結婚生活の中で積もり積もった不満や違和感。もう離婚しかないと思うほどの不仲やトラブル。

 さまざまな夫婦の在り方があるからこそ、ふたりの間だけで解決できない悩みや問題を抱える人も少なくないでしょう。

 夫婦カウンセラーとしてこれまで2000組以上の夫婦をサポートし、著書『夫は、妻は、わかってない。夫婦リカバリーの作法』でも注目を集める安東秀海先生が、読者の皆様から寄せられた夫婦関係のお悩みにお答えします。

 前回から引き続き、夫が発したショックな一言からのセックスレスに関するご相談への回答をお送りします。

(写真:AsiaVision / E+ / GettyImages)

「自己肯定感」を取り戻して、お互いを知り、理解する

 「女性として見られない」という言葉は、誰にとっても深く傷つくものです。まーりーさんのように、この言葉を夫から言われた場合、それは単なるセックスレスの問題を超え、夫婦関係の根幹を揺るがしかねない深刻な事態でしょう。この問題は、夫婦間の境界線の曖昧さやストレスの蓄積、そしてコミュニケーションの欠如を映し出しているのかもしれません。

 まーりーさんからのご相談、後半となる今回は、なぜ配慮に欠ける発言が生まれてしまうのか、そしてセックスレスの問題に夫婦がどう向き合い、具体的な取り組みを始めるべきかを掘り下げていきます。

まーりーさん(仮名)からのご相談 女性として見れず、家族としては大事だけど、できないかもしれないと主人から言われ、ショックを受けてます。風俗...続きを読む

なぜ心ない言葉が生まれるのか

「女性として見ることができない」                     「風俗に行ってもいい」

 夫からのこれらの言葉は、まーりーさんを深く傷つけました。誰が聞いても非難されて当然の発言が、なぜ生まれてしまったのでしょうか。

 まず考えられるのは、夫婦間の「こじれ」やストレス、身体的・精神的コンディションの問題が、発言の背景に隠れているケースです。例えば、二人の間にセックスやセックスレスに関する問題が長く横たわっていたとしたら、夫のあきらさんの中には、時間をかけて積み上がった負い目や重圧感が蓄積されていたことが考えられます。また、セックスやスキンシップとは直接関係がなくても、ネガティブな感情や積み重なったストレスがある場合、他者への思いやりや配慮の気持ちが鈍ってしまうことは十分にあり得ます。

 加えて、相手の立場に立って考える習慣がないことも、配慮のない言葉に繋がりやすい要因です。自分の言葉がどんな風に伝わり、どれだけの影響力を持つのか。想像力を働かせて理解することがなければ、人は他者の痛みに鈍感になってしまいがちです。

 本来であれば、あきらさん自身がなぜあの時、あのような言葉が出たのかを内省し、その意図と背景を整理する必要があります。

 夫婦関係のこじれ、仕事や子育てによる疲弊、あるいは性的な欲求のズレなど、そこに何があったのか? ただ、どのような背景があったとしても、あきらさんの発言が妻への配慮を欠いた発言であることに変わりはなく、その言葉の責任はあきらさんにあるのであって、まーりーさんが引き受けるべきものではありません。

夫婦カウンセラー・安東秀海によるQ&A連載

相手の言動に影響されすぎない

 「優しくない」と感じる言葉や態度に直面すると、「自分は優しくされる価値がない存在なのだ」と、誤った自己認識を抱いてしまうことがあります。もちろん、それは大きな誤解です。しかし、相手が近しく大切な存在であればあるほど、その言葉は重く、心に深く突き刺さります。

 だからこそ、ここで最も大切なのは、その言葉や態度があなたの価値とは一切関係がない、ということを何度でも繰り返し認識し直すことです。

 例えば、「女として見ることができない」という発言や、「風俗に行ってもいい」という提案があったとしても、それらは相手(あきらさん)の個人的な問題や課題から生まれたものだと理解しましょう。たとえその背景に夫婦間のわだかまりがあったとしても、その感情をどう扱うかは、それを感じているあきらさん側の問題です。

 もし今、まーりーさんが「私は女として愛されない」「尊重される存在ではない」と感じているとしたら、それは誤った考えであり、自分自身を苦しめるだけです。まずはそのことを心に留めておく必要があります。

 まずは「自分は大切にされるべき存在である」と再確認しましょう。そのうえで、夫婦としてこれからどうしていきたいのか? あきらさんにはどうして欲しいのか? これから二人の関係に何を望むのかを考えてみてください。

 なぜ「自分を大切にする」ことが出発点なのか?

