結婚生活の中で積もり積もった不満や違和感。もう離婚しかないと思うほどの不仲やトラブル。
さまざまな夫婦の在り方があるからこそ、ふたりの間だけで解決できない悩みや問題を抱える人も少なくないでしょう。
夫婦カウンセラーとしてこれまで2000組以上の夫婦をサポートし、著書『夫は、妻は、わかってない。夫婦リカバリーの作法』でも注目を集める安東秀海先生が、読者の皆様から寄せられた夫婦関係のお悩みにお答えします。
今回は、夫の仕事が忙しく、ひとりで1歳の娘さんを育てているナオミさんからのご相談。気持ちに寄り添ってくれない夫に、せめて育児の大変さを労わってほしい、というお悩みです。
ナオミさん(仮名)からのご相談
夫婦共働きだけど、夫が教職で激務のため1歳の娘のワンオペ育児をしているナオミ(38)です。
夫は朝6時半に家を出て、20時に帰宅。帰宅後も家で残った仕事をして、寝るのはいつも深夜過ぎ。土日も部活動で半日は家にいない。フルで休める日が月に1-2日しかない状態です。
よって、家事・育児の9割を私が負担しています。私は9時〜16時30分の時短勤務で、テレワークは週2日くらい。実家は遠方の為、支援はありません。
給料水準は夫婦同じくらい。残業代が出る分、時給換算すると私の方が上です。
夫が忙しいのはわかっていたので子どもを持つのもためらっていましたが、私がどうしても子どもが欲しかったので、夫が異動になり少し落ち着いてきたタイミングで子どもをもうけました。
夫の仕事が大変なのはわかっています。身を粉にして生徒の為に少しでも良い授業をしようと努力している姿は尊敬します。私のやっている仕事よりも価値のある仕事だと思います。睡眠時間を削って体力を消耗している姿を見ると、いつか倒れないかとても心配です。
そんな彼を見ていると、自分が不満を言うのが悪いように感じてしまいます。彼の大変さに比べたら私の大変さは比ではなく、ただ私のキャパが足りてないのかもしれません。
ただ、子育ては想像以上に大変です。命を守る責任の大きさ、思い通りになんかならない子ども、気力も体力も必要です。自分の時間はほぼ無く、トイレにも行けない爪も切れない髪も切れない。さらに復職して仕事のストレスも加わり、時短で肩身の狭い中、子どもが病気になれば周囲に謝りながら迎えに行く、帰ってきたら家事育児に追われる。
その大変さを夫にわかってほしいと不満を言うと必ず「俺だって大変だ」と言われてしまい、気持ちに寄り添ってくれません。
私は彼に家事・育児をもっとしてほしいのではなく、ただ労わってほしいだけなのです。
いつもありがとう、と言ってくれたら、それだけで頑張れるのに。
ワンオペにより娘は完全にママっ子に。抱っこ、オムツ、着替え、お風呂、ミルク、全て私じゃなきゃダメ。
もっと娘に関わってほしくて育児のアドバイスを言うと、「上から目線で言うな」「言われなくてもわかってる」。
育児はチームワーク。上も下もない。知っている方が教えるのがなぜ悪いのか、私には理解できないのですが、もしかしたら夫は育児に参加できてない事を引け目に感じていて、私のアドバイスを非難していると感じたのかもしれません。
とにかく夫は口論になると論破しようとしてきます。私が感情的になるとすぐ「ヒステリーヤンキー」とディスってきます。
これ以上傷つきたくなくて、夫を避けるようになりました。夫とは理解し合える気がせず、心を閉ざしています。
客観的に見ると、お互いよく頑張っていると思います。それをお互いが感謝し合い、励まし合えたらどんなにいいだろう。どんなに大変な事だって前向きに頑張れるのに。
夫はプライドが高く私より優位に立ちたい人間です。私から譲歩する、歩み寄るしかないのでしょうか。
私からまず先に夫を労わってあげれば、もしかしたら夫も変わってくれるかもしれないですが、残念ながら私はこれまで夫に理解してもらえなかった辛さから深く傷ついていて、その感情が邪魔して素直にありがとうが言えません。先に自分を満たしてあげないと無理な気がしています。
夫とは何でも話せると思っていて、とても信頼して頼ってきたので、期待しない方が楽と思っても、本当は期待したいし、認めてほしい、という欲求が大きいです。
どうしたら良いでしょうか。
育児期の夫婦生活は消耗戦。関係修復のためにできることとは…
育児というのは本当に大変です。
自分の時間はほとんどなくて、仕事をしていても呼び出しがあれば、何をさておいても子どものお迎えに行かないといけません。
食べるものも、観るものも、触れるもの全部に気を配って、気がつくと好きなものまで子どもの好みに置き換わっていたり。時間がなくなるだけじゃない、自分そのものがなくなってしまう感覚にさえなってしまうこともあるのでは?

