最強なのに、NO.1を取れなかった謎の男、ジャンボ鶴田。彼の本質に迫る重厚なノンフィクションがSYNCHRONOUS(シンクロナス)でスタート!
プロレスライターの小佐野景浩氏が、自身の著書『永遠の最強王者ジャンボ鶴田』(ワニブックス)に大幅加筆をしてお届けする、プロレスファン必見のシリーズ連載です!
また「永遠の最強王者 ジャンボ鶴田」完全版のスタートに先駆け、書籍版「永遠の最強王者 ジャンボ鶴田」第1章、第2章、さらに著者・小佐野景浩が「完全版」スタートを記念して書き下ろした「藤波辰爾にとってのジャンボ鶴田」を無料で配信。こちらもお楽しみください。
今回は「はじめに」として、書き下ろし「藤波辰爾にとってのジャンボ鶴田」をお届け。鶴田と藤波のキャリア、そして同世代のライバルから見た「最強王者」の強さとは?
【プロレス好き必見!!】“最強王者”の実像に迫る
49歳の若さで急逝した怪物「ジャンボ鶴田」を描いた傑作ベストセラー『永遠の最強王者 ジャンボ鶴田』(ワニブックス)を大幅加筆。いまだ根強い「ジャンボ鶴田〝最強説〟」と、権力に背を向けた彼の人間像に迫る!さらにレスラー、関係者を招き「ジャンボ鶴田」を語り尽くす対談動画も配信予定!初回のゲストは「スタン・ハンセン」!
〈配信予定内容〉
【7・8月初旬】
・「永遠の最強王者 ジャンボ鶴田」完全版「はじめに」(今回の記事)
・書籍版「永遠の最強王者 ジャンボ鶴田」第1章~第2章を毎週配信
・対談動画「ジャンボ鶴田の素顔」ゲスト:スタン・ハンセン
【8月中旬】~<大幅加筆の新シリーズ「完全版」開始!>
・「永遠の最強王者 ジャンボ鶴田」完全版:第3章「エリート・レスラー」
【9月】
・「永遠の最強王者 ジャンボ鶴田」完全版:第4章「驚異の新人」
【10月】
・「永遠の最強王者 ジャンボ鶴田」完全版:第5章「馬場の後継者として」
~以降、全11章(予定)を毎月配信!~
「夢のままに」終わった二人の戦い
ジャンボ鶴田が2000年5月13日に49歳の若さで急逝してから23年もの歳月が流れた。
長く続いたジャイアント馬場、アントニオ猪木のBI時代に風穴を開けたのは鶴田、藤波辰爾、長州力、天龍源一郎の“俺たちの時代”と呼ばれた世代だが、気付けば今も現役としてリングに上がっているのは藤波だけだ。
振り返れば、鶴田と藤波はそれぞれの師匠の馬場と猪木のように常にファン、マスコミ関係者からライバルとして注目されたが、遂に一度も対戦することはなかった。
藤波は「俺たちの時代と言われる中でも長州と天龍はある部分、一レスラーとして好きなことが言える立場だったと思うけど、自分とジャンボは……自分は猪木さん、ジャンボは馬場さんの下にいたんで、迂闊なこともできないし、慎重にならざるを得ない立場にいたから特別な思い入れがありますよ。ただ、そうした環境というか状況が、ふたりの戦いを夢のままに終わらせたということも言えると思いますね」と言う。
対戦がなくてもふたりがライバルと見なされたのは、鶴田が馬場と同じくエリート、藤波が猪木と同じく雑草の叩き上げという背景(実は猪木も力道山にブラジルでスカウトされたエリートなのだが)がライバル・ストーリーとしてファンの心をくすぐったのだ。
72年10月31日、鶴田は同年夏のミュンヘン五輪レスリングのグレコローマン100㎏以上級代表の肩書きを引っ提げて「プロレスは僕に最も適した就職だと思い、監督と相談の上、尊敬する馬場さんの会社を選びました」と、全日本プロレスに入団した。
一方、藤波は70年6月16日、同郷の北沢幹之(魁勝司)を頼って下関市体育館に出向き、そのまま押しかけるような形で猪木の鞄持ちという形で16歳の若さで日本プロレスに入門している。
藤波は78年1月23日、ニューヨークのマジソン・スクェア・ガーデンでカーロス・エストラーダを撃破してWWWFジュニア・ヘビー級王座を奪取。「24歳の日本の無名若手レスラーが世界の檜舞台でチャンピオンになった!」と話題になり、2月に凱旋帰国すると大ドラゴン・ブームが巻き起こったが、それまでには入門から8年以上、デビューから7年以上の時間を要した。
鶴田が日の目を浴びるのは藤波より5年近くも早かった。全日本に入団後、翌73年3月に中央大学を卒業すると、日本で下積み生活を送ることなくテキサス州アマリロのファンク一家のもとに送られて現地でデビュー。わずか7ヵ月で凱旋帰国して10月9日の蔵前国技館で馬場のタッグパートナーに抜擢されてドリー・ファンク・ジュニア&テリー・ファンクのインターナショナル・タッグ王座に60分3本勝負で挑戦。
1対1から60分時間切れの熱闘をやってのけたが、テリーからジャーマン・スープレックス・ホールドで1本を自力で奪ったのである。この一戦により、鶴田はデビュー1年経たずに馬場に次ぐ全日本のナンバー2になった。