 このステップが、健全な夫婦関係を育むための土台となるからです。

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まず、信頼関係の土台を育む

 自分自身を大切にすることは、内側から湧き出る自信と自己価値を認めることに繋がります。この自己肯定感がなければ、たとえ何かを望んだとしても、「自分には無理だ」「叶うはずがない」といった否定的な感情が邪魔をして、行動に移すことができません。

 望みを考える前に、まず「自分にはそれを望む価値がある」と信じることが、最初の一歩となります。そして夫婦の関係性においては、それぞれが望むことを正直に共有し、それを支え合うことで健全な信頼関係が醸成されていくのです。

 まーりーさんは、あきらさんと心が繋がり、その表現のひとつとして身体を重ね合うことを望んでいます。そうであるならば、その想いを「叶わないこと」として諦めるのではなく、「大切なこと」として、改めてあきらさんに伝えていくことが必要です。

(写真:mapo / iStock / Getty Images Plus)

セックスを「アップデートする」

 「セックスレス」という言葉は、時に夫婦関係そのものの問題であるかのように捉えられがちです。危機感を抱いている側にとっては、それほど痛みを伴うものであるからですが、一方でセックスという行為の有無が夫婦間の関係性の全てを象徴するわけではありません。また、セックスそのものが多様な価値観と結びついているため、たった一つの側面だけを切り取ってしまうのは、誤解や行き違いを生む要因ともなります。

 ここではまず、「セックスは夫婦の関係の一部分であり、さらに時間の経過や関係性の深化とともに変化していくもの」と考えておくことが大切です。

 「夫婦なんだからセックスはあるべき」という考えも、「仲が良いならセックスなんてなくても」という感覚も、いずれかが絶対的に正しいわけでも間違っているわけでもありません。大切なのは、自分自身がどんな関わり方を求めているのか? そしてパートナーはどうなのか? という視点に立ってみて、まずはお互いを知り、理解し合うことです。

 ライフスタイルが時間の流れで変わるように、それぞれの身体的な状態、心の動き、感情、考え方もまた、変わるものです。その中で、セックスへの興味や捉え方、そして位置付けもまた、変わるのは自然なことではないでしょうか。大切なのは、そんな変化を受け入れて、新しいセックスの形を二人で作り上げていくことなのだと思います。

 恋人同士のような恋愛感情や性的な刺激に起因するセックスだけでなく、安心感や安定的な関わり合いの上に成り立つセックスもある、とセックスに対する情報を「アップデート」しておくことも大切です。

 そのためにも、まずはお互いのセックスについてどんな考えを持っているのかを話し合ってみることから始めてみるのも良いかもしれません。

 正直な対話を重ねること。それを通して、二人だけの新しいセックスのあり方を一緒に考えていくことが、夫婦間の信頼を育むことに繋がるはずです。

 ただし、二人の間に積み上がったわだかまりがある場合、その話し合い自体が成立しないことも考えられます。もし今、話し合いができそうもない、と感じるならば無理に話をしようとする前に、日々の生活を楽しむことが重要です。

 また、セックスだけが夫婦の愛情表現のすべてではありません。感謝を伝えたり、趣味や仕事、友人との交流など、それぞれが大切にしている時間をサポートし合うことでも、信頼や心の繋がりを育むことに繋がるでしょう。

 まーりーさんご夫婦にとってこの問題と向き合うことが、二人の関係をさらに深めるきっかけになることを祈っています。

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