アメリカではセイバーメトリクスがもう半世紀前ほどから提唱され、分析によって勝ち筋を見つけた。その後、データが一般化され、集積しビッグデータが活用された。すでにそれらは定着したが、当時から新しいものとして常にスポットを当てられ続けた。現在の野球は「トラッキングデータ」が中心になる。

 チームは勝利を、選手は成長を求める中で、これからの時代、何に頼るべきなのか? 元楽天監督・平石洋介は、39歳で監督となり就任1年目でクライマックス・シリーズ進出を果たしたものの退任の憂き目にあった。さまざま経験を積み、伝えたいことが明確になってきた――。

 大注目を浴びている平石の初めての書籍『人に学び、人に生かす。』より「はじめに」に記されたその哲学を紹介する。

 

本書を出す意味と覚悟

 大分県で生まれ、大自然と家族に恵まれた。

 小学校を卒業するころには「プロ野球選手になるんだ」と、縁もゆかりもない大阪の強豪チームでプレーすることを決めた。僕の家族、父・母・兄・姉との生活は小学生までだ。

 中学で野球の腕を磨き、高校は大阪の名門・PL学園へと進学。怪我をして思うようにプレーできない日々が続いたが、最高学年時にはキャプテンを任された。当時の僕を記憶してくれている人がいるとすれば、日本野球界・希代の選手、松坂大輔率いる横浜高校と甲子園で延長戦を戦った、あの激闘の一プレイヤーだったことかもしれない。

 大学は同志社で一年生から試合に出させてもらいベストナインも獲得できた。その後、プロの選択肢を断ち社会人の名門・トヨタ自動車へ入社。2年後には創設1年目となるプロ球団・東北楽天ゴールデンイーグルスに入団。引退後は、監督まで務めることになる。

 いいことも悪いこともあった。

 現役で結果を出すことはできなかった。それなのに僕は39歳で「松坂世代」で最初のプロ野球監督になれた。1年目で3位と最低限の結果を出した。でも2年目はなかった。すぐに常勝軍団からオファーがあった。尊敬する先輩とともに戦った……。

 思いもよらないことが繰り返されて、今に至るまで野球の仕事を続けている。

 時代は大きく変わった。

 ずいぶん大きくなった娘・息子たちは、生まれたときからインターネットがあり、物心がついたときにはスマートフォンを持っていた。これからはAIなどが相談相手にもなるだろう。彼女・彼らは何かを学ぶとき、「動画」をまず、探す。

 現場で接し続けた、子どもたちよりもちょっと年上の選手たちもまた、データと向き合い、動画とにらめっこをしながら、時にその専門家たちに学ぶ。

 それらの恩恵を受けることのなかった僕は、それを羨ましく感じることもあれば、物足りない、と思うこともある。

 インターネットもスマホもAIもない時代、僕らが学んだものは「人」だった。

 その学んだことを生かしたいと思うのもまた「人」に対してだった。

 そうやって僕たちは、時代を生き抜いてきた。実は、新しいこれからの社会の中で、「人」から学ぶことは、より存在感を増すのではないかと思っている。

 本書を出す意味、覚悟はここにある。

 僕の半生を振り返りながら、そこにあった「人」との学びが、みなさんに生かされたら、という思いで書きづらいことも綴った。

 手に取った方への感謝と、少しでも学びがあればいいなと思っている。

『人に学び、人に生かす。』平石洋介・著の「はじめに」より)

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From
Yosuke Hiraishi

初めての試みでどんなふうになるかワクワクしています。選手、チーム、監督そしてコーチの目線から、なるべくオフレコなしでプレーの背景を伝えていければと思います! 

※注意※月額料金に刊行予定の書籍代(価格未定)は含まれません。 

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