1年後に迫った北中米ワールドカップ。

 優勝を目標に掲げた森保ジャパンの支柱はキャプテン・遠藤航である。たんたんと自身のプレーをこなすように見える遠藤だが、そのキャリアのなかには、同じ時代をともに戦ったある選手の言葉が転機になっていた。

 本人の哲学がふんだんに詰まった著書であり、いまだに版を重ねる『DUEL』より秘話を紹介する。

 
本シリーズは遠藤航の著書『DUEL』よりその哲学を5日連続で紹介していくものになります。(サインスパイクプレゼント『DUEL』夏の読書感想文企画も同時開催中です!)
毎年恒例の会員向けプレゼント企画に加えまして、今年は遠藤航選手の著作『DUEL- 世界に勝つために「最適解」を探し続けろ -』の重版を記念し...続きを読む

 2016年、ホテル「ブラジル」

 この会話(編集部注:2022年の南野拓実との会話。詳しくは前章を参照)からさかのぼること6年前。

 同じようにホテルで、あのときはラウンジで、拓実と話したことがあります。

 似たシチュエーションだけど、気持ちは180度違いました。

 場所はブラジル、サルバドール。

 キャプテンとして臨んだリオデジャネイロ五輪に、僕はサッカー人生をかけていました。

 サッカーの五輪代表は、23歳以下の選手で構成されることになっています(加えて24歳以上の選手を3人まで選ぶことができるオーバーエイジ枠もあります)。

 若い選手が中心の世界的な大会であり、その活躍によっては憧れのヨーロッパでのプレーがグッと近づくチャンスともいえました。

 チームを勝利に導きたい、という思いだけでなく、活躍して海外に打って出る。22 歳の僕もまた、他の選手たちと同じようにステップアップを夢見ていました。

 けれど、結果は惨敗でした。

 グループリーグ初戦、ナイジェリア代表に4対5で打ち負けると、コロンビア戦に引き分け、自力でのグループリーグ突破の可能性がなくなります。スウェーデン代表に1対0で勝利をしたものの、1勝1敗1分で、人生を掛けた大会はたった一週間で、終焉を迎えたのでした。

前年の東アジアカップ2015にて、日本代表初出場した

 何よりショックだったのは、自身のパフォーマンスです。ボランチとして全試合に先発出場をして、ほとんど何もできなかった。また、キャプテンとしてチームをポジティブな方向に導くこともできなかった。

「限界」。

 そう感じるほどの失意だけを胸に残し、リオを去る。

 きっとそれは拓実も同じ気持ちだったと思います。すでにオーストリアの強豪クラブ・ザルツブルクでプレーしていましたが「もっとできた」と思っていたはずです。

 帰国前のホテルのラウンジで、僕が何気なく口にした言葉に拓実は強く答えました。

「いまのメンバー(リオ五輪日本代表)で、これからステップアップできる選手っているかなあ……」

「いないでしょう」

 世界のレベルを目の当たりにしたときに知った危機感から出た言葉だったと思います。

 こうした苦い経験があって、僕たちは成長をするために必要なことを常に考えるようになりました。

 五輪までの4年間、正しいと思って進んできた道に対して、「すべてをかけて」きたのに結果が出なかった。

 であるならば、もっと知らないこと、いままでやってこなかったことにトライしなければいけない──。

 世の中の常識的なこと、「正解」と言われるものに対して「本当にそうなのか?」と、一度自分の頭で疑い、考えてみる必要がありました。

「正解」を作ることは「不可能」を作ること

「ステップアップリーグへの遅い移籍」。

 僕の選択はギリギリの判断だったかもしれません。

 けれど、その後の僕は「ステップアップできている」という実感を持てています。

 ベルギーリーグのシント=トロイデンからブンデスリーガのシュツットガルトへの移籍、そのチームではキャプテンを務め、さらには二年連続「デュエル勝利数1位」を実現させてくれました。

 拓実も超ビッグクラブのリバプールへとステップアップし、いまでは日本代表の中心選手としてともに戦うようになりました。お互い、苦しい経験をしていたからこそ、カタールワールドカップ出場を決めたオーストラリア戦後の会話はとても感慨深いものがありました。

 ともにまだまだ上るべき階段はありますが、少しずつ成長できていると思います。

「正解を作らないこと」。

 ここをスタートにすることが、大きな成長のチャンスになると実感しています。

 もちろん、五大リーグでプレーをしたいと思えば、早いうちにヨーロッパでプレーすることがアドバンテージになると思います。若い選手でヨーロッパのクラブからオファーがあるのであれば、「早く行ったほうがいい」とアドバイスをします。そのくらい大きなメリットがあります。

2年連続ブンデスリーガ最多デュエル勝利数を記録した遠藤は、2023年プレミアリーグ・リバプールへのステップアップを果たした

 同時に、「遅いから成長できない、夢に近づけない理由にはならない」ということも知ってほしいと思っています。

 確かにヨーロッパのクラブへの移籍は、若年化が進んでいます。事実として、年齢が上であるほど──サッカー界でそれは「24歳の壁」と言われることがあります──移籍のチャンスは少ない。

 だからなのか、日本では「若い移籍が正解」だと捉え過ぎている気がします。

 チャンスが少ないことは、決してそれ以外の方法が「不正解」であることを意味しません。

 まだまだ僕のような選択をする人は少ないのが現実です。

 それはきっと、「何事にも正解がある」という思考から抜け出せないからだと思っています。

 サッカー界の海外移籍のように、世の中で「正解」と言われるものは、大きなメリットがあります。

 でも、それは決して唯一のものではありません。

 そうやって、「正解を作ること」は自分の可能性を狭めてしまうことです。言い換えれば「不可能を作ること」であり、本来誰もが持っている「自分の可能性」と「選択肢」を失うことでもある。

 もちろん、決断後の道は簡単なものではありませんでした。

 早くチームにフィットし、結果を残していかなければなりません。若い選手に比べれば、チャンスが少ないかもしれないし、チームの成績によってはメンバーに選ばれないことだってあります。周りの目だって厳しいでしょう。

遠藤航・著

「日本人らしさ」を覆し、世界を驚かせた男。
――強い日本人選手、誕生の裏側。

【内容】
4年前試合に出ることができずロシアW杯を去った男は、たった4年間で日本代表に欠かせないドイツでNO.1の男へと成長を遂げた。そこにあった秘密とは?「日本人はフィジカルで世界に勝てない」「ドイツ語を話せない日本人が主将を?」…常識を次々と覆した遠藤航がはじめて明かす日本が世界で勝つ思考のヒント。


 僕自身、シュツットガルトに移籍して3カ月は1分も試合に出ることができませんでした。

 ただ、デメリットばかりではなかったこともまた事実です。

「まだ未来がある、時間がある」と思っている若手選手より、大事に時間を使うことができます。そもそも多くの経験を積んでいます。自分の体についてもよく知っているし、引き出しは多いはずです。

 シント=トロイデンに移籍し、シュツットガルトへとプレーの場を移していく中で、世の中の「正解的なもの」のせいで、自分の未来に制限をかけてしまう人たちに「違う可能性もある」と示せるプレイヤーになりたいと思い始めました。

 まだ道半ばではありますが、僕が歩んだキャリアがもうひとつの選択肢になってほしい。そう思っています。

[本の詳細はこちら👉『DUEL 世界で勝つために「最適解」を探し続けろ』

 

 

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