脱いでも稼げない「裸のデフレ」の時代、コロナ禍がその状況に拍車をかけた。夜職で働く女性たちが収入を失い、困窮化。性風俗産業は女性の貧困とからめて取り上げられるようになった。

その一方で、稼げる女性と、そうでない女性が二極化しているともいわれている。ではその背景には何があるのか。社会全体で格差が拡大するなか、性の世界にもその影響はあるのか。

本企画では、風俗の世界で働く女性たちへのインタビューを行っていく。記事だけでなく、動画、音声、LIVEなどのイベントを通して、格差が生じる要因を探る。今回は、高野あやこさん(仮名)にお話をお聞きしました。

高野あやこさん(仮名)
最高年収 約1100万円
稼いだとき お店を辞める最後の年

うつ病での退職をきっかけに、デリヘルの仕事を開始

 高野あやこさん(仮名)が風俗の世界に足を踏み入れたきっかけは、うつ病による退職だった。高校卒業後、地元を離れて専門学校に進学し、都市部で一人暮らしを始めた。

 専門学校を卒業後、就職したが、一年ほどで職場での人間関係やメンタルの問題などが重なってうつ状態になってしまい、働き続けることが難しくなってしまった。退職後、アルバイトを転々としたが、都市部で安定した一人暮らしを続けるだけの収入を得ることはできなかった。

 生活の安定のために高時給の仕事をしたいと考えて、求人情報誌で見つけたコンパニオンの仕事に応募した。会社に面接に行くと、担当者から「うちはデリヘルもやっているんだけど、稼ぎたいのであれば、デリヘルの仕事の方がいいんじゃない?」と提案された。

「その時は、デリヘルという仕事がどんなことをするのかよく分かっていなかったので、怖くて断りました。担当の方と連絡先を交換しただけで、コンパニオンの仕事も結局やりませんでした。その後、引き続き色々なバイトを掛け持ちして生活していたのですが、やっぱり生活を安定させるためには高収入の仕事が必要だなと思い直して、自分から担当の人に『デリヘルで働きたい』と連絡しました」

 デリヘルがどのようなことをする仕事なのかについては全く知識がなかったが、働くことを決めてから自分で情報を集めて、おおまかな仕事の内容を理解することはできた。

高野あやこさんのインタビュー動画#1はこちらから

何も教えてもらえないまま、初回の接客へ

 入店後、最初のお客が待つホテルに派遣されることになったが、お店のスタッフからは、どのような流れで、どのようにサービスをすればよいのかについて、ほとんど説明がなかった。

「挿入だけはしちゃダメ、と言われて、ローションとうがい薬などの入った道具袋を渡されて、『はい、いってらっしゃい!』と送り出されました。どんなサービスをすれば良いのですか、と質問しても『お客さんが教えてくれるから』と言われただけでした」

 初めての接客は、緊張してあまり覚えていない。最初のお客は「デビューしたての新人の女性しか呼ばない」というタイプの男性だった。具体的なサービスの内容や技術よりも、「お客さんとお金をやり取りした後は、盗難防止のために、財布は肌身離さず持っていたほうがいいよ」「お客さんと別々にシャワーを浴びるなら、浴室まで財布を持っていった方がいいよ」といった管理面について教えてくれた。

 それでも、どのようなサービスを、どのような手順でおこなえばいいのか、といったデリヘルの基本的な流れが全くわからなかった。

「サービスの流れや方法について、お店からきちんと教えてもらえるものだと思っていたのですが、そうしたサポートは全くありませんでした。お客様は確かに色々なことを教えてくれるが、自分自身に知識がなさすぎて、お客様の言っていることが正しいのか間違っているのかもわからなかったです」

 お客が教えてくれることは、あくまで「自分がそうしてほしいこと」であって、デリヘルとしての基本的なサービスの流れではないのでは、とも感じた。最低限の「してはいけないこと」は分かったが、その上で何をすれば良いのか、ということは全くわからなかった。

 当時は店の内勤やドライバーのスタッフも出入りが激しく、安心して質問できる雰囲気ではなかった。店に在籍している他の女性たちとも、当初は関わりを持たないスタンスだったので、相談する機会はなかった。

