達症」と表記されます。「障害」という言葉が与えうるデメリット等を考慮して日本でも神経発達症とする流れになりつつありますが、お困りごとを抱えているご夫婦に届きやすいように、本稿では当面「発達障害」として解説します。

 

特性を責めるのではなく、システムで解決する

近年、発達障害(ASD・ADHD)の診断を受けている方とそのパートナーからの、夫婦間におけるコミュニケーションに関するご相談が増えています。

それぞれの特性の細かな解説や事例については今後改めて触れていきたいと思いますが、今回はご夫婦に提案している共通の視点、「特性を責めるのではなく、システムで解決する」という考え方についてご紹介します。

※ASDでは「対人コミュニケーションが苦手」や「こだわり・感覚の独特さ」という特性が、ADHDは「不注意」と「多動・衝動性」が主な特性と言われています。また併発(併存)率は20〜30%程度との報告もあります。

ご夫婦によって、自身やパートナーの発達特性について、どのような受け止めの段階にあるかはさまざまです。今回は既に診断をお持ちの方とそのパートナーでの事例を中心にご紹介しますが、別のケースでは、全く自身の特性に気付いていない方ももちろんいらっしゃいますし、周囲から指摘は受けつつも、特性そのものを受け容れられない方もいらっしゃいます。パートナーが気になっていると言えずに抱えておられる場合もあります。

私共はご夫婦を対象としたカウンセリングオフィスであるということが大きいのですが、双方のお困りごとを互いが受け止め、なんとか傷つきを減らしたい、もっと良い関係を築きたい、というご夫婦お二人でのお取り組みに多く関わらせていただいております。こうしたテーマを扱うとき、中には特性を含めさまざまな要素からモラハラやDVなどが悪化していて、パートナーシップを解消したほうが良い例もあり、双方が前向きに取り組める段階にあるということは社会全体から見るとある程度のフィルターがかかっているとは思います。

この記事では、特性についてすでに受け止めがあり、向き合っているご夫婦でも起こり得るつまずやお困りごとに関して、ご紹介していきたいと思います。

夫婦の間で起きている発達特性の「お困りごと」

発達障害(ASD、ADHD)の診断をお持ちの方とそのパートナーのカウンセリングでは以下のようなお悩みが寄せられています。

  • 「疲れた」と呟いても共感がなく、冷たく解決策だけを示される
  • 子どもが生まれても、自分の趣味や時間を優先して譲ってくれない
  • 不機嫌そうに見えて話しかけづらく、頼み事をすると嫌な顔をされる
  • 夫婦の問題を話し合おうとすると、怒鳴ったり、その場を避けたりする
  • 散財や、同じ物の重複購入を繰り返してしまう
  • 片づけができず、忘れ物や探し物が多い
  • 約束を破る、お願いしたことや会話の内容を忘れてしまう
  • 「察してほしい」と伝えられるが、言葉で言ってほしい
  • 分担を決めているのに頼み事が多く、自分の時間を削られることに不満を向けられる
  • 普通にしているだけなのに「怒っているの?」と聞かれる
  • 感情的に批判されると返せる言葉がなくなってしまう

これらはあくまで一例ですが、放置すると不仲が深刻化したり、心身の不調、不倫や浮気、セックスレスなどに発展することもあり、カウンセリングの現場ではそういった大きな問題から紐解いていくことが多く、ベースには紹介したようなお悩みが横たわっていたりします。

もちろん、これらは発達障害に限ったことではなく、他の精神状態や生育歴などの背景が隠れている場合もあります。

しかし、共通して言えるのは、「一番親密なはずの相手と分かり合えない」という深い孤独感や、「自分が悪いのかな」という自信喪失に苦しんでいるという点です。これはパートナー側はもちろん、ASD・ADHDの方側からも寄せられるご相談です。

夫婦カウンセリングには、当事者(ASD・ADHD)と定型発達パートナー(発達障害を持たないパートナー)の組み合わせ、ASDの夫とADHDの妻といった当事者同士の組み合わせの方もいらっしゃいます。

特性を持つご本人も、パートナーも、もっと特性について理解してうまく付き合いたいと目を向けていたり、自分たちのコミュニケーションに起きていることについて理解したいとおっしゃいます。「できればうまく特性と向き合って穏やかな家庭生活、良好な夫婦関係を築きたいんです」とお話くださいますが、恋愛感情や愛情を挟んだとても親密な関係性であり、毎日の共同生活の中で価値観や感覚のすり合わせが頻繁に求められ、前例やサンプルがあまりみられない場面が多く、トラブル回避が難しくなっているように見えます。

そこで、悩みや困りごとを乗り越えて、より良い夫婦関係を構築したいと願う方に向けて、夫婦で特性とうまく付き合いながら関係性を構築していく方法について一緒に考えてみたいと思います。

※専門医による投薬治療が問題解決に有効な場合がありますので、夫婦だけで抱え込むことなく、医療機関へのご相談やサポートもうまく活用してください。

 

特性は「治す」ものではなく、理解して「付き合う」もの

さまざまな特性由来の言動について、パートナー側からは「何度も伝えているのにいつまでも変えてくれません、(私のことはさほど重要じゃないんだと思います)どうすれば治りますか」と、当事者からも同様に「治せることがあるんでしょうか。できることはやりたいと思っています。」「何を読めばいいですか? 努力できることはなんでしょうか?」と聞かれることも多いのですが、特性とは「治す」ものではなく、「できること・できないことを正しく理解し、どう付き合い、どうサポートするか」という視点が重要です。

そのために必要なのが、「システム(仕組み)による解決」です。以下の1)〜3)は、ご夫婦双方が自己理解と相互理解として当てはまる部分に取り組み、対話のきっかけにしていただければと思います。

1)脳の特性を「物理的なハードウェア」として捉える

ASDの「共感の示し方の違い」やADHDの「不注意」といった思考回路を、身長や体重と同じように「物理的な仕様」として捉えます。

・「忘れる」という現象 
→「愛がないから忘れる」のではなく、「脳のワーキングメモリが特定の条件下で機能しにくい」と捉える 

・「共感がない」という現象 
→「冷酷」なのではなく、「文脈から感情を読み取る回路が独特である」と捉える

こういった現象に対し捉え直したからといって、全く傷付かなくなるというわけではありませんが、認識し直す前のような期待感を良い意味で手放すことができ、感情的になりすぎず受け止められたり、対策を考えられるゆとりを生み出せます。

2)「意志の力」に頼らない仕組み作り

「次は気をつけてね」という約束や「もう二度としないで」といったお願いは、解決策にはつながりません。以下のような物理的なアプローチを検討してみましょう。...