元『週刊ゴング編集長』小佐野景浩氏が、かつての取材資料や関係者へのインタビューをもとに、伝説のプロレスラー・ジャンボ鶴田の強さと権力に背を向けた人間像に踏み込んだ588頁にもおよぶ大作『永遠の最強王者 ジャンボ鶴田』。

本連載では、刊行以来大反響を呼んだこの1冊に、新たな取材、証言を盛り込み改めてジャンボ鶴田の人物像に迫る。

今回は鶴龍対決第2章。ジャイアント馬場の構想、ブルーザー・ブロディ乱入がもたらしたものとは?

Index
・戦火拡大!鶴龍対決第2章に超獣ブロディ乱入
・天龍の次に鶴田を覚醒させたブロディ

戦火拡大!鶴龍対決第2章に超獣ブロディ乱入

 ジャンボ鶴田vs天龍源一郎の鶴龍対決第2章は1987年8月31日の日本武道館で天龍がリングアウト勝ちした第1章からわずか36日後の10・6日本武道館で早くも実現する。日本武道館2回連続でメイン……ジャイアント馬場は全日本プロレスの命運をこの2人に懸けていたのだ。

 第2章は鶴田の方がスタートから荒っぽく突っかけた。ロックアップからロープ際でエルボーバット、右の張り手からロープに振ってジャンピング・ニー、天龍が場外にエスケープすれば、それを追って鉄柱、場外フェンスに叩きつける。

 リングに戻ると、天龍は試合を鶴田の動きを封じ込み、試合をリセットするためにヘッドロック投げでグラウンドに持ち込み、5分過ぎまで執拗なヘッドロック攻撃に出たが、鶴田は止まらない。ジャンピング・パイルドライバー、延髄斬り、ランニング・ネックブリーカー、ネックブリーカー2連発と第1章と同じく大技攻勢に出た。

 天龍もラリアットで鶴田の巨体をなぎ倒すと、コーナー最上段から背面式ダイビング・エルボードロップ、ジャーマン・スープレックスで反撃だ。

 17分過ぎ、前回と同じようなシーンが生まれた。場外戦から先にリングに戻った天龍がエプロンに上がってきた鶴田に延髄斬り。そしてロープに走ると、今回はラリアットではなく頭から突っ込むような猛タックル! 鶴田がこれをかわしたから、天龍は頭から場外に転落だ。リングに戻った鶴田はエプロンに上がってきた天龍にジャンピング・ニー。エプロンの天龍は必死に左腕を出してラリアット……ジャンピング・ニーとラリアットの相打ちになった。

この攻防の勢いで鶴田は場外に転落、逆に天龍はリングに転がり込む形になったが、天龍の場外カウント7を数えていた和田京平レフェリーは、鶴田が天龍と入れ替わりに場外に落ちてもそのままカウントを続行。10を数えて鶴田のリングアウト負けを宣告しようとしたところでセコンドのマイティ井上が猛抗議。

 これが受け入れられ、試合続行になったものの、鶴田は完全にエキサイト。天龍を鉄柱に叩きつけて流血に追い込み、リングに戻るとコーナーに詰めてパンチばかりか珍しくヘッドバットも乱打。制止に入る和田をボディスラムで叩きつけてしまい、反則負けのゴングが鳴り、日本武道館は騒然となった。

 そこに87年4月に新日本に移籍し、その後は新日本とのトラブルで日本マット追放になりながら、この10月に馬場の恩赦で2年7ヵ月ぶりに全日本にUターンしてきたブルーザー・ブロディが乱入してきた。

 鶴田をゴリラスラムで叩きつけ、ギロチンドロップを投下するハプニング。鶴田はバックドロップで撃退したが、鶴龍対決第2章の余韻はかき消されてしまったのである。

「初めは純粋な試合をしようと思ったけど、途中で一度、リングアウト負けにさせられてカーッとなっちゃったね。負けたとは思ってないよ。むしろ勝ったと思ってる、最後は天龍をぶっ潰しに行ったんだから」(鶴田)

「ジャンボの気合は凄かった。反則の裁定は仕方ないけど、ジャンボがあそこまで来たのに納得しているし、あれがある限り、ジャンボ鶴田は捨てたもんじゃないよ」(天龍)

 この試合は野球シーズンが終わって午後7時からのゴールデンタイムに戻った10月10日に放映された。ビデオ=9・4%、ニールセン=9・5%。ニールセンの視聴率が前回より下がってしまったのは、録画放映ということで反則決着が事前に広くファンに知られていたからだろう。

 87年の全日本の流れを整理すると、4月に長州力らのジャパン・プロレス勢の大量離脱によって存亡の危機に立たされたが、6月の天龍革命勃発によってリング上の図式は鶴田vs天龍を頂点とする正規軍と、阿修羅・原だけでなく川田利明とサムソン冬木を加えて一大勢力になった天龍同盟の日本人抗争が主軸になって一気に盛り返した。

 ここにPWFヘビー級王者のスタン・ハンセンがジェラシーの炎を燃やし、さらに恩赦によってブロディが戻ってきたことで戦火はさらに拡大されたのである。

鶴龍対決第2章の試合後にブロディが乱入

天龍の次に鶴田を覚醒させたブロディ

 ブロディが10・6日本武道館の鶴龍対決第2章の試合後に乱入して鶴田を襲ったのは「俺がカムバックしてきた以上は、全日本の選手全員は、この俺を相手にするしかない。こんなに大きく、こんなスピーディーで、こんなに飛べるレスラーはいない。日本人対決? 頑張って、早く終わらせろ」というアピールだ。...