「自分がお客様にすべきことは何なのか」を模索する

 誰も正解を教えてくれない世界の中で、高野さんは、デリヘル嬢として自分がお客様にすべきことは何なのか、どのような流れで接客して
いけばよいのか、ということを独りで模索していった。

 前職は接客業だったので、まずはお客との会話やコミュニケーションに力を入れることを心がけた。その上で、サービスのテクニックに関しては、自分の身体を使って覚えていくことを決意した。

 高野さんが在籍していたデリヘルのグループは、メインとなるノーマルのデリヘル店の他に、SMやハンドサービスなど、コンセプトの異なるいくつかの店舗を運営していた。

 メインの店で働いていた高野さんは、コンセプトの異なる他の店にも源氏名を変えて在籍し、そこで働きながら実地でテクニックを磨く、という方法を選んだ。

「具体的には、それぞれのお店のお客様が、私にしてくることや求めてくることを覚えていきました。SMのお店であれば、お客様を責めるための技術や、お客様から責められる技術が学べます。ハンドサービスのお店であれば、手を使ってお客様を満足させる技術が学べます。それぞれのお店で身につけたテクニックを、メインで働いているノーマルのお店のお客様に対して試していこう、と考えました。お客様と一対一の中で、自分の身体を張ってテクニックを身につける。今振り返ると、修行のような感じでした」

 働き始めてから1年ほどは、こうした形で、様々な店に出勤しながら、接客に活かせるテクニックを身を持って学び、自分の技として、身体に落とし込んでいった。お客の持っている風俗に対するイメージや期待、価値観なども吸収していった。

 風俗の世界では、どんな業種であっても、その業種における基本サービスをただ機械的に覚えて実践するだけでは、指名は取れない。「お客様がどうしたいのか」ということを読み取ったうえで、それに合わせて、(法律や店のルール・コンセプトを理解したうえで)サービスを提供していく必要がある。

 具体的なサービスの内容や流れを店から何も教えてもらえなかった代わりに、様々なコンセプトの店舗に身を置いて、「お客様がどうしたいのか」ということを実地で学びながらテクニックを磨いていった高野さんは、一見遠回りのように見えて、実は最短距離を走っていたのかもしれない。

「仕事として向き合う」ことを決意

 店のホームページに載せる写真は、当初は自分の写真を使っていなかった。身元がバレてしまうこと(身バレ)が怖かったからだ。

「最初の頃は、元々お店に在籍していて、なんとなく自分とスタイルが似ている女の子の写真をお借りしていました。いわゆるダミー写真、というやつですね。お店がそうしたダミー写真をよく使うところというわけではなかったのですが、身バレが怖かったので。年齢も実際より低く設定していました。たいていの子が実年齢よりも低く設定していたと思います」

 ダミー写真を使っていたときは、指名が全くつかなかった。お客の目も節穴ではない。わざわざお金を払って、ダミー写真にしか見えない女の子を指名するようなことはしない。

 また年齢についても、実年齢より低く設定することで、お客との会話が噛み合わなくなるなどのトラブルが生じ、それも指名がつかない一因になっていた。

 指名がつかないので、新規のお客に接客できる機会がない。新規のお客がつかなければ、指名につなげることができず、いつまで経っても収入は安定しない。

 こうした悪循環から脱出するべく、意を決して、自分の写真を店のホームページに載せるようにした。スタッフのアドバイスに従って、写真は定期的に撮り直して、常に最新の写真を載せるようにした。

 自分の写真を使うこと、ダミー写真を使わないことは、ごく当たり前のことに思えるかもしれないが、実際に「自分の写真を風俗店のホームページに載せる」「定期的に撮り直して、常に最新の写真を載せる」ことは、それなりの覚悟と手間が必要になる行為である。決して、誰でも簡単にできることではない。

「自分の写真を載せるようになってから、自分の個性が出せるようになりました。写真を見たお客様からの指名も、ちょこっとずつ増えていたかな。また、年齢もごまかさないで、実年齢にしてもらいました。ホームページで店長が女の子の特徴や魅力を紹介する『店長コメント』も、自分で直してました」