どんなご夫婦にとっても育児期の生活は消耗戦ですが、ナオミさんのようにワンオペで、ということになるとその負荷は相当です。
だからこそ思うのは、「それでも『夫がいつか倒れてしまわないか』と彼のことを心配してしまうナオミさんのことが心配」ということ。
こういう状況なら、もっと怒っていても良いくらいかな、と思うのです。
もちろん、そうしないのは、彼の仕事や、生徒さんへの想いをよく理解されているからなのでしょう。
いっぽう、子どもが生まれると、それまで以上に仕事に力を入れていく男性は少なくありません。それは、家族が増えた、という責任からであったり、父親としてあるべき姿を見せたいという思いからであったりもします。
ナオミさんのご主人がどんな考えの方なのかはわかりませんが、仕事に高い価値観を置いているのは間違いないようです。だとすれば、ナオミさんが子ども中心の生活に思考から置き換わっていく傍らで、彼はより仕事の方に軸足を置き直していった可能性があります。
「俺は俺で家族のために頑張っているのに、それを妻はわかってくれていない。」
もし彼がこんな思いを抱え始めていたとしたら、ナオミさんが彼や娘さんのことを思い、もっと子どもに関わってほしくて掛けた言葉も「もっと頑張れ」というプレッシャーに聞こえてしまっていたのかも。
だとしたら、今ナオミさんが感じている寂しさや孤独感を、彼も同じように感じていたのかもしれません。

いただいたご相談からはこんな風に感じるのですが、ここからはもう少し深く考えてみたいと思います。
彼は変わってしまったのか
子どもの誕生を境に夫婦の関係性が変わるのはよくあることですが、気持ちに寄り添ってくれないのは以前からでしょうか?
気持ちに寄り添えない、共感力がない、というのは程度の差はあれ、思考的な男性によく見られる傾向です。
彼も以前からそうなのであれば、これは夫婦のテーマというより、彼自身の課題なのかもしれません。その場合「寄り添う」ということをそもそもわかっていない可能性もあります。
共感されないのは寂しいものですし、時に大切にされてないようにさえ感じてしまうかもしれませんが、「寄り添ってくれない」のは、ただやり方がわからないだけなのだとしたら、気持ちも少し軽くなるかもしれません。
また、彼がポジティブ思考タイプの人なら、ネガティブな感情が伴う対話を反射的に拒絶してしまう場合もあります。もしそうだとすれば「寄り添わない」ことに意図はなく、心のクセのようなものです。
いっぽう、以前は寄り添ってくれたのに、今ではそれがなくなってしまった、ということであれば、そこには何らかの感情的な「わだかまり」が作用している可能性があります。
ナオミさんの中に、これまで彼に理解してもらえなかった辛さがあるように、彼の中にも何らかの「傷つき」があるのかもしれません。
また、仕事が忙しく、かつ娘さんが生まれたことでさらにプレッシャーが大きくなってしまって、ナオミさんに寄り添うだけのゆとりが無くなってしまっていることも考えられます。

彼は変わってしまったのか、それとも以前からそうなのか? これは、夫婦関係の改善に取り組むうえでとても大切なことです。
以前からそうであるなら、寄り添ってくれないことにナオミさんが傷つく理由はありません。彼の態度は彼の課題であって、ナオミさんの課題ではないと言えるからです。
いっぽう、もし彼が変わってしまった、ということであるなら、そこにはナオミさんと同様に、傷ついて「わだかまり」を抱えた彼がそこにいる、ということなのかもしれません。
難しいことかもしれませんが、そこは線を引いておきたいところです。
そして、傷ついているのだとしたら、まずはその傷をケアすることが大切です。
家事育児の分担について話せているか
小さなお子さんのいらっしゃる家庭において、家事育児のシェアはとても重要なテーマです。
今はほぼすべてをワンオペで回している、ということですが、それは話し合って決まったことなのでしょうか、それとも結果的にそうなってしまったのでしょうか?
仕事が大切な彼のことをよく理解しているナオミさんには、家事や育児を彼に担ってもらう、という考えが初めからあまりなかったのではないかと推察します。
もしそうであったとしたら、今からでも遅くないので、あらためて家事・育児の分担について話すことを検討しましょう。
初めてのことばかりの育児では、思っていたより大変なことがあるのは当たり前ですし、やり方も分担も何度も見直してアップデートしていくことが大切です。

