「マウスピース無くしたら、デュエルに行けなくなるかも」(遠藤航)

 遠藤航選手のピッチ以外での”素顔”を毎月1回のペースで公開する「1/12」。今回のテーマは「マウスピース」。

 ブンデスリーガのデュエルキングのイメージが定着した遠藤選手。激しい競り合いをも厭わないプレースタイルを支えているのが、歯を守るマウスピースだ。

「マウスピース無くしたら、デュエルに行けなくなるかも」(遠藤)

 そう語るほど遠藤選手にとって欠かせないパーツとなっているマウスピース。今回は製作を担当している歯科医・宮川順充(みやかわ・ゆきみつ)氏をゲストにお迎えし、遠藤選手とマウスピースと出会いなど、マウスピースの秘密を紐解く。全2回の1回目。

[総再生時間:28分01秒]

(聞き手:シンクロナス編集部)

動画内容
👉試合ごとに改良され続けているカーボン製マウスピース
👉「高級車1台分のマウスピース」として話が広がった経緯
👉バイエルンからのオファーを断った男
👉噛み締めるものではなく、リラックスさせるためのマウスピース
👉平常時と、運動しているときの顎の位置は全然違う
👉ビニール系の素材だと、腕がぶつかると歯が折れてしまう

遠藤 航(以下、遠藤):こんにちは、遠藤航です。

月刊遠藤航「1/12」ということで、今回は僕のマウスピースをいつも作ってくださっている宮川先生にお越しいただいて、「マウスピースとは?」とか「何で僕が(マウスピースを)着けてるのか?」みたいなところを話していきたいと思います。

宮川さん、よろしくお願いします!

宮川順充(以下、宮川):よろしくお願いいたします。

編集部:よろしくお願いします。今(遠藤選手から)ご紹介をいただいたんですが、宮川先生からご経歴などをお教えいただいてもよろしいでしょうか?

宮川:はい、改めまして宮川と申します。私は現在、ドイツのシュツットガルトで歯科医師をしております。

 遠藤航選手のマウスピースは、ちょっとずつ知られてる方も増えてきていると思いますが、彼のマウスピースを現在作っている担当医です。

遠藤:そうですね、はい。

宮川:私自身は、もう12年ぐらい前からシュツットガルトにいるんですけども、最近は遠藤くんをはじめ、結構サッカーをやっている方と関わることが多くなっていて、それで今現在に至っています。

編集部:ありがとうございます。今、「遠藤さん=マウスピース」はもう代名詞のようになっていますが、遠藤さんのマウスピースの出会い、あとなぜ(マウスピースを着用)しようと思ったか。そのところを少しご紹介いただいてもよろしいですか?

遠藤:なぜかと言われたら、本当に宮川さんがまず「ちょっと試してみないか?」と。最初(宮川さんに歯の)矯正をやってもらっていたんですよ。

 そのへんから、いろいろコミュニケーションを取るなかで、歯に対する興味みたいなものを持ち始めました。

 たぶん、宮川さんもマウスピースというものに関しては、少し自分でもいろいろ勉強されていた。選手のマウスピースってどうなんだ?みたいな話で、それで話を最初にもらったのがキッカケです。

 宮川さんの熱い思いを聞きながら、少しずつ「じゃあやってみるか!」みたいな感じになったのが最初ですね。

編集部:(マウスピースを)使おうと決めてから、実際に試合でマウスピースがデビューするまでの期間は、どのくらいあったんですか?

遠藤:どのくらいですかね……。でも、最初の試作品みたいなのは、結構もう早かったですよね?

宮川:そうですね。

遠藤:話し始めてから、たぶん……。

宮川:……2週間後にはもう作ってたかな?

遠藤:うんうん。

宮川:元々、最初のアイデアがあって、一番最初のものは2年近く前になるんですけど、(今のものと比べて)もう似ても似つかない。まったく違うものになっているんです。

編集部:そうなんですね。

宮川:ブンデスリーガの試合が毎週末ありますが、毎週ごとに問題点とか何か課題が見つかったら、フィードバックを遠藤くんからもらって。それを活かして、毎週新しく作って。試合の分だけマウスピースが増えていって、改良を続けている。現在に至るまでそうなんですけども、そういう感じですね。

遠藤:最初は、何で作っていたんでしたっけ?

