結婚生活の中で積もり積もった不満や違和感。もう離婚しかないと思うほどの不仲やトラブル。

さまざまな夫婦の在り方があるからこそ、ふたりの間だけで解決できない悩みや問題を抱える人も少なくないでしょう。

夫婦カウンセラーとしてこれまで4000組以上の夫婦をサポートし、著書『夫は、妻は、わかってない。夫婦リカバリーの作法』でも注目を集める安東秀海先生が、読者の皆様から寄せられた夫婦関係のお悩みにお答えします。

今回は、結婚前は優しかった夫が結婚後、別人のように豹変してしまったというご相談です。どうすれば幸せに暮らせるのか……

(写真:PixelsEffect / E+ / GettyImages)

タカコさん(仮名)からのご相談

現在、30代後半。夫とは同い年で、婚活で知り合いました。交際6ヶ月のスピード結婚で今は結婚4年目、今年子どもが産まれました。お互いフルタイムの共働きですが、現在は2人とも育児休業を取得しています。

結婚する前は、思いやりにあふれ、優しい言葉も欠かさず、労ってくれる夫でしたが、結婚してすぐから姿が変わりました。

 

仕事で疲れていたり体調が優れなかったりすると、私を無視したり、舌打ち、自室に何時間もこもる、自室の物を殴る、大声を出す、乱暴に音を立てて家事をするなど、心削られる行動に。

食事の準備(お箸を出すなど)を頼んだら、「疲れてるのにそんなことまで要求されるのか」「トラウマになった」と言われて、しばらく私の作る食事を拒否することもありました。

ある朝、妊娠中に強い腹痛に襲われて病院に連れて行ってほしいとなった時に、仕事に遅れてしまうことが気になったのか、ため息をつき、乱暴に物音を立てて、車を取りに行くこともあり、あれもひどく傷つきました。

育休に入ってからもぶつかることが多く、これまでは仕事のストレスからおかしな言動をしていると思っていたのですが、そうではないことに気づきました。

夫は自分自身に余裕がある時はとても優しいです。私が病気の時に看病してくれたこともありました。

しかし、ひとたび余裕がなくなると上記のようなことをするので、信頼がどんどん無くなり、今は愛情よりも嫌悪の方が勝ってきています。

 

ですが、子どもも小さく、また子どもに対しては夫は本当に愛情をこめているので、離婚に踏み切れません。

育休に入れば夫は変わってくれると思っていたのが、そうではなかったので、夫に変わることを期待してはいけないと分かりました。しかし、どうすれば自分の認識が変わって幸せに暮らせるのかが分かりません。

いまは夫に憎しみや嫌悪の感情を向けてしまいます。表面上でしか優しくできません。

(妻・タカコ、夫・ヒデキ)

※頂いたご相談に編集を加えております。ご了承ください。

自分の責任と相手の責任を選別。その上で考えるべきこと

結婚前は優しかった夫が変わってしまって、というタカコさん。無視や舌打ちなど心削られる言動が繰り返される中では、愛情を持って接することが難しくなるのも無理はありません。そんな中で「自分がどう変われば」というタカコさんの姿勢には頭が下がるばかりなのですが、しかし、その真摯な姿勢がゆえに、懸念すべき点もあるのです。

夫婦リカバリー相談室、今回は心を痛めつつも夫婦の関係を守りたい、そんなタカコさんのご相談に答えていきたいと思います。

夫婦カウンセラー・安東秀海によるQ&A連載

問題解決の責任者を明確にする

人生の大部分を共有する夫婦の間柄では、知らず識らずのうちに相手と自分とを分ける境界線が曖昧になりやすいものです。境界線が曖昧になると問題の責任者も曖昧になりやすく、相手の責任を自分のことのように考えてしまったり、自分の責任を相手に転嫁してしまうことも少なくありません。

夫婦間の問題に取り組む時には、自分の責任と相手の責任を明確に選別し、相手の責任まで背負い込まないことが重要です。

タカコさんご夫婦のケースでは、感情的に怒鳴る、無視する、舌打ちするなどの言動は、夫であるヒデキさんの感情コントロールや表現の問題であって、タカコさんが負うべき責任ではありません。