でもその前に、彼の大変さと比べて私のやっていることは大変ではないのではないか?という考えは手放しておきたいところ。
私は男性なので、ナオミさんが赤ちゃんを迎えるために準備を始めた頃から、妊娠・出産を経て今に至るまで、心も身体も時間も娘さんのために使っているそのエネルギーがどれほどのものか想像もつきません。
だから彼の仕事と比べて、なんて思わないで、きちんと話し合いの場を持ってみて欲しいと思います。
ただ、話し合いの仕方には注意が必要です。「ヒステリーヤンキー」なんて、ずいぶん感情的になっているように見えますから、そこは彼も育児に関われていないことに少なからず負い目を感じているのかな、と推察します。
だとしたら、話し合いは感情を横において冷静な時に。
そのためにはまず、これまでに飲み込んできたわだかまりや傷ついてしまった心をケアしておく必要があります。
ここではナオミさんも感じている通り、まずは「私を労わる」ことが大切です。
先に私を労わる
仕事に育児に家事に頑張っているナオミさんにとって、今必要なのは、パートナーである彼からの承認や感謝、そして優しさであることは間違いないと思います。
それがあればもっと頑張れる、それも真実でしょう。でも残念ながらそれではナオミさんのケアは彼の選択に委ねられて、彼が行動するまではナオミさんの傷ついた心はケアされないことになってしまいます。
それではあんまりだと思うのです。
ナオミさんは、彼のことを大切に感じているし、彼の仕事へのリスペクトもあります。そのいっぽうでナオミさんが担っている家事や子育てを、ご自身がどこか過小評価してはいないでしょうか?
少なくとも赤ちゃんがお腹にやってきてくれてからの時間、娘さんに注いできたエネルギー、時間、想いを計れば、決して小さくなんてないと思うのです。
冒頭でも言いましたが、育児は本当に大変です。でも、それ以上にママ業というのは、本当に本当に大変なんだと思うのです。
どんなに愛情やエネルギーを注いでも不十分な感じがするし、できることはまだまだあるようにも思えてくるのではないでしょうか? 100点を取るのが当たり前なのに、なかなかそんな点数に届かない。自己評価は何点でしょう?
その上、もし100点を取れたとしても、満点は120点、150点、200点と自動更新されていく。そんな世界で、ナオミさんは頑張っているのではないでしょうか?
だとしたら、まずは今日まで娘さんを守り、育ててきた「私」のことを、まずはナオミさんが労わって、ねぎらって、評価してあげてほしいと思うのです。

ここからは、自分を労わるためのちょっとした儀式みたいなものですから、娘さんが生まれてきたあの日、赤ちゃんを胸に抱いている「あの日のナオミさん」を思い浮かべて、良かったら声に出して読んでみてください。
「私は、あなたの娘の母親です。
あなたが生んでくれたその生命を、私もここで守っています。
大変なことも、辛いこともあったけど、
あなたの娘は、今日も元気に笑っています。
娘を生んでくれて、ありがとう。
私は私を誇りに思っています。」
自分を大切にする、というのはわかっているようで、あまりピンとこないような気もします。
だからこそ、彼が労わってくれたら、彼が認めてくれたら、少しは自分を褒めてあげられるのに、と考えるのは自然なことかもしれません。
でも、こんなに頑張っている自分のことを、まずナオミさん自身が認めてあげてほしいな、と思うのです。
相手を変えることはできない、とはよく言われることですね。そのことを誰よりもナオミさんはよく理解されていますよね? だからこそ、先に私を労わってほしい、というこのご相談にナオミさんの辛い気持ちが表れているように感じました。
彼を動かすことは出来ないかもしれませんが、ポジティブな言葉を自分にかけてあげることで心は少し軽くなるはずですから、まずは試してみてほしいと思います。
ナオミさんの心が少しでも安まれば、と願っています。
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