宮川:完全な歯科用のプラスチックのやつで作って。それだったら厚みもあるし、衝撃でヒビも入りやすかったりとか、いろいろ(問題が)あったんですね。

 それでいろいろ調べて、現在はカーボンファイバーという素材を使っているんですけど、それで再度、強度も増やしながら薄く作っているという感じですね。

遠藤:そもそも、それが結構異例というか。ラグビー選手とかはシリコンっていうんですかね、柔らかいやつを結構みんな着けているんですけど。

 僕が着けているのは、最初からそれ(シリコン素材)ではなくて、ある程度硬さのあるやつでやってみようと。そもそも、そこが一つ違いとして、トライしていたところなんですよね。

編集部:そうすると、我々が思っているようなイメージとちょっと違ったんですけど、延べ数にすると、今何個ぐらいのマウスピースを作られたんですか?実際に着用したマウスピースとして。

宮川:そうですね、(これまで製作した数は)着用したマウスピースであれば40個は超えるでしょうか?それで、日の目を見ずにお蔵入りしたものを含めると、もう60とか70とかそういった感じですね。

編集部:すみません、ちょっと下世話な質問なんですけど……ってことは「60×高級車分」ですか?

宮川:いや、高級車は……。ちょっと、高級車の話だけがなんか独り歩きしてしまった感があるんですけども。ニュースに載ってしまって(※)。

※ 昨年5月、ドイツ紙「ビルト」に宮川順充氏のインタビュー記事が掲載された。製作費について聞かれた宮川氏は「一つずつの値段を出すのは難しいですが、これまでの合計は、高級車が軽く買えるぐらいの金額にはなっていると思います」とインタビューのなかで明かした。そのことが日本のネットニュースなどで話題になった。

遠藤:最初はプラスチックで作っていますからね。

宮川:そう。それでどんどん開発するのに、カーボンファイバー自体をマウスピースや歯科で使うこと自体がもうなかった。現在もほぼないので、ある意味、初というのか。

 ということは、何を調べても、カーボンファイバーの使い方を歯科でやるという前例がないものですから、もうすべてゼロから手探りで始めたんですね。

 それこそ、カーボンファイバーは今でこそいろんな種類があったり、いろんな性能があったりというのはもうわかっていますけど。その当時はまったく分からなかったので、インターネットでとりあえず情報を調べて、カーボンファイバーそのものはAmazonで注文して。

 それで、カーボンファイバー自体も20種類ぐらいいろいろ違うものを試したりとか、そういった開発費用と時間にものすごい労力を使ったんですね。

編集部:なるほど、なるほど。

宮川:時間でいうと、たまたまコロナと被ったっていうのがあるんですけど、何しろ外に行きようがない。ヨーロッパもかなり厳しいロックダウンがありましたから、その間はずーっと職場にこもって、毎日週末から祝日もマウスピース作りでしたね。

 だから、もう1年で休みは5日間ぐらいとか、そんな感じでずーっと開発してて。そんなのが積み重なっていくと、高級車1台分ぐらいにはなるだろうなという(苦笑)。

 たまたま、ドイツのビルトという大手の新聞があるんですけど、その記者の人が取材に来て、それで「いくらぐらいかかるんだ?」って聞かれまして。急にそんな趣味でやっているマウスピースがいくら?って聞かれても困るなと。

 「結構するんだろう?」って言うから、「まぁ、うん。外にそこに停まってるメルセデスベンツ1台分ぐらいになるかな」なんてちょっと軽口というのか、ちょっと言ったんですね(苦笑)。

 そうしたら、それが記事に載ってしまって、それが日本の記事にも翻訳されて(ネットニュースなどに)載ってしまったっていうのが始まりなんですけど。
……すべての内容は、アーカイブよりご覧ください👀✅

[その他、対談動画]
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「サッカーは“最適解”の見つけ合いだと思っています。相手、システム、能力、特徴、コンディション…それらを考慮しながら、勝つために自分たちは“どれ”を選ぶのか。これはサッカーの楽しさであり醍醐味でもあります。もっと“最適解”を見つけたい、聞いてみたい。そんなコンテンツ企画です」(遠藤航)

 

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