ちなみに藤波は、この3日前の10月6日の後楽園ホールにおける鶴田の帰国第1戦=日本デビュー戦(vsムース・モロウスキー)を会場で観ている。日プロで同期だった馬場の付き人・佐藤昭雄に誘われて観戦に行っていたのだ。
「彼は新人とかそういう感じではなかった。相撲で言う幕下付け出しのような感じで見えていました。デビュー戦を観ても当然初登場に見えないのよ。もう何年もやっているかのような選手で、馬場さんの横にいても馬場さんのパートナーという感じでね。あれだけの身体を持っているから」(藤波)
“プロレスの神様”カール・ゴッチとの接点
キャリアでは約2年先輩の藤波だが、一気にトップに駆け上がった鶴田はライバル視できるはずもなかった。
意識するようになったのは、やはりWWWFジュニア王者になって凱旋した78年2月以降。
そして79年8月26日に新日本プロレス、全日本プロレス、国際プロレスが集結した東京スポーツ新聞社主催の日本武道館における『プロレス夢のオールスター戦』で両雄は同じリングに立つ。
ミル・マスカラスを加えた夢のトリオでタイガー戸口、マサ斎藤、高千穂明久(ザ・グレート・カブキ)と対戦したのである。
海外修行中、“プロレスの神様”カール・ゴッチの家に約半年間住み込んで鍛え上げられた藤波は「頭の中はカール・ゴッチにマインドコントロールされていて、まったく恐怖心のないイケイケだった。“絶対にジャンボよりも目立ってやる、リングに絶対長くいてやる”っていう気持ちがあったね」と振り返る。
試合は鶴田、藤波、マスカラスのトリプル・ドロップキックが炸裂し、最後はマスカラスが斎藤を押さえたが、藤波は実際に同じリングに立った鶴田の印象を「ジャンボには“俺の牙城は誰も崩せないんだ”という余裕を感じた。俺も“こっちはそうはいかんぞ!”というのはあるんだけど、あっちは我関せずでマイペースでしたね」。
藤波は実現しなかった鶴田戦に思いを馳せて「俺より先にジャンボがゴッチにマインドコントロールされていなくてよかったなあ。あの身体でマインドコントロールされたら誰も勝てないよ」と笑った。
実は鶴田とゴッチには公表されていない接点があった。82年2月、フロリダに遠征した際に現地で修行中であり、ゴッチに弟子入りしていた渕正信とゴッチ邸を訪れているのだ。
ゴッチはオリンピック出身の鶴田のことを知っていて歓待。鶴田はゴッチが持つコシティ(イランなどで使われている伝統的な木製のトレーニング用具)に興味を持ち、使い方を教わった。コシティは異種格闘技戦が盛んだった70年代の新日本の道場にもあったが、現役レスラーで使いこなせるのは藤波と藤原喜明ぐらいだろう。
結局、実現しなかったものの、鶴田がゴッチを訪ねた当時、馬場はゴッチを全日本に招聘することを考えていて、この年の暮れの『世界最強タッグ決定リーグ戦』にゴッチ&ビル・ロビンソンの欧州最強コンビを参加させる計画があったという。もし、ゴッチが全日本の常連になり、鶴田が本格的な指導を受けていたら……。
令和になった今もなお日本最強と呼ばれるジャンボ鶴田。その強さはどこにあったのか? 何が凄かったのか? それを次回から解き明かしていきたい。
「永遠の最強王者 ジャンボ鶴田」完全版(7月20日定期購読開始)
【プロレス好き必見!!】“最強王者”の実像に迫る
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▶『永遠の最強王者 ジャンボ鶴田』の登場人物
秋山準、アニマル浜口、池田実(山梨県立日川高校バスケットボール部同級生)、磯貝頼秀(ミュンヘン五輪フリースタイル100㎏以上級代表)、梅垣進(日本テレビ・全日本プロレス中継ディレクター)、鎌田誠(中央大学レスリング部主将・同期生)、川田利明、菊地毅、ケンドー・ナガサキ、小橋建太、ザ・グレート・カブキ、佐藤昭雄、ジャイアント馬場、新間寿(新日本プロレス取締役営業本部長)、スタン・ハンセン、タイガー戸口、タイガー服部、田上明、長州力、鶴田恒良(実兄)、テリー・ファンク、天龍源一郎、ドリー・ファンク・ジュニア、原章(日本テレビ・全日本プロレス中継プロデューサー)、藤波辰爾、渕正信、森岡理右(筑波大学教授)、谷津嘉章、和田京平
※50音順。肩書は当時。
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元『週刊ゴング編集長』小佐野景浩によるベストセラー『永遠の最強王者 ジャンボ鶴田』(ワニブックス)を大幅に加筆し、ジャンボ鶴田の実像を描くシリーズ。小佐野氏が記事、動画、Live配信を毎月配信していく。
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