福岡ソフトバンクホークスの日本一で幕を閉じた2025年のプロ野球。

 頂上決戦・日本シリーズは最高レベルの争いだった。今回の平石洋介の「探球論」はそこにあった勝敗の分岐点、選手たちの戦略を紐解く。

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INDEX
・日本シリーズ「監督采配」に面白み
 ―4勝1敗の総括、必要だった「条件」
 ―「先勝阪神」光った佐藤輝明の「機転」
 ―2戦目「流れ」が反転。きっかけは「勝敗の読み合い」
 ―「シーズンの評価<短期決戦」徹した小久保監督
 ―「藤川采配」は間違いだったのか?

日本シリーズ「監督采配」に面白み

4勝1敗の総括、必要だった「条件」

 今年の日本シリーズはソフトバンクの4勝1敗で幕を閉じました。

 阪神との戦いは結果以上に紙一重だったと感じています。

 「ソフトバンクの4勝3敗」と予想した僕の予想。その背景には、投打ともに安定した強さを誇示し、ペナントレースを制してきた両チームだけに甲乙つけがたかく、その中でひとつ大きな指標となったのはセパ交流戦の戦績でした。

 ソフトバンクは阪神に2勝1敗で勝ち越しており、交流戦全体でも12勝5敗1分けで優勝を果たしています。かたや阪神は8勝10敗と負け越し。

 ただし、ソフトバンクが日本一になるための「条件」があると考えていました。

 それは「一気に」阪神を叩き込むこと。

 ソフトバンクは先発がゲームを作り、7回から藤井皓哉選手、松本裕樹選手、そして守護神の杉山一樹選手へと勝ちパターンへと繋ぐことで優位性を保てています。

 したがって、先発が序盤で打ち込まれるような試合が続いてしまえば立て直すのが難しい。

 接戦になれば先発、救援と厚みのある阪神に寄り切られてしまうのではないか、と考えたわけです。

 そのため「4勝3敗」と言いながら、実際はソフトバンク日本一の条件は「4勝0敗か4勝1敗くらいの展開に持ち込まないといけないだろうな」と思っていたのです(これはプロ野球ニュースなどでもお話していました。とはいえそれを言い切る勇気がなく……4勝3敗の予想は、本当に難ししかったです。苦笑)。

「先勝阪神」光った佐藤輝明の機転

 最大7試合の短期決戦である日本シリーズにおいて、「流れ」や「勢い」はとても重要です。

 抽象的な表現でファンのみなさんには伝わりづらいかもしれませんが、一投一打、1球、1プレー、選手起用や采配……。

 これらによって大きく流れや勢いが傾くことは、野球の試合では頻繁に起きます。特にハイレベルでよりプレッシャーのかかる頂上決戦・日本シリーズでは、それが顕著に表れるといっていいでしょう。

 最初に流れを掴みかけたのは阪神でした。

 第1戦の1点を追う6回、先頭の近本光司選手がヒットで出塁。初球に盗塁を成功させたあたりは、ソフトバンク先発の有原航平選手の「ランナーを背負った際のピッチング」を相当、研究してきたことをうかがわせました。その後、セ・リーグ最多の44犠打を記録した中野拓夢選手の三塁線への絶妙なバントが内野安打となり、ノーアウト一、三塁とチャンスを拡大。

 ここからの3、4番の対応が素晴らしかった。

 まず、前の打席で有原選手のフォークに翻弄され三振に倒れた森下翔太選手が、この打席ではそのボールをしっかりと見極め、カウント3-2からの5球目の内角高めのシュートをショートへと飛ばします。詰まった打球がセカンド寄りのショートゴロになったことで三塁ランナーが生還し、なおも1アウト三塁とチャンスを継続させます。打ち取られはしたものの、森下選手の意識と仕事は見事でした。

 そして、この試合の肝となったのが4番・佐藤輝明選手の打席です。

 初球、2球目はきわどいインコースに投じられたカットボール。これを連続で見逃します。3球目はチェンジアップ。これも見極め3-0としたのですが、このとき佐藤選手はタイミングの取り方を変えたように感じました。

 伏線は1、2打席目です。...