 お客とコミュニケーションを取る技術、そしてサービスの技術を磨いていく中で、自分の写真を載せるようにしたことで、徐々に指名も増え、収入も安定するようになってきた。

 デリヘルに対して、きちんと仕事として向き合い、自分の写真と実年齢を公表して戦う、という覚悟が、収入の安定につながった。

「シンプルに『きちんと仕事として取り組もう』と思ったんです。デリヘルのお仕事はサービス業なので、自分を隠したり偽ったりするのではなく、ちゃんと自分らしさを出して接することができれば、お客様もついてきてくれるんじゃないかなと。そういう考えを持つようになってきたら、収入も変わっていきました」

「ありのままの自分を出していくスタンス」が高収入につながる

 風俗で稼ぐためには、2つのスタンスがある。ありのままの自分を出していくスタンスと、本来の自分とは異なるキャラを作り込んでいくスタンスだ。どちらが正解になるかは、個人の性格・店舗・業種・客層によって変わる。高野さんは、前者を選択した。

「スタンスを変えたことで、新規のお客様で荒いプレーを求めるような方は減りました。当時は写メブログでアピールする時代だったのですが、自分が好きなことや得意なことを発信することで、その内容にマッチする方が来てくれるようになり、お客様の質が良くなりました。 サービスもしやすくなりました」

 ただ「デリヘルを利用したい」のではなく、「この女の子と遊びたい」という明確な目的を持った客が増えれば、必然的に客層も良くなり、指名と収入も増える。

「お店のスタッフさんとの関係性も大事です。スタッフさんが電話でお客様に女の子を紹介する際に、より具体的にお勧めしてもらえるように、自分の好きなことや得意なプレイのことは、事前に伝えていました」

 25~26歳頃には収入が安定し、リピートも増え、長時間コースで予約してもらえることも増えた。

「一般的に風俗は若いほうが稼げるというイメージがありますが、私は年齢は関係ないと思います。年齢よりも、その人の中身や人柄が大事。接客中の気遣いや雰囲気なども含まれると思います。 

 私を指名してくださるお客様は、一緒に遊びながら、共に人生を進んでいくぞ!みたいな感じの方が多かったんじゃないかな。デリヘルを利用する男性には、家庭や職場とはまた違う、自分だけの居場所を作りたいんだろうなぁ、っていう感じの方が多かったです。 家庭や職場に居場所がないわけじゃないけど、利害関係のない信頼できる相手と、もう1つ別な場所を作りたい、という思いがある。色々なことを楽しく話して、サービスを受けてスッキリして、また明日から頑張るぞ!みたいな」

毎月15日の出勤で、100万円の収入を稼ぐ

 お客に対して、性的な満足感だけでなく、精神的な満足感を与えるために、接客時に工夫していたことはあるのだろうか?

「サプライズのようなドキドキ感を与えることは意識していました。お客様がトイレに入ってる間に、こっそりクローゼットに隠れて、お部屋の中でかくれんぼしてみたりとか(笑)。

 長く指名してくださっている方でも、ドキドキ感を忘れないように、クリスマスやバレンタイン、お花見などのイベントが近いとき、『こういうことを一緒にしてみませんか?』と自分から提案して、プランを立てました。

 男性は、普段お仕事や子育てとかで忙しくて、なかなか自分が主役になって遊べる機会がなくなってきてると思うんです。そういう方たちが、若い頃の気持ちに返って、主役になって遊んで頂くためには何が必要か、ということをずっと考えていました。

 私の在籍していたお店は、女の子がお客様の車で一緒に出かけるとか、食事に行くとか、ゲームセンターや映画を観に行ったりと、色々なことができるお店だったので、お客様の好きなことを聞き取って、プランを立てました。一緒にプランを立てることで、お客様も先々の予約をロングコースで入れてくださるようになりました。当時は最低でも120分から、ということが多かったです。ホテルに行かないプランもあり、ゲームセンターに行ってUFOキャッチャーしたり、コンビニに行って一番くじを引いて終わり、ということもありました」

 リピーターのお客とプランを立ててサービスをすることで、一日の接客人数を2~3人に絞り、1ヶ月の働く日数を減らし、身体を休めることもできるようになった。1ヶ月の出勤日数は15日前後で、100万円前後の収入を稼げるようになった。

「稼げないからといって、出勤日数や待機の時間を延ばせばいいわけではない、と学びました。ずっと待機所にいると、病んでしまうので」

高野あやこさんのインタビュー動画#1はこちらから
<次回>【風俗嬢の経済格差】高野あやこさん#2

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