だからこそ、夫の感情に左右されず「自分の認識を変える」ことを選択しようとするタカコさんの姿勢は、夫サイドの問題に振り回されずに「自分の心の安全を確保する」という点で理に適ったアプローチといえます。

ただその一方で、そのアプローチがタカコさんの望む「幸せな暮らし」に繋がるのかは慎重に検討する必要があると思うのです。

「夫婦としての幸せ」と照らし合わせてみる

タカコさんのアプローチが幸せな暮らしに繋がるかどうかは、どのような「夫婦のあり方」を理想としているか、「私自身」が望むあり方と照らし合わせることで見定める必要があります。

(写真:Jacques Julien / Moment / Getty Images)

まず、タカコさんが望む「夫婦のあり方」について解像度をあげてイメージしてみましょう。

  • この先、ヒデキさんと一緒に歩く人生の中で、どのような感情でいたいでしょうか?
  • 意見が合わないときにはどのように行動してほしいのでしょう?

夫婦としての幸せは、夫と妻双方に責任があって、どちらかだけが努力をすることで成り立つ幸せは長期的には継続が難しいものです。また、どちらかが一方的に耐える関係では、夫婦や家族のかたちは守ることができても、それが個人としての幸せにも繋がるのかは検証が必要です。もしタカコさんの望む夫婦の姿が「思いやり」や「尊重」を持って「相互に支えあう」ような関係であるなら、それは一方の努力だけでは、実現し得ません。

穏やかな心を保つことを目指すならば「彼の問題」は「彼の責任」と線引きをして、境界線の向こう側に問題を追いやることが効果的です。

しかし、夫婦間の問題は、そうした情緒的な側面だけでなく、日常のオペレーションにも深刻な影響を及ぼします。

例えば、夫が疲労を理由に家事に非協力的になったり、機嫌を損ねれば何日間も口を利かなかったりする行動が放置され続ければ、協力し合って家庭を運営することも、それができる信頼関係を築く機会も失われてしまうでしょう。

不機嫌になることも、ネガティブな言動を取ることも「彼の問題」であり「彼の責任」です。一方、問題と感じる相手の行動を前に、自分がどんな選択をするのかは「自身の責任」です。

選択をするためには、その選択が「私が望む夫婦」の姿に繋がっているのか?が重要で、望む未来に合致しない選択や行動には自ずとブレーキが掛かるものです。またブレーキを無視してムリに進もうとすれば心に大きな負担を強いることにもなります。

(写真:Yoshiyoshi Hirokawa / DigitalVision / Getty Images)

何を手放し、何を選ぶのか?

「相手は変えられない。だから私が変わるほかない」というのは、とても成熟した考え方であり、仕事でもプライベートでも、ほとんどの対人関係において適応できるアプローチです。

ただ、夫婦や家族のように、広く深く近い関係性においては、それぞれがお互いの生活、日常の関わり合い、心理的安心感や心地良さにまで影響を与えています。望まない相手の行動を前に、心の距離を空けて心を守ることができても、オペレーションへの実務的な関わりがなければ、家事や育児の負担は重くのしかかります。また、心の距離が開くと、夫婦としての親密さや情緒的な繋がりもまた、失われやすいものです。

夫婦としての信頼関係や、相互に思いやる関わり、そして愛情をベースとする情緒的な繋がりは、夫と妻、双方の関わりが不可欠なテーマです。どちらかだけで成し得るには荷が重く、また成果も限定されます。一方、心穏やかに過ごすためには、夫や妻への期待を手放して自分ができること(責任を負えること)に集中することが有効です。

タカコさんの願う「幸せな暮らし」はどのようなものでしょうか? 

すぐに選ぶことは難しくても、自分にとって大切にしたい価値基準を軸に、再度練り直しておく必要があります。なぜなら、夫への期待を手放し「私が変わる」ことで手に入るものがある一方で、それによって恒久的に失われるものもあるのかもしれないと思うからです。

【後半へ続く 12月15日(月)正午 更新予定】
後半の記事では、これらの問題に取り組むために必要なアプローチについてお話しします。

【過去の相談を読む】教えて!夫婦のお悩みQ&A 記事一覧

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